九州のかつて炭鉱があった島で暮らす31歳小学校養護教諭麻生セイが、画家の夫と仲良く暮らしながらも、新任の教師石和聡に心惹かれていく様子を描いた恋愛小説。
セイと夫の関係は、平穏で、愛情が冷めているわけではなくむしろ心も通っているという設定。そして石和は、子供たちには一生懸命になるものの、人付き合いも悪く、特に招かれなかったから始業式に出席する必要はないと思ったというような常識に欠ける人物で、同僚の月江が不倫相手に振られるや寝てしまうという人物。セイがなぜ石和に惹かれていくのかは、理解しがたいものがあります。
夫に特に不満がないのに、むしろ夫婦仲はいいのに、しかし他の男に心を惹かれてしまう、それはロマンチックでもあり恐ろしくもあり、そういった人間の気持ちのありようを味わう作品だと思います。
同僚の月江に不倫関係を任せ、主人公のセイには不倫に走らせないことで、心のありように集中させたところが作品の質を高めたと言えるでしょう。もっとも、月江もしずかばあさんもセイの秘めた心を指摘しているのは、それが公然の秘密ということか、さらには不倫関係を暗示しているのかもしれませんが。
章タイトルが「三月」で始まり順次ほぼ1年がめぐりますが、章の冒頭が明らかに前月のできごとの当日だったりして内容とあっていない感じがします。しかも連載が「小説新潮」の2005年11月号(2005年10月発売)から開始して1年ということですから毎回5か月ずれてる(ほぼ反対の季節)のも人を食った話。
井上荒野 新潮社 2008年5月30日発行
直木賞
セイと夫の関係は、平穏で、愛情が冷めているわけではなくむしろ心も通っているという設定。そして石和は、子供たちには一生懸命になるものの、人付き合いも悪く、特に招かれなかったから始業式に出席する必要はないと思ったというような常識に欠ける人物で、同僚の月江が不倫相手に振られるや寝てしまうという人物。セイがなぜ石和に惹かれていくのかは、理解しがたいものがあります。
夫に特に不満がないのに、むしろ夫婦仲はいいのに、しかし他の男に心を惹かれてしまう、それはロマンチックでもあり恐ろしくもあり、そういった人間の気持ちのありようを味わう作品だと思います。
同僚の月江に不倫関係を任せ、主人公のセイには不倫に走らせないことで、心のありように集中させたところが作品の質を高めたと言えるでしょう。もっとも、月江もしずかばあさんもセイの秘めた心を指摘しているのは、それが公然の秘密ということか、さらには不倫関係を暗示しているのかもしれませんが。
章タイトルが「三月」で始まり順次ほぼ1年がめぐりますが、章の冒頭が明らかに前月のできごとの当日だったりして内容とあっていない感じがします。しかも連載が「小説新潮」の2005年11月号(2005年10月発売)から開始して1年ということですから毎回5か月ずれてる(ほぼ反対の季節)のも人を食った話。
井上荒野 新潮社 2008年5月30日発行
直木賞