伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

サンセット・サンライズ

2025-01-31 01:02:38 | 小説
 趣味の釣を満喫するためコロナ禍でのテレワーク導入を機に宮城県のひなびた町宇田濱の築9年未入居家具・家電完備の空き家家賃月8万円也に移住した従業員3万人の大企業シンバルの資産管理課課長代理36歳の西尾晋作が、家主の宇田濱町役場勤務で空き家対策を担当する39歳の関野百香と絡んでゆく小説。
 映画を先に観て、原作を読みましたが、原作では、映画の盛り上がったシーンの健ちゃんの芋煮会も、熊も、乱闘もなし。淡々と落ちついて進行し、しかしラストは映画ではモヤモヤしたところが原作では一般読者の期待にあっさりと応えています。原作の方がすんなり入りますが、ストーリーの起伏に乏しく地味な感じ。映画はだいぶ盛ったかなという感じです。
 映画では家賃6万円にしていたのは、都内在住以外の人が観ることを考えると家賃8万円で安いとは感じてもらえないというところでしょうか。


楡周平 講談社文庫 2024年10月16日発行(単行本は2022年1月)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

恐怖と自由 ジュディス・シュクラーのリベラリズム論と21世紀の民主制

2025-01-30 23:37:55 | 人文・社会科学系
 トランプの出現やイギリスのEU脱退(ブレグジット)を受け止められず困惑するリベラリストに対して、リベラルエリートがいかに大衆に嫌われたかを指摘し、リベラルが残虐さへの恐怖の低減を訴えたジュディス・シュクラーの「恐怖のリベラリズム」に基礎を置くべきことなどを論じた本。
 著者が右翼ポピュリズムを嫌悪しており、この本がリベラルを貶めることを目的としているのでないことは理解できますが、ではどうすべきかに関しては、虐げられた者の話をよく聞けということ以外は、私には今ひとつよくわかりませんでした。ヨーロッパの社会と政治をめぐる歴史と情勢を私がよく知らないためか、専門用語のためかあるいは訳文のためか、流し読んで頭に入ってこないというか、言っていることがなかなかストンと胸に落ちませんでした。
 私が理解できた、虐げられた者の話をよく聞けということについても、著者がフランス政府のムスリムのブルカ着用に関する姿勢を非難している(101ページ)のは、ムスリムの女性は自分が好んで着用しているのだからこれを容認しないのはおかしいというのでしょうか。著者が依拠するシュクラーの「恐怖のリベラリズム」は、インドのカースト制や毛沢東の支配体制を挙げて、「危害と屈辱を受けた、世界中の革命政府と伝統的な政府の犠牲者たちに、彼らの現状に変わる真の実現可能な別の選択肢を提供することができない限り、私たちには彼らが自らを拘束する鎖を本当に受け入れているのかどうかを知る術はない。そして彼らがそれを受け入れているという証拠はほとんどない」と批判しています(159ページ)。社会内の力関係上声を上げにくい人々に対する抑圧を外部から批判することは、私には必要で正当なことに思えます(私には、この本に掲載されているジュディス・シュクラーの「恐怖のリベラリズム」の159~160ページで言われていることはそういうことだと思えるのですが)。私の意見は、著者の言うリベラルエリートの感覚なのでしょうけれども。


原題:Furcht und Freiheit
ヤン=ヴェルナー・ミュラー 訳:古川高子
みすず書房 2024年11月1日発行(原書は2019年)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

六人の嘘つきな大学生

2025-01-29 00:47:12 | 小説
 人気新興IT企業の新人採用で5000人以上の応募者から勝ち残った6人が、最終選考のグループディスカッションの場にそれぞれの秘密を暴露する謎の封筒が置かれていることに困惑し戦々恐々としながら進めた選考と、その8年後に真相を解明しようとする試みを描いたミステリー小説。
 映画を先に観てその原作を読んだのですが、映画で描かれなかった終盤の存在が、映画を観て「犯人」と「真相」を知っていてもなお、読ませてくれると思いました。映画では、浜辺美波のイメージを守ることが優先されたのか後ろ暗さや悪い感情を見せなかった嶌衣織にも陰の部分が見られてむしろ人間味を感じましたし、何よりも就活や大企業、人事部について相対化するというかそんな大したものじゃないという描きぶりが爽快に思えます。
 総じて映画はわかりやすくまたミステリーとしての見せ方はうまくできていたと思いますが、原作の方が深みというか考えどころが多々あるなと思いました。


浅倉秋成 角川文庫 2023年6月25日発行(単行本は2021年3月)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

私にふさわしいホテル

2025-01-28 00:15:43 | 小説
 文学新人賞を受賞したものの同時受賞したアイドルの陰で出版もできずにいる作家相田大樹こと中島加代子が、大手出版社「文鋭社」の編集者となっている大学のサークルの先輩遠藤道雄を頼り、大作家東十条宗典を蹴落とし張り合い利用しながら、手段を選ばず売れっ子になろうと奮闘する姿を描いた小説。
 映画を先に観て、その原作を読んだのですが、映画ではさすがにエグいと見てか採用されなかった第6話が、評価が分かれそうですが、したたかさと哀しさに溢れ、読みどころかも。
 映画を観たとき、相田大樹改め有森樹李のペンネームで小説ばるす新人賞を受賞した中島が、翌年圧倒的な力量でその新人賞を受賞した新人の名前が有森光来なのを非難したとき、遠藤が「仕方ねえだろ。本名なんだから」と答えたシーン。さすがにこれは映画の主役がのん(本名=旧芸名能年玲奈)だということにあわせた映画オリジナルの設定と台詞と思ったのですが、なんと原作でもそうなってる(111ページ)。のんがまだ能年玲奈を芸名として使っていた2012年にもうこの事態を予期していたのか、柚木麻子恐るべし。
 作中で朝井リョウが登場してキレてわめいたり(113~118ページ)してるのは、作者の友だちなんでしょうか(宮木あや子とか南綾子とかも:106~117ページ)。


柚木麻子 扶桑社 2012年10月30日発行
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

民事訴訟 裁判官からの質問に答える技術

2025-01-27 22:20:41 | 実用書・ビジネス書
 裁判官と弁護士が、法廷や弁論準備期日で裁判官が発言/質問する場面を捉えて、民事訴訟手続のそれぞれの場面での裁判官の思考やそれに応じた弁護士の作法などを解説した本。
 書かれていることは、ふつうに裁判実務の経験があればわかることで、裁判手続の入門書的な面もないではないですが、最初の質問が「訴訟物は何ですか?」というところが、法律家以外の一般読者を拒絶しています。
 「原告第1準備書面で現れた新たな事実に対し逐一認否し、被告第1準備書面で現れた新たな事実に対し逐一認否し……という書面が続くと、裁判官としては『非常に読みにくくわかりづらい』というのが率直な感想です。」「争点との関連性に乏しい事実について争いがあるか否かを事細かに把握する実益は乏しいです。」(48ページ)と、私もよく思うのですが、長々しい書面に対しても、認否してくれと裁判官が言うこともまたあって、しかたないなぁと長々しい認否をしているのが実情かと…


中村雅人、城石惣 学陽書房 2024年5月27日発行

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

月影の乙女

2025-01-26 23:47:10 | 物語・ファンタジー・SF
 大海に浮かぶ島国ハスティアに生まれ魔力を見出された少女ジルことジオラネルがフォーリ(魔法師)となり、大公に仕えながら、攻撃的な強い魔力を持つ南の国ドリドラブの竜王と3王子らの侵略と戦う様子を描いたファンタジー。
 罪なきイリーア(魔法生物?)を害してしまったことを後悔し続け、フォーリは善きことをする、攻撃に魔法を使わないというフォーリ憲章の下、自分の力をどう使えばいいのかに悩むジルの苦悶が、切なくも哀しい読みどころです。
 久しぶりに読む乾石ワールドに浸れるのは幸福な読書体験ですが、表紙見返しの紹介が「『夜の写本師』でデビューした異世界ファンタジィの紡ぎ手が今放つ渾身の大作」って。オーリエラントの魔道師シリーズ(既刊9冊。私は4冊しか読んでないですが)の、ではなくて、デビューから14年、多数の作品を発表している作家の紹介が今なおデビュー作というのは、本人どういう気持ちなんでしょうね。


乾石智子 東京創元社 2024年10月31日発行
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

僕が死んだあの森

2025-01-19 20:42:01 | 小説
 フランスの小さな村で、なついていた犬が車にはねられ目の前で飼い主に撃ち殺されたのを見て衝撃を受けた12歳の少年アントワーヌが、事情を知らずにやってきた隣人の6歳の少年レミに手にした木の枝を振り下ろして殺害してしまい、その後行方不明のレミを捜索する騒動に怯えつつ過ごす日々を描いたサスペンス小説。
 主人公の視点から周囲の人の視線や捜索の手が近づかず遠ざかることにどこかホッとしつつ、しかし第三者の視点からそれでいいのかという思いに駆られる、その不安定な心情を読む作品かと思います。そういう点で、それにふさわしいラストだと私は思いましたが、納得できない思いを持つ読者もいるだろうなとも思います。
 舞台は最初が1999年で次が2011年。日本ならJCOの臨界事故と福島原発事故の年ですが、もちろんそういう話題は出てきません。日本の小説ならお約束のノストラダムスも…


原題:TROIS JOURS ET UNE VIE
ピエール・ルメートル 訳:橘明美
創元推理文庫 2023年10月10日発行(原書は2016年)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

遺伝子はなぜ不公平なのか?

2025-01-18 23:36:15 | 自然科学・工学系
 適者生存・自然淘汰されるはずなのに、なぜ個体の生存に不利なはずの遺伝子を持つ者が生き残っているか(著者の問題提起では、なぜ自分のように「足の遅い」遺伝子がこの世にあるのか)を、論じた本。
 仮説としてですが、弱い存在である故に集団で助け合ったホモ・サピエンスがより強者のネアンデルタール人よりも生き延びた、障害者や老人がいる集団が知恵を集めて生き延びた、障害者が一定割合いることにはきっと意味があるはずという主張には、論として魅力を感じます。
 ただ、本としては、著者が植物学者にしては、自然科学的な知識なり研究成果の記述に乏しく、哲学者の本かと思いますし、同じことの繰り返しがあまりにも多い。いつしか繰り返しのリズムで読ませる「童話」かもと思ってしまうほど。そして、今どきの本はつかみが命のはずですが、最初の方の書きぶりのスネ方あるいは開き直り方が、かなり印象が悪く、スルスル読める(ビジネス書っぽい内容の薄さということですが)にもかかわらず初期に投げたくなりました。


稲垣栄洋 朝日新書 2024年11月30日発行
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

イラストでわかる 高齢者のからだ図鑑

2025-01-17 20:50:26 | 実用書・ビジネス書
 高齢者のケア・介護をする人向けに、知っておきたい高齢者の体や動作、心の状態等の特徴(若い人との違い)を説明した本。
 「高齢者が1日ベッドで安静にすると約1~3%、1週間となると10~15%、1か月では約50%の筋力が低下すると報告されています」、「1日の寝たきりで低下した体力を戻すには、2週間のトレーニングが必要と言われています」(26ページ)とか、驚きますし、若い人は「比較的小さなバランスの崩れは足関節を中心に、それより大きな揺れは股関節、保てなくなったら一歩踏み出すステップという3つのバランス戦略を自然に使い分けています。高齢になると、足先でのバランス能力や瞬発力の低下から、足関節やステップでのバランス保持が苦手になり、股関節でバランスをとることがメインになります」→転倒しやすくなる(65ページ)とか、なるほどと思います。
 高齢者の不安とか介護者側の心理面での対応を示すPart4(138~157ページ)も、参考になりました。


kei、中島佳歩 メディカル・ケア・サービス 2024年9月10日発行

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

個人事業者・フリーランスの消費税申告

2025-01-16 22:50:31 | 実用書・ビジネス書
 消費税申告の基本と、インボイス制度、インボイスのために(仕方なく)課税事業者となった個人事業者(フリーランス)向けの消費税対応等について解説した本。
 消費税の申告は、私のような単一業種サービス業(みなし仕入れ率50%)で簡易課税事業者(2年前の売上5000万円以下)の場合、難しいことはない、はずなんですが、申告用の用紙を前にすると、いつもなんだかわからなくなって、苦手感満載でした。税務署の書類って、ほぼ無意味な書類がたくさんあって、なんでこんなもの書かなきゃならないのか疑問に思うことが多くあります。それで、一番助かったのが、簡易課税の付表(4-3と5-3)の記載例(98~99ページ)です。要するにこの欄だけ書けばいい(他の欄は記入不要)というのを、専門家にはっきりいってもらえるのが心強く思いました。
 消費税の還付は簡易課税事業者ではあり得ないと(86ページ)。確かに確定申告では仕入れ税額控除は受取税額にみなし仕入れ率をかける以上絶対にマイナスになりませんが、9月に税務署が一方的に前年消費税額の半額を中間納税させるので(まぁまじめに中間申告すればいいだけですが)売上が前年の半分以下になると、還付になります。税理士も税務署も所得税の還付制度は輸出業者と大規模な設備投資をしたとき、要するに大企業のためだけと思ってるんですね。で、この本でもそういう簡易課税事業者の還付なんて想定もしてないから解説もなし。私は一度そういう経験をして、確定申告で中間納税額を差し引くとマイナスで還付の記載をしたら、税務署から「消費税の還付申告に関する明細書」が提出されていないといわれ、同封されている用紙が輸出取引や課税資産の譲渡とか全然当てはまらない事項しかなくて、記載する事項がないんですがと電話を入れました。税務署も簡易課税用の還付の書類を用意もしていないし、わかってないですね。


吉田信康 成美堂出版 2024年12月10日発行
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする