人間の五感、経験、常識に収まる範囲を対象とし19世紀末までに完成を見たニュートン力学を基盤とした古典物理学に対して、ミクロな粒子、光速に近い運動、強い重力が働く空間、絶対零度に近い極低温、100億光年を超える深い宇宙など、見ることもさわることも、皮膚感覚では捉えることのできない、人間から遠く離れた対象を相対性理論と量子力学で記述していく現代物理学の世界を、重力-遠隔作用の不思議、真空-虚無の不思議、電子-無限小の不思議、物質-極低温の不思議、地球-知的生命体のいる不思議という5つのテーマで概説した本。
素粒子論から宇宙論までの現代物理学を、数式はあまり使わずに少し意外な切り口で説明しているところに、興味をそそられます。私は、「真空」という切り口に引き込まれました。近代物理学が誕生して以降400年の歴史の中で、真空は物質が存在しない物理的に虚無の空間と考えられていたのは1905年から1930年までの25年間だけなのだそうです(61ページ)。それ以前は宇宙空間は光を伝える媒質としての「エーテル」で満たされていると考えられていて、それ以後は真空の空間には負エネルギーの電子が充満している(負エネルギーの電子が充満する空間を例えばガンマ線で叩くと電子が飛び出しその空孔が陽電子となる)と考えられているそうです。そうすると1960年生まれの私が生まれた時には、物理学の世界では後者の考え方になっていたことになるけど、中高生の頃も、大学でも(文系だからか)そんなの教えられた覚えはなく、真空は、宇宙空間はほとんど何もない(完全な真空ではないからごくわずかの原子・分子があるだけ)と認識してきたのですが…高校の頃に相対性理論とか量子力学の入門書も読んだけど、そういう説明なかったと思います。
幅広い分野についてさまざまなことがらにいろいろなつながりを付けて説明していく話の流れに感心させられます。もっとも、最後の2つ、特に一番最後の「地球」というテーマはずいぶんページが少なくなっていて、テーマの分け方は少し無理をしたかなという気もします。
電磁気力と「弱い相互作用」「強い相互作用」の3つの力を統一的に説明する「大統一理論」の帰結となる「陽子の崩壊」を検出する実験の話で、陽子の寿命が10の30乗年以上だがそれはあくまでも平均値なので、「10の30乗個以上の陽子を用意すれば、そのうち、平均して年に一個程度は壊れる可能性があるということになる。」とされています(187ページ)。ここは、読んで愕然としました。陽子の平均寿命が10の30乗年ということが、寿命1年の陽子が1個に対して寿命2年の陽子も1個、寿命3年の陽子も1個…寿命10の30乗年の陽子も1個と、すべて1個ずつの同じ頻度で存在するというイメージなのでしょうか(仮にそう考えても10の30乗年が平均なら2×10の30乗年まで1個ずつ配分されないといけないので、陽子を10の30乗個用意しても「2年に1個程度」になるはずですが)。ふつうの数学なり物理なりをやっている人は、平均寿命が10の30乗年なら10の30乗年あたりをピークとする正規分布になってそこから離れれば離れるほど頻度は下がっていくイメージを持つと思うのですが。理論的には平均値だけじゃなくて標準偏差もわからないと正規分布でも寿命1年の陽子の割合はわからないということになりますが、平均寿命が10の30乗年ということなら寿命1年の陽子の割合は10の30乗分の1よりはるかにはるかに小さいと考えるのが常識的だと思います。こういう記述を見つけると、センスを疑ってしまい、他の説明も大丈夫かなぁと勘ぐってしまいます。
小山慶太 中公新書 2014年8月25日発行
素粒子論から宇宙論までの現代物理学を、数式はあまり使わずに少し意外な切り口で説明しているところに、興味をそそられます。私は、「真空」という切り口に引き込まれました。近代物理学が誕生して以降400年の歴史の中で、真空は物質が存在しない物理的に虚無の空間と考えられていたのは1905年から1930年までの25年間だけなのだそうです(61ページ)。それ以前は宇宙空間は光を伝える媒質としての「エーテル」で満たされていると考えられていて、それ以後は真空の空間には負エネルギーの電子が充満している(負エネルギーの電子が充満する空間を例えばガンマ線で叩くと電子が飛び出しその空孔が陽電子となる)と考えられているそうです。そうすると1960年生まれの私が生まれた時には、物理学の世界では後者の考え方になっていたことになるけど、中高生の頃も、大学でも(文系だからか)そんなの教えられた覚えはなく、真空は、宇宙空間はほとんど何もない(完全な真空ではないからごくわずかの原子・分子があるだけ)と認識してきたのですが…高校の頃に相対性理論とか量子力学の入門書も読んだけど、そういう説明なかったと思います。
幅広い分野についてさまざまなことがらにいろいろなつながりを付けて説明していく話の流れに感心させられます。もっとも、最後の2つ、特に一番最後の「地球」というテーマはずいぶんページが少なくなっていて、テーマの分け方は少し無理をしたかなという気もします。
電磁気力と「弱い相互作用」「強い相互作用」の3つの力を統一的に説明する「大統一理論」の帰結となる「陽子の崩壊」を検出する実験の話で、陽子の寿命が10の30乗年以上だがそれはあくまでも平均値なので、「10の30乗個以上の陽子を用意すれば、そのうち、平均して年に一個程度は壊れる可能性があるということになる。」とされています(187ページ)。ここは、読んで愕然としました。陽子の平均寿命が10の30乗年ということが、寿命1年の陽子が1個に対して寿命2年の陽子も1個、寿命3年の陽子も1個…寿命10の30乗年の陽子も1個と、すべて1個ずつの同じ頻度で存在するというイメージなのでしょうか(仮にそう考えても10の30乗年が平均なら2×10の30乗年まで1個ずつ配分されないといけないので、陽子を10の30乗個用意しても「2年に1個程度」になるはずですが)。ふつうの数学なり物理なりをやっている人は、平均寿命が10の30乗年なら10の30乗年あたりをピークとする正規分布になってそこから離れれば離れるほど頻度は下がっていくイメージを持つと思うのですが。理論的には平均値だけじゃなくて標準偏差もわからないと正規分布でも寿命1年の陽子の割合はわからないということになりますが、平均寿命が10の30乗年ということなら寿命1年の陽子の割合は10の30乗分の1よりはるかにはるかに小さいと考えるのが常識的だと思います。こういう記述を見つけると、センスを疑ってしまい、他の説明も大丈夫かなぁと勘ぐってしまいます。
小山慶太 中公新書 2014年8月25日発行