伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。今年も目標達成!

不動産最新判例100

2023-01-31 23:50:43 | 実用書・ビジネス書
 不動産の売買、賃貸借(建物賃貸借、土地賃貸借)、管理(マンションに関する紛争等)等についての最近5年間(2017年以降)に出された判決を紹介した本。
 紹介する判決の選択には当然に著者の好みもあり、また販売したカラーボックスにより化学物質過敏症を発症した場合の販売店(ホームセンター)の損害賠償責任(61番:259~261ページ)とか、ネットオークション参加のための資料送付を申込者が外国人であることを理由に拒否した事業者の損害賠償責任(96番:414~417ページ)など、どこが不動産についての判例なんだと思うものもあります(不動産業者でもシックハウス症候群や外国人差別は問題になり得るからねということではありましょうけど)が、弁護士にとっては、日頃あまり考えなかったことも含めさまざまな問題を考える契機となり、そして何より自分が知らないところでこんな新しい判決が出てるんだと認識することは、とても勉強になります。
 正反対の結論の判決があるときに、両者が事案の違いでうまく説明できるのか、裁判官の価値観の違いに帰せられるのかとか、判決の判断に影響を及ぼしたと思われる事実関係、責任が認められたとしてどの程度の損害賠償が認められたのか、その損害の内容と算定など、説明している場合もありますが、もう少し踏み込んで欲しいなと思うこともあります。
 事案の概要、裁判所の判断、解説という構成が取られていて、裁判所の判断と解説で同じことが繰り返されているところが多々あります。読んでいるときに、繰り返されることで重要な判断が頭に残りやすいとか整理されるという効果もあるとは思いますが、私には、冗長感というか、その紙幅を上で述べているような点の掘り下げに当ててくれたらという思いが残りました。


渡辺晋 日本加除出版 2022年9月21日発行
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その名を暴け #MeTooに火をつけたジャーナリストたちの闘い

2023-01-29 20:37:14 | ノンフィクション
 #MeToo運動拡大の転機となったハリウッドの大物プロデューサーハーヴェイ・ワインスタインのセクハラ告発記事を書いたニューヨーク・タイムズの記者2名による取材の経緯と記事掲載後の反響等を記したノンフィクション。
 私にとっては、示談(記者の目からはもみ消し)の過程で弁護士が果たした役割についての記述が読みどころとなりました。
 記者の取材と被害者の告発の最大の障害となった口外禁止条項は、私の弁護士実務感覚では、例えば労働事件で和解するときに会社側からたいてい求められ、多くの場合労働者側も受け入れるものですが、違反したときのペナルティまで定めることはなく(会社側がペナルティの条項を求めることも稀にありますが、私は応じたことはありません)、それほどの圧力にはならないものです。しかし、ここで紹介されている契約条項では、被害者が所持しているすべての証拠を開示するとか、他の被害者への協力を禁止する、証言を求める召喚状が来たら連絡する(134ページ)、取材には決して応じない(135ページ)、「示談書は狡猾にできていて、被害者に告発をさせないよう縛り、もし口外したら相当な経済的損失を被るという重荷を課している」(149ページ)、「ふたりとも尋常ならざる制約を受け入れることになった」(164ページ)、(他の者によって)「真実が公表された場合でも、その真実を隠蔽することを求められていた」(166ページ)などとされ(実際の条項はもっとすごく込み入ったものと想像しますが)、富裕者側・加害者側の弁護士が被害者を抑え込むべく知恵を絞っているようすが窺われます。
 トランプの告発者たちの代理人となったフェミニスト弁護士グロリア・オールレッドに対しても、「オールレッドは被害女性に声を上げさせるということで評判が高かったが、その一方で、被害女性の口を封じ、性的嫌がらせや虐待の訴えを退けるためにひそかに示談に持ち込むこともしていて、それが彼女の収入源になっていた」(187ページ)という意地の悪い見方がなされているのはともかく、その娘の弁護士リサ・ブルームが、ワインスタインに対して、自分は大勢のセクハラ被害者(と称して金を要求する者)の代理人を務めてきたので、そういう人からあなたを救い出せるなどという手紙を書いていた(240~247ページ)というのには驚きました。いくら何でもそんなことするものでしょうか。


原題:SHE SAID
ジョディ・カンター、ミーガン・トゥーイー 訳:古川美登里
新潮文庫 2022年5月1日発行(単行本は2020年7月、原書は2019年)
 
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知っておきたい地球科学 ビッグバンから大地変動まで

2023-01-27 20:45:00 | 自然科学・工学系
 太陽系・地球の誕生とその後の変化、海流・大気の動きなどと気象・気候の変動、地下資源、地震・津波・火山の噴火等のテーマについて、基礎的な解説をした本。
 「週刊エコノミスト」連載のコラムを元に加筆修正した(「おわりに」でそのように紹介されています)ということで、説明が短い文章で区切られていて、内容的にはわかりやすく読みやすい(つなぎ等でダブっている感じが煩わしくもありますが)反面、記述の流れが一本通った感じではなく散漫な印象もあります。
 「地球が温暖化しているのは、『温室効果』の機能を持つ二酸化炭素(CO2)が増えたからではないか、という議論がある」(95ページ)という記述(それも1つの仮説に過ぎないというニュアンス)に象徴的に見られるように、二酸化炭素削減を重視・優先することに反対したい/懐疑的な立場の人に参考になる/好ましいことがらが多数紹介されています。「実は、大気中の二酸化炭素濃度は、地球内部での炭素(C)の循環や、大気と海洋の間での炭素のやりとりなど、複雑な相互作用によって決まっている。二酸化炭素濃度を議論する際には欠かせない理解だが、あまり多くの人には知られていない」「産業革命以来、人間の活動によって大量の二酸化炭素が放出されたが、地球システム全体で見れば、炭素循環による影響の方がはるかに大きい」(95~96ページ)、「近年の地球温暖化は、人為的な気温上昇によるとする見方が多いが、実は気温変化には太陽の距離などはるかに大きな要素が作用している」(109ページ)、「太陽の表面に表れる黒点の変化は、人為的な温暖化よりもはるかに大きな影響を地球環境に与えてきた」(112ページ)、「地球温暖化が世界中の喫緊の課題となっているが、地球上ではそれをはるかに上回る寒冷化現象がときどき起こる。歴史を振り返ると、大規模な火山噴火が気温低下を引き起こし、地球温暖化に一定のブレーキをかけた事例がある」(112ページ)、「二〇世紀はそれ以前の世紀と比べて巨大噴火がほとんどなかった。すなわち、大噴火による気温低下がなかったため、二〇世紀後半の温暖化が顕在化した可能性も否定できない。このように現在、世界で問題となっている温暖化は、一回の大噴火による急激な寒冷化で状況が一気に変わるかもしれない」(117ページ)といった具合。
 地球科学者は「例外や想定外に出会ってもうろたえない」「知的な強靱さ」を持つと自負している(67ページ)あたり、逞しいというか、打たれ強いのでしょうけれども。
 「近年ドイツの再保険会社が、世界主要都市の自然災害の危険度ランキングを発表したが、東京と横浜がダントツ(七一〇ポイント)で次点以下のサンフランシスコ(一六七ポイント)やロサンゼルス(一〇〇ポイント)を大差で引き離した」(197~198ページ)とか。そこまで言われると、脱出を考えたくなりますね。(調べてみたらミュンヘン再保険会社の2002年のレポート(こちら=IPCCのサイトで入手可能:34ページ参照)のようですので、目新しいトピックではないようですが)


鎌田浩毅 岩波新書 2022年11月18日発行
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諦めない女

2023-01-25 21:53:13 | 小説
 35歳独身子なしで仕事にあぶれてお金に困っているフリーライター飯塚桃子が、世間が注目する題材を取材して書くために、スーパーの前で目を離した隙に小学1年生の娘沙恵が行方不明となり警察が公開捜査に踏み切ったものの手掛かりが得られないまま、娘のことを待ち続け家事も放棄し離婚されてアルコールに溺れながら娘の情報を求めるチラシを配り続けた母京子に、取材申込みの手紙を書き続け、京子から承諾の返事をもらって、関係者から話を聞き続けるという小説。
 沙恵の事件の真相とその後をめぐるミステリーとなっているのですが、むしろ自分の飯のタネのために他人の過去と心情に踏み込み聞き漁りながら、自分のことは棚に上げつつ関係者に対して非難の目を向ける飯塚の姿勢を描くことで、マスメディアあるいはライター稼業の業を論じているのかなと思いました。同時に取材を進めるうちに関係者への思い入れも生じてきて書けなくなっていき思い悩む姿も、ライターとしての悩みを示しているのでしょう。編集長が飯塚に対して「飯塚さんもフツーの人間だったなぁと思ってさ。企画をもってきた時はただの野獣のようだったから。」「フツー、ノンフィクションの企画をもって来る人って、こんな可哀想な人がいてとか、こんな酷い事件があってとか言うんだわ。だが飯塚さんは違ったから。あなたの開口一番は、売れるネタを手に入れましただったからね。人間としてどうよって思うが、ノンフィクションライターとしては大事な資質なんだよ、それ」「しかし、あまりに客観的で冷淡なのもダメなんだよ。新聞記事を読んで感動するか?」「本として出すなら感動させないと」「取材対象者への愛情がゼロかと思っていたから、ちょっとはあるんだと知ってホッとした」(237ページ)と言うのに、フリーライター経験者の作者の照れと自戒を感じました。
 ラスト1行に小さなひねりがあります。これがカチッと嵌まる人もいると思いますが、私はちょっと外している感じを持ちました。


桂望実 光文社文庫 2020年10月20日発行(単行本は2017年4月)
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世界を支えるすごい数学 CGから気候変動まで

2023-01-24 21:39:59 | 自然科学・工学系
 数学が、さまざまな領域で、当初その理論や手法が導き出された動機や経緯からはかけ離れた分野で応用されていることを紹介した本。
 著者の思いは、原題にも表れている物理学者ユージーン・ウィグナーが1959年にニューヨーク大学で行った「自然科学における数学の不合理な有効性」という講演に触発されて、数学者が導き出した概念がその由来とはまったくかけ離れた分野で応用されている「不合理な有効性」の事例を紹介することにあります(13~15ページ)。しかし、翻訳書であるこの本は、タイトルでも表紙見返しでも、その数学概念や手法が生み出された経緯との関係は無視して、とにかく数学はさまざまな分野で役に立っている、日常生活に有用なあれもこれも数学のおかげだという印象を与えるようにされています。
 訳者あとがきで「平たい文章でひもといてくれている。高等数学の知識はいっさい前提としていない」としています(330ページ)。冗談じゃない。微分方程式や偏微分、フーリエ変換とかを「高等数学」とは受け止めないで、それくらい鼻歌まじりに読める人にはそうなのかもしれませんが、文系の身には最後まで読み通すのはかなりの苦行に思え、かなり久しぶりに、途中で放り出すことを何度も考えました。第5章で、私がこれまで何度読んでもわからないRSA暗号の説明があり、この機会に理解できるかとちょっと期待しましたが、やっぱり全然理解できませんでした。
 自動運転車の技術とそれを支える機械学習について説明しているところで、人間には正しく認識できるのにコンピュータはとてつもなく間違えるように意図的に手が加えられた画像「敵対的サンプル」という問題があり、80ページに掲載されているどう見ても猫の写真画像に数ピクセル加工しているだけの画像(人間がいくら睨んでも違いは認識できない)をコンピュータは「ワカモレ」(アボガドのディップ)だと確信する(それも加工前の猫の画像は88%の自信度で猫だと判断するのに、加工後の写真は99%ワカモレに間違いないと判断する)とされています。その応用によりテロリストが道路標識に小さなテープを貼るだけで「止まれ」の標識を最高時速100kmの標識とコンピュータが誤って認識するように仕向けられかねないというのです(83ページ)。私にとっては、この本でそこがいちばんの驚き・収穫でした。


原題:WHAT'S THE USE ? : The Unreasonable Effectiveness of Mathematics
イアン・スチュアート 訳:水谷淳
河出書房新社 2022年10月30日発行(原書は2021年)
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尿もれ、頻尿、前立腺の本 名医が教える尿の悩みを根本から治す方法

2023-01-22 22:43:46 | 実用書・ビジネス書
 尿漏れや夜間頻尿、前立腺肥大や前立腺がん等の泌尿器系のトラブル・病気について説明した本。
 「頻尿は、朝起きてから夜寝るまでのおしっこが8回以上と定義されています。夜の間に起きてトイレに行くことが1回以上あると『夜間頻尿』と呼ばれます」(14ページ)としつつ、「頻尿や尿漏れはれっきとした病気です』(13ページ)と言い切っています。それで「日本排尿機能学会の調査によると、40歳以上で昼間の頻尿がある人は、約3300万人、夜間頻尿がある人は約4500万人と推測されています」(14ページ)というのです。私も当てはまりますので、「れっきとした病気です」と言われるとドキッとしますが、40歳以上人口の57%もの人にある症状(夜間頻尿)を「病気です」というのはいかがなものでしょうか。医者の営業のために水増しされた基準・記述のように思えてしまいます。
 夜間頻尿を減らすために、夕方以降はカフェインを含む緑茶や紅茶、コーヒーはなるべく控え、野菜サラダや果物も夕食時以降はたくさん食べるな(朝、昼に飲食するように)というのです(83~85ページ)が…う~ん、酒を止めるのよりも難しい気がする。


髙橋悟ほか監修 日経BP 2022年9月20日発行
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宙ごはん

2023-01-21 22:49:18 | 小説
 母親の川瀬花野が育てられないからと、叔母の日坂風海に育てられていた川瀬宙が、小学生となったのを機に、シンガポールに転勤した叔母夫婦の手を離れて、部屋にこもりきりで絵を描き続ける花野と暮らすことになり、花野の中学からの後輩で今も花野に思いを寄せる料理人佐伯恭弘にご飯を作ってもらい、料理を教えてもらいながら、さまざまな人間関係のもつれをみていくというお話を、宙が保育園年長~小学1年生、小学6年生、中学3年生、高校2年生、高校3年生のときについて綴った短編連作。
 時を空けた連作にすることで、同じ人についても違った面が見えてくる、その人自身が変化する、子どもの頃は知らなかったことがわかる、といったことが感じられ、物語と宙の思い・考えに膨らみが出てきます。家族のことについて、大人が子どもに知らせない、見せまいとしたことから、知らずにいたこと、誤解していたことがあり、人が諍い、和解して行く様は、現実の世界で、弁護士としては特に相続争いの原因となる兄弟姉妹等への恨み・妬み・仲違いとしてよく立ち現れます。話し合っても理解が進まないことも多くなかなかに難しい問題です。
 この作品では、難しい状態に追いつめられた者に料理を作り食べさせて心をほぐしていくというシーンが要となり、美味しいものを食べると幸せな気持ちになるということが、重要なコンセプトとなっています。現実の世界でも、そうあってくれればいいと思うのですが。
 私は、自分の娘が生まれたときに「宙」という名前をつけようとした(カミさんと意見が合わず諦めた)ことから、宙という娘が主人公のこの作品を読んだのですが、さまざまな家族の困難な設定と、美味しいものを食べて心を和ませる幸福感に、思っていたよりも深さを感じ満足しました。


町田そのこ 小学館 2022年6月1日発行
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ディズニーランドvsユニバーサル・スタジオ サービス業の強化書!

2023-01-20 23:00:11 | 実用書・ビジネス書
 東京ディズニーランドに3000回以上、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンに300回以上は通っているという「テーマパーク研究家」を名乗る著者が、両者のビジネスモデルを比較検討した本。
 「強化書」としているのは、サービス業のコンサルタントである著者が、単純にまねるのではなく、両テーマパークのビジネスのあり方からヒントを得てサービスを高める(強化する)ために応用しましょうという趣旨かと思います。特に明示されてはいませんが。
 17項目中11番の「待ち時間で『期待』を最高潮にする東京ディズニーランドvs待ち時間でマネタイズするユニバーサル・スタジオ・ジャパン」(136~142ページ)は、一面で正しく、客にとっては不満・疑問に思えることをビジネスとして賞賛(ヨイショ)する典型となっています。東京ディズニーランドが、行列させる場所にそのアトラクションのストーリーを感じさせる展示物を配置していることはそのとおりですが、長蛇の列があるときにそれを見ることで期待を最高潮にするというのは、運営サイドはそれを願っているとしても並んでいる客にとってはかなり非現実的です。ユニバーサル・スタジオ・ジャパンは、行列・待ち時間が苦痛であることを前提に(それ自体は基本放置しつつ:むしろ客が少ないときは間引き運行して行列をあえて作らせて)並ばずに入れるパスを高額で(入場料並みないしそれより高かったりする)売りつける、金を払えば横入りし放題、追い越されて悔しかったら金を払えというやり方に徹しています。私は、そういうやり方自体がサービスのあり方として疑問に思っていて、これを賞賛する気持ちにはとてもなりませんが、これはそういう目線の本なのだと割り切って読むべきでしょう。
 あえて比較対照するために強引に書いているきらいもありますが、まぁそういう感じはあるよねとは思える本です。


加賀屋克美 ビジネス社 2022年5月1日発行
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HEALTH RULES 病気のリスクを劇的に下げる健康習慣

2023-01-19 23:27:46 | 自然科学・工学系
 UCLA(カリフォルニア大学ロサンジェルス校)准教授の著者が、信頼性の高い手法でなされた研究の査読論文に基づいて、各種の健康法などの生活習慣について病気になる確率を下げる効果があるかどうかを解説するという本。
 メタボ健診による健康増進効果はゼロ、もしくはあったとしても極めて小さい(91ページ)、日本にいま存在している病院や医師のランキングで信頼できるものはない(175ページ)などと言い切っているのは清々しい。後者については、著者はアメリカで医師の治療成績を評価することを専門領域の1つとしているが、アメリカでは医師のデータベースがありさまざまな情報が開示されているので客観的な評価ができるが日本では医師の情報まで「個人情報」だとされて秘匿されているために客観的な評価ができないと指摘しています(174~183ページ)。裁判関係の情報についても顕著ですが、日本とアメリカの情報公開制度の違いは、本当に対照的というほど(天と地ほど)です。日本の制度にもいい点もあるのですが、時々立ち止まって考えた方がいいと思います。
 1日1杯程度の少量のアルコールの場合、心筋梗塞や糖尿病のリスクが低いことと、乳がんや結核(そしてアルコールに関連した交通事故や外傷)のリスクが高いことが打ち消し合って、病気のリスクは変わらないとされています(102ページ)。要するに何の危険を想定するかによって評価は変わってくるということなんですね。タバコの場合は、「紙巻きタバコの受動喫煙がどれほど有害なのかに関しては十分すぎるエビデンスがある」(110ページ)、加熱式タバコの受動喫煙の健康への影響は、発売開始からまだ7年でほとんど研究が行われていない(研究の多くはタバコ会社が資金提供しているもの)ためまだあまりわかっていない(115~116ページ)とされています。その加熱式タバコは、世界最初に名古屋で2014年に発売され、アメリカでは2019年にようやく販売許可が出たのだそうです。企業に甘い日本の行政は、日本人を企業の健康実験と販売戦略のモルモットにしていると言えるかも知れませんね。
 エビデンスによって最善と評価された治療が標準治療で、標準治療には保険がきく、保険がきかない自由治療は、まだ効果や副作用が科学的に検証されていないもので、効くかもしれないが効かないかもしれない治療法に過ぎない(130~134ページ)というのは、突き放した見方とも言えますが冷静な指摘と言えましょう。サプリメントの大多数は期待されたような効果を得られていない(167ページ)も、同じですね。効果が確認されたら医薬品等として販売するはずですしね。
 もっとも、はじめにで、査読論文の根拠にこだわる姿勢を強調していますが、書かれていることすべてに査読論文の裏付けがあるということではなさそうです。たとえば、睡眠の質で量を補うことはできないとされている(23ページ)とかは裏付けとなる実験研究が引用されていませんし、それについての客観的で信頼できる実験が行われているということもなさそうです。また、タイトルの病気のリスクを「劇的に」下げる(カギ括弧内の「劇的に」が青色に着色されています)は、いかがなものかと思います。書かれていることの大半は病気になる確率を少し下げることができるということで、私の目にはこれをやれば病気のリスクを「劇的に」下げることができるというものは見当たりませんでしたが。


津川友介 集英社 2022年1月30日発行
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はてなの国際法

2023-01-18 20:09:44 | 人文・社会科学系
 国際法について、15のテーマに分けて説明した概説書。
 京都産業大学法学部の学者2名の共著なんですが、一方は日本政府の公式見解に依拠して日本の国益を重視あるいは強く意識した論調で、しばしば韓国や中国を非難する記述をし、もう一方は日本政府の姿勢に対しても疑問を呈する(技能実習生:82ページ、難民認定:84ページ、入管の収容:同、死刑廃止勧告に対する態度:93ページ、96ページ、人権条約の通報制度への未加入:94ページ、捕鯨に関する姿勢:156~157ページ、夫婦別姓に対する姿勢:159ページ)といった具合で、違いが目に付きます。「はしがき」で、2人で書いているのに「筆者一同」としているのは、そういうことも意識して一体性を強調しているのでしょうか。
 国連職員の労働事件は、使用者である国連やその機関が裁判権免除を得ているから日本で裁判しても却下される、その裁判はニューヨーク、ジュネーブ、ナイロビにある国連紛争裁判所に申し立てろ(125~126ページ)って。米軍の職員は日本政府相手に裁判すればいいようですが。う~ん、やっぱり国際関係の事件は、私には手に負えんな。


岩本誠吾、戸田五郎 晃洋書房 2022年10月30日発行
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