伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

「不道徳」恋愛講座

2007-10-28 07:36:30 | エッセイ
 中年の視点で恋愛とか人づきあいとかについて書かれたエッセイ集。
 タイトルにあるような不道徳な話はほとんどなくて、恋愛テーマの普通のエッセイです。週刊誌の連載が元なので話は切れ切れで通し読みよりは細切れ時間の暇つぶし向き。
 中年の視点なので、少しは気を遣い、でも無理せずに、人には寛容にというようなところが基本線で、そのあたり気楽に読めます。パンダ・コアラ理論(パンダは笹しか食べない、コアラはユーカリしか食べないのに太っている/努力しても太る人は太る)(94頁、197頁)とか、こういう開きなおりは中年ならばこそ。中年の自分を自覚して若ぶらない(若いカッコしても似合わない、若い恋人と一緒でも似合わない)とか(141~143頁)はちょっと厳しいですが。


島村洋子 中公新書ラクレ 2007年9月10日発行
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集客のルール

2007-10-27 08:44:30 | 実用書・ビジネス書
 店舗販売を想定して客を集めるための「ルール」というよりは「アイディア集」的なビジネス書。
 1項目見開き2頁なので突っ込んだ内容はありませんが、コンビニの立ち読み客は雑誌コーナーを窓側に配置することでサクラの役割を勝手に果たしてくれるとか、毎日先着10人に大サービスをするとそこで利益が出なくても毎日10人は開店前から行列ができ看板代わりになってくれるとか(136~137頁)、へ~っと思うこともいくつかありました。
 全体に広告・クチコミ・リピーターが集客の基本としつつ、売上にどれだけつながるかというコスト意識を強調していて事業者側の視点からは実践的に思えます。
 インターネットのブログで金でサクラブログを買う(182~183頁)とかいうのは、哀しいですけど・・・


岡本士郎 明日香出版社 2007年9月30日発行
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事故と安全の心理学

2007-10-26 00:57:46 | 人文・社会科学系
 交通事故と医療事故を例に認知心理学の立場から事故に至るヒューマンエラーが発生する過程と事故防止のための対策について論じた本。
 人間の視力の感度がいいのは注視点から角度でわずか2度程度(130頁)で近距離を注視しているときから遠距離への切替に時間がかかり例えばカーナビを見るとき見ようとした時点から前方への注意が劣化し5秒くらいはその影響がある(144~150頁)とか、医療機器のデザインが専門家が使うというイメージからヒューマンエラー防止の配慮が少ない(174~177頁)など、主目的の交通事故と医療事故についてはいろいろと勉強になりました。
 しかし、研究者の共著にありがちですが(私も最近同じ出版社から出た心理・臨床の人たちとの共同執筆本に書いてますから他人のことは言えませんが)、執筆者の関心があちこちを向いていて読者としてはスッとは読みにくい。
 それとこの本全体を通じて、原発はヒューマンエラー防止の措置が完璧であるかのような記載が何度か見られ、原発については運転者のミスを防ぐ観点からの原稿はなく、原発の安全性についての市民の「誤解」を解くための説得の試みの原稿が入っています(第2章)。このあたり、リスクとヒューマンエラーというサブタイトルやこの本のテーマからはかなりの違和感を覚えました。原発については運転者のヒューマンエラーのリスクはなく危険だと思う市民がヒューマンエラーだとでも言いたいのでしょうか。第2章だけでなく他にも原発ではヒューマンエラーを防ぐ仕組みが講じられているという記載が何度か見られることからすると編著者の意向なのだと思います。そういうのを見ていると心理学というものが国策を市民に対して説得するための御用学問になりうることの危険性を再認識させる本とも言えそうです。


三浦利章、原田悦子編著 東京大学出版会 2007年8月31日発行
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グローイング・ジュニア

2007-10-22 06:06:49 | 小説
 中年のサラリーマンが中2の時に離れた故郷の村にそれ以来没交渉だった父親の葬儀のために帰り、マセガキだった小学生時代に女性器を見たくてたまらずあれこれ画策したことや親友との交友や衝突、憧れていた同級生などのことを思い出し、最後に長らく会っていなかった親友と酒を酌み交わすというストーリーの青春ヰタ・セクスアリス小説。
 主人公が父親の葬儀に日頃話もしない中2の息子を連れてきたが葬儀の途中にぷいと出て行ってしまい、息子との携帯電話での会話の現在と過去の想い出を並行させて進めていますが、これが今ひとつ。息子との現在は、結局ストーリーに大きな影響もないし、過去の想い出だけで進めた方がスッキリしたかも。
 小4の夏休み、女性器を見るための画策に親友を騙してあれこれ引っ張り回した挙げ句に、幼いと思っていた親友がホステスとつきあっていたというどんでん返しがありますが、その親友とホステスが主人公が村を出る中2の頃までどうなったのかは語られないし、中2で村を出ることになった事件は一番最初から思わせぶりに触れられ一番最後になってやっと語られますが、予想とは違いますが、ずっと追ってきたテーマやストーリーとは関係なく唐突で、ストーリーとしてはどうも収まりが悪い感じがします。
 中年男の小学生時代の想い出と友情、思うに任せぬが不幸でもない現状、まあ人生そんなものだねってふわっと読む作品ですね。


内山安雄 講談社 2007年7月10日発行
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山下バッティングセンター

2007-10-21 12:56:27 | 小説
 元野球部の学生2人が都市伝説サイトで紹介された地方の山林の中にあるというプロ並みの速球を投げる生身のピッチャーの球を打てる伝説のバッティングセンターを探し訪ねるというストーリーの小説。
 後半に「腎臓1つ賭けた」30球勝負がありクライマックスを迎え、その後その伝説のピッチャーの半生をめぐるやりとりが続き、それが間延びして、ちょっとしまりのない展開。
 前半の主人公たちのプロフィールも含めて、野球が好きで、でもプロになれるほどでもないけどやめられない人たちのゆるい賛歌というところです。


曽我部敦史 メディアファクトリー 2007年9月7日発行
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ランナー

2007-10-20 18:05:20 | 小説
 長距離ランナーの男子高校生加納碧李(あおい:読めません、ふつう)と、血のつながらない6歳の妹杏樹、杏樹を虐待しつつ虐待してしまう自分にとまどい悩む母千賀子、陸上部の監督に恋心を寄せるマネージャー前藤杏子、故障して陸上をあきらめる友人久遠らの人間関係と揺れる思いを描いた青春ほろ苦小説。
 主人公や舞台が陸上部であることは、碧李の走る喜びと試合への恐怖・葛藤をサブテーマとしている点で意味がありますが、小説の中ではかなり副次的な位置づけ。別のスポーツと換えても書けそうな感じがします。作者の代表作/出世作「バッテリー」を読み通した読者ならみんな予想するでしょうから言ってしまいますが、やはり、陸上の試合のシーンは最初の失敗に終わった大会以外は一度も出てきません。普通、スポーツをテーマにした小説なら負けたあとに挫折→再起のきっかけ→猛練習→試合での一定の成果と流れて試合場面で読者のカタルシスが図られるわけですが、そういうシーンはついぞありません。「バッテリー」のようにライバルとの対決を予告しながらそれを引っ張り続け(信じられないくらい引っ張ります)、にもかかわらずあのラストシーン・・・ということではありませんし、「バッテリー」でそれをされたから読む前から大会で勝つシーンはないと予測していましたが、予測していても拍子抜けしてしまいます。
 タイトルに惑わされずに、これはスポーツ小説ではなく、児童虐待・家族関係を中心とする人間関係ドラマなんだと割り切って読むべきでしょう。スポーツ小説ではないと言い聞かせながらならば、碧李と久遠のキャラクターの対比、杏子の大人びつつ秘めた思いなどの造形に味わいがあり、そこそこ楽しめます。


あさのあつこ 幻冬舎 2007年6月25日発行
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労働CSR入門

2007-10-19 22:37:52 | 人文・社会科学系
 企業の社会的責任の一環として公正な労働条件(主として労働者の団結権、奴隷的労働・児童労働の禁止)を守っていることを要求し、それを取引・商品購入の前提とし、そのために民間の認証機関の認証を求める動きについて論じた本。
 著者はこの動きに対して、民間認証機関がアメリカの団体でありアメリカ政府が支援していることから、途上国に対してのみ厳しくなる基本的人権に名を借りた保護主義のツールではないかと警戒するよう指摘しています。労働条件に関する規制については、アメリカもホワイトカラーイグザンプション(残業時間無制限)とか社会保険とかかなりひどいと思いますが、企業に要求する基準はILO条約の基本権部分に限定して「先進国」は困らないようにしているそうです。そういう面、著者の主張にも頷ける点があります。
 しかし、途上国での多国籍企業や昨今の日本のように使用者側がやりたい放題で政府の規制が効いていないとき、欧米の企業の経済戦略によってでも、労働者の労働条件を改善できるのであれば、それほど敵視する必要もないのではないかとも思います。
 著者が元ILO職員であるためでしょうけど、ILOの条約が、妥協の産物である部分も含めて最善で、ILO条約の実質的な内容や解釈はILOしかできないという姿勢には疑問を感じますし、ILOの組織防衛を優先している感じがします。ましてやアジアの(人権の)独自性を言い、アメリカの企業にイニシァティブを取られる前に日本版の民間認証機関を作り(そこには自分のような学者を参加させ)アジアの企業を防衛しようというような提言に至っては、労働者の権利の擁護水準の低さを守り経営側の利益を守ろうと言っているようでとても嫌な感じがします。


吾郷眞一 講談社現代新書 2007年8月20日発行
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破壊事故 失敗知識の活用

2007-10-19 00:45:03 | 自然科学・工学系
 工場や発電所、航空機・船舶等での破壊事故例を検討して分析した本。
 具体例に則して書かれているのと、「後日談」「よもやま話」など少しさばけた記述があるので、専門書としてはわりと読みやすいといえます。それでも内容は素人向けに噛み砕いてはいないので、素人にはそこそこの工学の知識とかなりの興味がないとハードルが高い。あと全く同じ文章が切り貼りされて2回出てくるところが目につくのが辟易します。
 読み通せれば、用語解説とか「知識化」とかコラムが勉強になります。亀裂が入ったときには引っ張り強さの高い材料の方が破壊強度が低くなるのが普通(35頁)とか、近年製鋼技術が向上した結果耐食成分が材料規格の下限ギリギリに制御されたステンレス鋼が市販材のほとんどを占めており昔の材料より耐食性が低くなっている(155~156頁)とか、大変参考になりました。
 しかし、編著者自身が原子力発電所関係の審議会とかに入っているせいか、原子力発電所関係のところでは構えたというか安全を強調する記載に終始する傾向があるのは残念。特に最後の統計のところで1996年から2000年の5年間の事故報告を取りあげて平均発生率は極めて小さいといえる(273頁)などというのはかなりアンフェア。この本自体が前半で取りあげているようにその時期に大半の原発で炉心シュラウドや再循環系配管といった原子炉の枢要部に極めて多数の割れが発見されながら報告せずに隠していたことが2002年に発覚しています。それを紹介せずに隠さずに報告された氷山の一角の件数を示して発生率が極めて小さいって、ほとんど詐欺。こういうことをすると、少なくとも原発関係の記述は客観的な技術屋の視点ではなく政治的なバイアスがかかっていると読まざるを得なくなります。
 事故調査の解析と結論が「わが国では、例外なく主原因は複数となり、材料は必ず主原因の1つにあげられる。これは、破壊事故の社会的責任をあいまいにし、機器のユーザー、メーカーと材料メーカーに責任を分散するという、わが国独自の風土に基づいている。」(145頁)とか、「原子力発電所における応力腐食割れとの戦いは、相手の材料を変えて永遠に続くのである。」(153頁)とか、原子力にまさに当てはまるなかなか興味深い指摘もあるのですが。


小林英男編著 共立出版 2007年8月10日発行
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日雇い派遣

2007-10-18 09:07:02 | ノンフィクション
 労働者派遣業法で禁じられていないということでまかり通る「登録型派遣」が対象業種の緩和で製造業も原則OKとなったことで肉体労働の「日雇い派遣」が盛んになっている現状をレポートしたノンフィクション。
 派遣というと何か聞こえがいいけど、山谷や釜ヶ崎で手配師が行っていた人足集めが登録型派遣と携帯電話で行われるようになっただけ。派遣対象外の建設現場や警備業務への派遣や、派遣会社が2つ以上介在する2重派遣など法律違反が横行し(19~21頁、31頁など)、派遣会社のスタッフも現実の業務内容を把握していないから仕事の内容も行ってみなければよくわからないとか話が違うこともままある(例えば91~94頁)とか全くの素人に避難誘導の業務を指示したり(98~99頁)いかにも無責任な現場の状況がよくわかります。
 日雇い派遣最大手のグッドウィルでは日給がランクによって異なり5ポイントで降格する仕組みで、当日連絡した上での欠勤が4ポイントの上に次回勤務時の交通費1000円自己負担だそうです(85頁)。事実上の罰金だし、体調が悪くても無理して働けということですね。
 1日数千円のペイから200円のデータ装備費(グッドウィル)、250円の業務管理費(フルキャスト)を控除する派遣会社の強欲ぶり。問題になるとフルキャストは全額返還することになったのに、グッドウィルは会長が全額返すと記者会見で言ったのに実際には全く返還しない(128~144頁)という話も驚きます。
 労働者派遣業法ができたときから悪くするとこうなると言われていた通りの(それよりも悪い)事態がやはり現実化しているわけです。政治家・官僚がやるべき仕事は、労働の規制緩和ではなく、こういう悪辣な事業の禁止だと思うのですが。


派遣ユニオン 旬報社 2007年9月10日発行
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偽装雇用

2007-10-16 09:33:58 | ノンフィクション
 製造業(メーカーの工場)に派遣された派遣労働者たちの実情と労働組合「ガテン系連帯」の闘いをレポートしたノンフィクション。
 元々労働者派遣事業は正社員を非正規雇用で代替するリスクがあるために専門性のある職種だけで認められたものを、経営側の要求で拡大されてきて、製造業も原則OKにして最後の歯止めとして同一派遣先で1年(現在はさらに緩和されて3年)を超えると直接雇用を申し入れなければならないとされています。現状は、当初の危惧通り(さらに言えばそれを超えて)企業は儲けているのに人件費削減のための正社員のリストラ・非正規雇用による代替をどんどん進めています。
 この本では、企業がさらにその最後の歯止めをもかいくぐってやりたい放題をしている様がレポートされています。政府・官僚・経営側の願望の「労働ビッグバン」の実態がよくわかります。
 1年を超えて派遣労働者を使うために契約上は派遣ではなく出向としていた日野自動車、1年たったら労働条件も労務管理も派遣の時と全く変わらないまま(派遣会社が委託を受けて労務管理をしているとか)で契約上は直接雇用にした上で数ヶ月で雇い止めにしていた日立製作所。実に姑息なやり口。労働条件の実情とかけ離れた広告や工場の売店で5000円で買える作業服を8000円で有償貸与していた派遣会社フルキャスト。
 こういう企業相手に小規模組合のガテン系連帯が団体交渉を重ね少しずつでも成果を勝ち取っていく様が、読んでいて少し心地よい。


大谷拓朗 旬報社 2007年9月10日発行
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