森林総合研究所の研究員の著者が、小笠原諸島の無人島などでの野外調査や標本調査その他の調査研究や鳥類学の知識について書いたエッセイ集。
無人島の調査、火山の噴火で溶岩が流入してできた既存の生物がいない地域の調査についての説明が、いちばん興味深く読めました。調査の困難さがわかり、学者の執念、好奇心と功名心が感じられます。
外来種のガビチョウが日本の森林で野生化したのを知り競合するのはウグイスだと睨んで「ガビチョウは若干目つきが悪く顔が恐い。そんな鳥が日本のソウルバードに悪影響を与える可能性がある。これは由々しき事態だ。私はこのことを強く訴えて研究費をいただき、マスコミを通して勧善懲悪的な普及啓発を行った。『日本の在来種に悪影響を与える外来鳥類を許してはならない!』」(176ページ)って。いや、あなた、ウグイス、嫌いじゃなかったか?「3 最近ウグイスが気にくわない」ってタイトルで「私はウグイスと仲が悪い」って書いてるんだが(35ページ)。研究費のためならそこは関係なくなるのか、全然説明がない…
研究発表の会議の効用について、未発表の最新成果や調査時の工夫など論文のみでは得られない情報に触れられる、他分野の研究に触れることで新たなアイディアが得られることが挙げられています(221ページ)。さまざまな人が集まって議論する機会には、同じように通じるものがあります。「よく聞くとツッコミどころ満載の発表も少なくない」(222ページ)とも書かれていますが。
まじめな研究の話ですが、かなりコミカルに書かれていて(ちょっと濃すぎるかも知れませんし、感性によりズレてる、滑ってると感じるかも知れませんが)、親しみやすい本になっています。サブカルの引用が多数なされていて、ドラえもんとルパン3世は多数回明示的に引用されています。解説で著者の愛読者はと思いながら読み進めていたら終盤に入りその答が記されていた、アイドルはナウシカでしたかとされている(277ページ)のですが、この本は、「小学生時代に『風の谷のナウシカ』に感動し」(250ページ)に至る前に、「青き衣をまとって金色の野に降り立ってくれれば見つけやすいのだが」(48ページ)でマルセリーノの唄が脳内で響く読者を期待しているのでは?
もっとも、そういった明示されない引用がどこまでわかるかは、読者の世代とオタク度にかかっていて、私は、「御蔵島のオオミズナギドリは、ドブネズミを背中に乗せて空を飛びイタチのノロイに挑んだ」(207ページ)は、見たときに当然何かのアニメだろうとは思いましたけど、わかりませんでした(「ガンバの冒険」らしい。私は見なかったのでしりません)。

川上和人 新潮文庫 2020年7月1日発行(単行本は2017年4月)
無人島の調査、火山の噴火で溶岩が流入してできた既存の生物がいない地域の調査についての説明が、いちばん興味深く読めました。調査の困難さがわかり、学者の執念、好奇心と功名心が感じられます。
外来種のガビチョウが日本の森林で野生化したのを知り競合するのはウグイスだと睨んで「ガビチョウは若干目つきが悪く顔が恐い。そんな鳥が日本のソウルバードに悪影響を与える可能性がある。これは由々しき事態だ。私はこのことを強く訴えて研究費をいただき、マスコミを通して勧善懲悪的な普及啓発を行った。『日本の在来種に悪影響を与える外来鳥類を許してはならない!』」(176ページ)って。いや、あなた、ウグイス、嫌いじゃなかったか?「3 最近ウグイスが気にくわない」ってタイトルで「私はウグイスと仲が悪い」って書いてるんだが(35ページ)。研究費のためならそこは関係なくなるのか、全然説明がない…
研究発表の会議の効用について、未発表の最新成果や調査時の工夫など論文のみでは得られない情報に触れられる、他分野の研究に触れることで新たなアイディアが得られることが挙げられています(221ページ)。さまざまな人が集まって議論する機会には、同じように通じるものがあります。「よく聞くとツッコミどころ満載の発表も少なくない」(222ページ)とも書かれていますが。
まじめな研究の話ですが、かなりコミカルに書かれていて(ちょっと濃すぎるかも知れませんし、感性によりズレてる、滑ってると感じるかも知れませんが)、親しみやすい本になっています。サブカルの引用が多数なされていて、ドラえもんとルパン3世は多数回明示的に引用されています。解説で著者の愛読者はと思いながら読み進めていたら終盤に入りその答が記されていた、アイドルはナウシカでしたかとされている(277ページ)のですが、この本は、「小学生時代に『風の谷のナウシカ』に感動し」(250ページ)に至る前に、「青き衣をまとって金色の野に降り立ってくれれば見つけやすいのだが」(48ページ)でマルセリーノの唄が脳内で響く読者を期待しているのでは?
もっとも、そういった明示されない引用がどこまでわかるかは、読者の世代とオタク度にかかっていて、私は、「御蔵島のオオミズナギドリは、ドブネズミを背中に乗せて空を飛びイタチのノロイに挑んだ」(207ページ)は、見たときに当然何かのアニメだろうとは思いましたけど、わかりませんでした(「ガンバの冒険」らしい。私は見なかったのでしりません)。

川上和人 新潮文庫 2020年7月1日発行(単行本は2017年4月)