伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

厳重に監視された列車

2012-10-31 19:58:38 | 小説
 ナチスの敗色が深まる1945年のナチス支配下のチェコを舞台にナチスの支配に反発する駅員たちがナチスの軍命の「厳戒輸送列車」を厳重に監視して(チェコ語では厳戒輸送列車と厳重に監視された列車は同じ言葉だそうな)爆破する様子を描いた小説。
 理論武装した、あるいは確信を持ったパルチザンではなく、駅長事務室で女性とセックスし、一緒に夜間勤務していた車掌と没収遊びをしてパンティも没収した挙げ句に尻に公印をべたべた押して懲戒されるフビチカ(チェコ語で口づけの意味だそうです)操車員や、恋人の車掌マーシャがソファに潜り込んできたときに萎えてしまってそれを苦にリストカットしマーシャから明後日に来てと誘われて女性を見るとセックスのやり方を教えて欲しいと言い募る童貞のフルマ(チェコ語で女性器の意味だそうです)見習員という普通(?)の若者があっさりと爆破計画を引き受け遂行するというというところに、誰もが反発を感じレジスタンスに参加したことを読み込ませようとしていることが感じられます。レジスタンス側のモラルの低さと読むことも可能ですが、たぶん作者の意図はそちらではないでしょう。
 敵兵たちもそれぞれに故郷で待つ人がいることに思いをはせつつ、侵略してこなければこういうことをする必要もなかったのにというメッセージが送られ、そこが落としどころになっています。やるせない気持ちになりますが。
 一文が長く、訳文で普通なら切って句点を打つところを読点でつないでいることが多く、読んでいて原文が一文なら訳文も一文にすることにこだわっているのだと感じられます。訳者あとがきを見ると、それでも訳文では適宜調整した部分があるとされていますが。


原題:OSTRE SLEDOVANE VLAKY
ボフミル・フラバル 訳:飯島周
松籟社 2012年9月14日発行 (原書は1965年)
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からまる帯

2012-10-30 23:08:57 | 小説
 入社2年目の宮沢衣里歌が、48歳の局長江崎との不倫に溺れつつ、恋人の大野との関係に物足りなさを感じ、大野は江崎の妻泉美と不倫の関係になるという官能小説。
 全編のほとんど、たぶん8割くらいが濡れ場。ただただHし続ける小説で、48歳の江崎って絶倫とか、そういう感想しか出て来ません。
 主人公の衣里歌が、自分は江崎との不倫に酔いしれ江崎の自宅でさえ妻の目を盗んで関係を持ちながら、江崎と妻のHを覗き見て嫉妬にもだえたり、大野が江崎の妻とHするのを覗き見て「人の恋人と知りながら、その目を盗んで男に跨がる泉美に虫酸が走った」(220ページ)というのはあまりにジコチュウだと、私は思うんですが。不倫にひた走る当事者の感覚はそんなものなんでしょうかねぇ。
 江崎とのHで子宮を刺激されて感極まった衣里歌は、それは江崎のような長大なイチモツでなければかなわぬ技で、大野とのHでは「いくら腰を密着させても大野の棹は掠りもしない」(72ページ)と不満だったはずですが、終盤では「一気に子宮まで押し込まれ」(242ページ)悶絶しています。大野クン急成長?


吉沢華 幻冬舎アウトロー文庫 2011年12月10日発行
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恋都の狐さん

2012-10-30 21:13:01 | 小説
 彼氏いない歴=年齢の女子大生が、節分に東大寺二月堂の豆まきで出会った着流しに狐の面をかぶった謎の青年と年上の美女揚羽のコンビと引退した元医者の飯田さんと奈良の街で度々で会いながら、謎の狐さんに心惹かれていく恋愛小説。
 マジックが上手で大道芸で稼ぐこともできるがわがままで博学のようでどこか抜けたところがあり引きこもり気味の狐とさっぱりした性格でなにかと狐の世話を焼く揚羽のコンビの正体を一つの謎とするミステリーの体裁ですが、軽めの文体で顔も見たことがない狐さんに思いを寄せる主人公のドタバタっぽい心情描写が続き、実質的にはコミカル系の恋愛小説+奈良の観光・行事案内として読んだ方がよさそうです。


北夏輝 講談社 2012年2月15日発行
メフィスト賞受賞
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キノコの教え

2012-10-29 19:48:46 | 自然科学・工学系
 キノコについてのさまざまな解説をした本。
 植物の大半はキノコやカビと共生していて根毛では入り込めない隙間に菌根菌の菌糸が入り込んで水分やミネラルを吸収して植物に送っていること、最近増えている松枯れは大気汚染や土壌汚染によるものと見た方がよく松と共生する菌類が増殖しやすいように下草や落ち葉を掃除した上で炭を撒くことで樹勢回復することが多いこと、大豆栽培で炭に肥料を少量混ぜて撒くと驚くほど根粒がついて収量も化学肥料とを与えた場合と変わらなくなりこれは大発見だと思ったが調べてみると元禄時代の農業全書にその教えが記載されており本来は古くからの農民の知恵であったことなど、興味深く読めました。
 食べられるキノコかどうかの見分け方については、色も「茎が裂けるかどうか」も当てにならず、「ルールがないのが唯一のルール」だとか。
 少し話が細切れであちこちに飛ぶ感じがすること、最後はキノコのことではなくやや観念的な現代文明・政治批判でまとめられていることで、ちょっと読みにくくなっているかなと思います。「災害に強いマツ林を造るためには、できるだけ小さな苗を植えて、マツが自力で根をはり、菌根を保ち続けるようにしなければならない。大きなものを植えた方が、人の目には立派に映るが、かならず枯れるだろう」(183ページ)とかいう批判は実践的な知識を伴うもので納得ものですけど。


小川眞 岩波新書 2012年4月20日発行
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武曲

2012-10-28 19:58:51 | 小説
 幼い頃から殺人刀と言われ真剣勝負を言う父矢田部将造に防具も着けずに木刀での地稽古でしごき続けられて父親の剣道に反発し剣道は殺し合いじゃないと言い続ける剣道5段の矢田部研吾が、父親と木刀で立ち会って頭を叩き割り植物状態にして、アルコール中毒になった後に、師匠となる僧光邑雪峯8段に見いだされて高校の剣道部のコーチをするうち、部員が駅での小競り合いの怨みから勝負を挑んだ元陸上部現帰宅部の高2羽田融の自己流の古武道ふうの立ち会いを見てその素質を感じ、剣を通して通じ合っていく剣道小説。
 剣の世界の描写には引き込まれるものがありますが、将造と研吾のかつての「巨人の星」をも超える大時代的なスパルタ親子関係の陰惨さ、研吾がアルコールに逃げ溺れる姿など、重苦しい叙述が多く、読んでいて暗い気持ちになります。
 また羽田融については、特に練習したこともないのに天才的な剣の使い手扱いで重めの物語にしては軽い設定がそぐわない感じが残り、さほど獰猛な性格ではないむしろ軽めのタイプなのに後半は将造が乗り移ったかのような殺人刀に走るという描かれ方にも違和感というか作り手の迷いまたはブレを感じました。


藤沢周 文藝春秋 2012年5月25日発行
「文學界」2009年6月号~2011年9月号連載
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空中都市

2012-10-27 20:21:30 | 小説
 かつてフィギュアスケート選手だった39歳の可奈子が、自分の人生は自分で決める一人で何でもできると啖呵を切ってその実思いを寄せる映画助監督の使い走りの21歳男の気を引きたくて高校には行かないと言い張っている中3の娘晴海をニューヨークで置き去りにして、スケート選手時代の恋人流との想い出をたどって単身ペルーに旅行するという設定の恋愛・ペルー紀行小説。
 可奈子サイドと晴海サイドを交互に書いて進行していきますが、おじさんにはいかにも未熟でさほど誠実でもない寺内に晴海が夢中になる様子の危うさは「ふ~ん、そういうもんかね」としか感じにくく、可奈子のペルー旅行中心の展開で晴海の恋はおまけくらいに思えます。
 あとがきによれば、この作品は、作者のデビュー作「ガラスの森」(1992年)の続編「ふれていたい」(2006年。2009年の文庫本化の際に「はだしで海へ」と改題)の続編で完結編なのだそうです。10代の可奈子と流の物語を読んでいないためか、切れ切れに触れられる流は少し像が結びにくく、可奈子がペルーそしてマチュピチュを訪れた目的・きっかけとラストの関係にはちょっとそれでいいのかと疑問というか違和感を感じました。この作品だけ読む限りでは、むしろペルー紀行が書きたかったのかもと思ってしまいます。


小手鞠るい 角川春樹事務所 2012年2月8日発行
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煙とサクランボ

2012-10-26 20:03:43 | 小説
 幽霊を見抜くことができるバーテン柳井が経営するバーの常連客の幽霊炭津と兼業漫画家立石晴奈の、晴奈の幼い頃に起こった自宅の放火事件をめぐる「立石家の謎」の解明に向けたミステリーと淡い恋愛感情を並行させた小説。
 幽霊は、心残りがあればこの世で漂い、その人物が死んでいることを知っている人には見えないが、それ以外の人には普通の人のように見える、軽い物は持つことができ、煙草は吸えるが飲食はできないという設定で、この設定がストーリーの展開にうまく絡められています。
 晴奈のおじさま世代の炭津に対する淡い恋心とそれを受け入れられない炭津のダンディズムが、おじさん読者には切なく、そういう世代がターゲットの作品かと思います(「小説宝石」だし・・・)。
 連載の単行本化で前提が繰り返されるところを含めちょっとくどさが気になりました。


松尾由美 光文社 2011年11月20日発行
「小説宝石」2010年9月号~2011年8月号連載
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ハチミツ

2012-10-13 19:35:08 | 小説
 さして2枚目でもなくだらしなく約束が守れずビックリするほど大金持ちでもないけど絶えず新しい女性と関係を持ち続けるモテモテのエコノミストのお父さんと、いずれも母親が違う料理好きで芯が強い17歳高校2年生の杏、美人で男に誘われると断れず次々と肉体関係を持ってしまう気配りが苦手で女性の友達ができないうっかり者の27歳の派遣社員改め大手飲料メーカー広報の環、有能でまわりから頼りにされてしまう37歳の大手通信会社勤務のキャリアウーマン澪の3姉妹が同居するという設定で、3姉妹の恋愛と家族愛を描いた小説。
 さして2枚目でもないけど女性にモテモテのお父さん、料理上手のしっかりした女子高生杏に思いを寄せられる無精ヒゲが残りくたびれたスーツを着ている英語の倉田先生、澪とホテルで不倫を楽しむ白髪のたくさん交じった会社の上層部の男と、中高年男性の願望にマッチする登場人物というか展開が見られるのは、女性を描いている形でもターゲットは中高年男性というところでしょう。澪が環に嫉妬を感じるとか、澪が愛人の津川にしてやられるというあたりも、女性の視点よりも男性の願望に奉仕してる感じがしますし。
 父親がまったくわからない子を孕み学生時代からゼミの男子学生全員と肉体関係があったし避妊しないことも多かったとかそんなのは序の口だと口走る環をめぐって、産むべきじゃないという野地とそれを聞いた上で引き受けることにした香川の対比部分は、男性読者向けじゃないかもしれませんが。
 そういいながらも、しっかり者の高校2年生の杏の倉田先生への思いや父親との関係に、高2の娘を持つ私としては、萌えてしまいました。


橋本紡 新潮社 2012年6月20日発行
 
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まちがい

2012-10-12 00:19:55 | 小説
 経営危機に陥ったエステチェーンの経営者芹沢秋声が大学時代の知人榊原大悟から支援の条件として榊原が妻と離婚して若い愛人と結婚できるよう妻の冬を誘惑して榊原との別れを決意させることを求められ、最初は躊躇していた芹沢が冬にのめり込み、その後思い直した榊原との間で対立するという設定の恋愛小説。
 男性作家で40近い男性芹沢の視点で書かれていることもあり、のめり込みながらも迷う歯切れの悪さと男のプライドが前に立つ印象です。芹沢の側では、誘惑し肉体関係を持ち将来を誓い合うことにはあっさり成功したものの、その後も夫と肉体関係を持ち、大悟からは婚姻中のそれ以外の男との関係を示唆され、さらにはその後も他の男と肉体関係を持ったと見られる冬の態度への嫉妬・憤慨にもだえ苦しむ様が繰り返し描かれます。このようなパターンでは、冬は「魔性の女」として描かれ、とりわけ芹沢があまりにも短期間に冬のことをよく知らないうちにのめり込み会社経営まで捨て去る決意をしたことを、熱に浮かされたあやまちとされるのが通常だと思います。タイトルもそういうものですし。普通の読者なら元カノで別れを言い渡されたにもかかわらず会社で右腕として支え続け芹沢が冬を選んだことを知ってもなお芹沢を思い続ける早苗とよりを戻すのが芹沢のベストチョイスと読むところでしょう。私もどう見てもそうだと思います。それをそう描かないところがこの作品の新しさだと思います。好きになるのに理屈はいらない、好きになっちゃったらもう仕方ないじゃないってだけですけど。「恋は期待をするもの、でも愛は期待をしちゃいけないもの」(60ページ)という言葉に殉じて愛を選ぶわけですが、ちょっと観念的に過ぎて上滑りしてる感じがぬぐえないなぁ。
 最初は冬を誘惑する不純な動機への罪悪感、次は愛してしまった冬への猜疑心とその男性関係への嫉妬、大悟への対抗心とそれを支えるプライド・意地と、モテモテ男が美女に囲まれる展開を書きながらずっと重苦しさが続き、大悟の思い直しとかアルゼンチン編は連載で気が変わったような唐突感がにじみ、読後感はいまいち。


辻仁成 集英社 2012年1月10日発行
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泣くほどの恋じゃない

2012-10-11 00:37:19 | 小説
 29歳バツイチの学習塾教師有島凪子が元生徒の父親黒木陽介との間で2年半にわたって続けた不倫の日々と陽介がいない夜に自分の心を落ち着かせるために手紙を書き始めそれから小説を書き始めて作家になるまでを描いた恋愛小説。
 電話の声に一目惚れし、柔らかなカーディガンに触りたい欲求から決意が崩れてゆく恋の始まりはロマンティックで、そういうこともあるのかなと思わせてくれます。また前半の一途に恋し狂おしくも無邪気に逢瀬を楽しみ陽介を繰り返し求める凪子の姿は、おじさん世代にはうらやましく微笑ましいといえますが、何よりも夢のような話。破綻する後半も陽介や妻と凪子の間での修羅場もなく、不倫の話としては男の側に都合よすぎる展開。こういうことをあわせて考えてみると、47歳の妻子ある男が容姿や財力等の描写なく18歳年下の女性から恋い焦がれられるという設定は、ごく普通のさして取り柄もない少女が学園一の人気者から愛されるという少女漫画の典型と同じで、中年男の読者が幻想・妄想を持って作品に入れるように計算したものと考えるべきなのでしょうね。
 タイトルの「泣くほどの恋じゃない」は、会えない夜が寂しいと泣く凪子に対して陽介が明日の朝にはまた会えるのに泣くほどのこととちゃうやんかとなだめ、後日凪子があれは泣くほどの恋じゃなかった、世にも幸せな恋だったと振り返っていることに由来しています。でも、世にも幸せな恋は「泣くような恋じゃない」ならわかりますけど、「泣くほどの恋じゃない」っていうのはかなり違和感があります。恋愛小説であればこそ、恋する心情のニュアンスには気を遣って欲しいと思うのですが。


小手鞠るい 原書房 2012年3月16日発行
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