伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。今年も目標達成!

私たちの世代は

2024-01-31 22:07:33 | 小説
 コロナ禍のために小学3年生になってすぐ休校・オンライン授業となり、「夜の仕事」をしているシングルマザーとともに分散登校が始まってもずっと休んでいる同級生がネグレクトされていることに気づいて定期的にパンや飲み物を届けるようになった冴と、友だちと近づくこともしゃべることもできない分散登校時に机の中に小さな紙の切れ端で手紙をやりとりした見知らぬ相手との約束に希望を見出した心晴のその後15年を描き、コロナ禍で失ったもの、得たものに思いをはせる青春小説。
 作者らしいほんわりとした温かい読み味は予想通り期待通りですが、この作品では、母親、特に冴の母があっけらかんとしてカッコいいところが印象的です。同級生から母親が夜の仕事をしていると蔑まれた冴から仕事について聞かれても自慢げにかっこいい仕事だのお給料がいいだのと答え常に前向きの姿勢で、なんといっても子どもに対し「ママは冴がいて最高に幸せ」「私は冴のこと驚異的に大好きだもんね」とか愛情を露わにしています。貧しくてもこんな母親と一緒だと子どもは幸せだろうと思います。他方、父親は、冴の父はおらず、心晴の父はいいとこなしで心晴に蔑まれたまま。おっさん読者にはそこはちょっと哀しいですが。


瀬尾まいこ 文藝春秋 2023年7月25日発行

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

つよがりの君に、僕は何度だって会いにいく

2024-01-30 22:20:14 | 小説
 シングルマザーの母が仕事を増やして懸命に働くのをよそに有名デザイナーによる制服がおしゃれな私立高校に通う高1の未森ひなたが、裕福ではない同級生芽依が富裕層のグループリーダー莉々子からかわいそうと言われてお弁当のおかずを恵まれたり買ったが気に入らないヘアアクセサリーをプレゼントされ(押しつけられ)たりしているのに対し、見下すようでよくないと意見したのを機に仲間はずれにされ、1学期終盤にしてもう死にたいと考えながら日々を送っているのを、小学生のときはひ弱だったが今や人気者になっていた幼なじみの加賀谷柊太が救おうとしきりに誘い…という学園青春小説。
 学校でのいじめ問題をテーマにしながら、親も教師も全然出てこず(気がつかず)、生徒間だけで展開していくのは、現実的なんだか非現実的なんだか…もっとも、これほどてらいもなく2人の世界に入れるのなら、この際、周囲の同級生たちがどうであっても、もう構わないような気もするのですが。


此見えこ 角川文庫 2023年12月25日発行
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

哀れなるものたち

2024-01-29 00:01:46 | 小説
 外科医の父の薫陶を受けたゴドウィン・バクスターが1881年に入水自殺した妊婦の遺体にその胎児の脳を移植して蘇生させてテラスハウス内に住まわせていたベラ・バクスターをゴドウィンのうちで見初めて婚約したゴドウィンの大学の同級生だった王立診療所顧問医師アーチボールド・マッキャンドレスが、性に目覚めたベラがアーチボールドが体に触ってくれない、抱きしめても振りほどかれたという不満を持ったこともあってベラに放蕩者の弁護士ダンカンと駆け落ちされてしまいゴドウィンと2人でやきもきしながらベラの帰りを待ち…という本を1909年に出版し、それにベラが事実と違うと述べる1914年8月1日付の手紙がつけられたものが、1970年代に郷土史博物館の職員に発見され、1990年になって作者の元に送られてきたという体裁の小説。
 大人の体を持ちつつ幼児の心を持つベラの言動を通じて、メインテーマとして、子どもでも、不道徳と評価されても、自分のこと、自分の体のことは自分が決めたいという自己決定権のアピール、サブテーマとして貧困・差別・虐待問題への素朴な正義感が語られる作品です。
 ただ、そういう意図を持つ作品でありながら、「頭蓋が小さいために中国人は英語をなかなか学べない」(189ページ)など、国籍・民族での偏見が散見されます。
 バクスターのうちで飼われている切断縫合された2羽のウサギの名前がモプシーとフロプシー(いわずと知れた「ピーターラビット」のピーターの妹3羽のうち2羽の名前)なんです(29ページ等)が、この2羽オスとメス(29ページ。372ページでは「交接している」のですし)なので、それならピーターとカトンテールにすべきじゃないかと… (@_@)


原題:POOR THINGS
アラスター・グレイ 訳:高橋和久
早川書房 2008年1月25日発行(原作は1992年)
ウィットブレッド賞、ガーディアン小説賞受賞作
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

独禁法講義〔第10版〕

2024-01-28 18:58:08 | 人文・社会科学系
 独占禁止法(競争法)の教科書。
 独禁法の構成・条文(名称も)が歴史的経緯から実態・実情に即していないという立場から、国際的な競争法の枠組みを意識し、共通の要件等はまとめる、条文や表向きの説明にないことでも現実にはそう考えた方が説明できることは説明するとして、著者から見て理論的な構成を試みています。おそらくは、それは独禁法という法律や公正取引委員会の姿勢を学ぶのに適しているのだと思いますが、私が事件に即してものを考えることが仕事がら習い性になっていることから裁判や審決等についてもう少し事案を具体的に説明して欲しいと感じることに加えて、法律や公正取引委員会の「不公正な取引方法(一般指定)」の条文がほとんど説明なしに「2条9項○号」とか「一般指定○項」と書かれていて、その内容を理解していることを当然の前提として記述が進んでいくのに難渋しました。六法等の資料を横に置いてその都度参照しながら、学習するという、まさに大学の学生のように読むことが予定されていて、これだけで通読するのはかなり厳しい。もちろん、法律の条文を紹介しても難しい印象が増すだけで、またそれを省略しているからこれだけ薄い本にできるのですが…
 庶民の弁護士としての私の関心からは、これから公正取引委員会の活躍を期待したい中小企業・庶民・消費者いじめを防ぐ領域の「優越的地位濫用行為」と「下請法」の解説が合わせて16ページ(203ページ~218ページ)しかないのも残念です。
 実例の解説が少なく理論重視という点については、著者自身意識しているらしく、サッカーにたとえれば実務家がFWで、そのために理論を作る学者は絶妙なパスを出すMFだと、最後(249ページ~251ページ)に述べています。私にとっては、学生の頃はこういう教科書を(六法を脇に置いて)苦もなく読めたはずなのに、もうこういう教科書を読むのは難しくなっているなぁという感慨が大きな本でした。


白石忠志 有斐閣 2023年2月15日発行(初版は1997年10月5日)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

競争の番人

2024-01-27 19:19:05 | 小説
 父の後を追って警察官になりたかったが母に止められて公正取引委員会の審査官となった白熊楓が、談合事案の調査で事情聴取した工事発注担当の市役所職員に自殺され、苦手な上司の下に転属となり、チームに配属された苦手なバリバリのエリートと組まされ、婚約中の彼氏との仲も暗雲が広がりという中で、失敗を重ねながら調査を進めていくお仕事小説。
 正義と弱者を守る仕事だが世間に知られていない弱小官庁の公正取引委員会を紹介するという趣が強いですが、作品としては情に流されやすく不器用で運がない主人公の、成長を描くないしは誠実にやっていればいつかは報われるさ的なヒューマンドラマと受け止めた方がいいでしょう。
 16歳で公認会計士試験、20歳で司法試験に合格し、東大法学部を首席で卒業し国家公務員試験も1位という超エリートの小勝負勉のありえない記憶力がストーリーの肝になっているのが、どうかと思いますが、エンタメですのでそういうものと受け止めておきましょう。
 公正取引委員会の仕事の大切さをアピールする作品を読んだので、独禁法(どっきん❤ほう)の勉強をしてみようと、ずっと積ん読していたものにチャレンジしたのですが…→次は「独禁法講義」


新川帆立 講談社 2022年5月9日発行
「小説現代」連載
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

去年の雪

2024-01-26 00:54:16 | 小説
 多数の人々(死者やさらには人間以外のものも含む)の生活の断片を紡いだ実験的な小説。
 109名+猫1匹+それ+別のそれを話者(視点者)とする1ページから6ページのエピソード123編が続いています。次々と話者・登場人物が変わっていくのを、最初のうちは、通常の群像劇のように、数組出たらまた最初の人たちの続きが出てくるかと思って読んでいたのですが、ときにそのエピソード内の別の登場人物が話者となることがあっても、それが繰り返されるというのでもなく、全然別の新しい話者が登場し続け、段々とこれは何なのだろうと不審に思います。そう思ったところで、68ページで初めて同じ話者(柳)が2回目に登場し、ようやく普通のパターンになるかと思うとそうでもなかったりします。作者の中では何らかの規則や流れがあるのかもしれませんが、読む側には最後まで規則性が感じられずに、オチもつけられないままに終わったという印象です。
 同じ話者の話は、過去の時代(平安時代とも江戸時代とも…)の柳(27~29ページ、68~70ページ、119~124ページ、240~244ページ)、綾(88~90ページ、131~134ページ)、勢喜(107~109ページ、170~173ページ)、加代(230~233ページ、259~261ページ)、死者の霊の市岡謙人(5ページ、138~140ページ、190~191ページ、261~263ページ)、佐々木泰三(75~78ページ、138ページ、217~220ページ)があるだけで、現在を生きている者は重ねて話者にはならないというルールがあるのかもしれません。他方で、猫や何者かもわからない「それ」が話者となり、死者の霊が語り、異なる時代のエピソード間で音が交信したりものが移動するというパラレルワールドなのかテレポーテーションなのかという事態も特段の説明なく登場します。そういうことからすると、むしろ作者の思いつくままの自由な語りを、規則性を詮索することなく受け入れるというのが、たぶん正しい読み方なのでしょう。
 通常のストーリーのある小説ではないということを受け入れてしまえば、作者の語り口の巧みさと感性から、不快感は特になく読める、不思議な読み味の作品です。


江國香織 角川書店 2020年2月28日発行
「小説野性時代」連載

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

仕事は辞めない!働く×介護両立の教科書

2024-01-24 21:26:15 | 実用書・ビジネス書
 仕事をしている人が、家族が要介護状態になったときに仕事を辞めずに介護態勢を整えるための制度や情報収集等について解説する本。
 職場の介護休業制度は、仕事を休んで親の介護をするために使うのではなく、仕事と介護の両立体制を組むために利用するもの(25ページ、150ページ)、介護にかける時間は平日2時間、休日5時間まででこれを上回ると継続が辛くなるのでプロの手を借りるなど何らかの調整が必要(32ページ)というのは、なるほどです。
 認知症患者は身近な人に対してより強い反応が現れる傾向があり、できごとは忘れても感情は残るので何かイヤなことをされた、止められたという気持ちだけが残りしこりが残る、家族は元気だった頃のことを覚えているので症状を受け入れられずに叱ったり非難してしまうので、認知症患者を家族が介護するのは専門職より難しい(107~110ページ)というのも、そうなのでしょう。それを仕事にしている(それで商売している)人からもっと利用してねと言われることには警戒心は持たざるを得ないのですが。
 高齢者の場合元気な人でも10日間入院すると7年分年をとったのと同じだけ骨格筋が失われる、ある訪問診療事業者のデータでは高齢者の入院原因の約半分が肺炎と骨折で、肺炎での入院患者の約3割が入院中に死亡、退院できた人の要介護度は平均1.7悪化、骨折で入院した患者の1割弱が合併症で死亡、退院できた人の要介護度は平均1.5悪化したそうです。そして、高齢者の転倒の約4割は薬が関係していると言われていて飲んでいる薬の数が5種類を超えると転倒のリスクが有意に上がるとされています(195~202ページ)。ここ、一般的には医師の営業上の利益に反することを医師が書いていることでもあり、注目しておきたいですね。


日経クロスウーマン編、木場猛、佐々木裕子 日経BP 2023年9月19日発行

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

著作権のツボとコツがゼッタイにわかる本

2024-01-23 23:29:09 | 実用書・ビジネス書
 著作権について、ウェブサイトやSNSで発信する場合の問題を、文章の形態、写真・画像の形態、音楽・動画の形態に分けて解説した本。
 近時問題となりそうな場面を扱っていて参考になる本です。
 他方で、法律実務家によるQ&A形式の本ではありがちなことではありますが、類似のQが多々あり、著作権法の概念として「複製」と評価できるであろう同文ないしほぼ同文の説明が多数回見られ、通読すると、またこれ言ってるという印象を何度も持ちます。加えて、各Qの末尾に用語解説と法律の条文が掲載されているものが多いのですが、これがまた同じ用語や同じ条文の繰り返しが多く、なんか、これでページの水増ししてない?と疑ってしまいます。用語の解説では丸々1ページを超える「クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CCライセンス)」の6項目の説明が本文で1回(226~227ページ)、項目末尾の用語解説で3回(65~67ページ、91~92ページ、169~170ページ)、1つの条文で丸1ページ近い面積をとる著作権法30条の2の条文掲載が4回(117~118ページ、131~132ページ、148~149ページ、186~187ページ)など、目に付きます。(この記事も、そういうつまらない指摘で水増ししてると言われるかも…(-_-;)


三坂和也、井髙将斗 秀和システム 2023年11月6日発行

※私の個人的見解として、現在のWeb環境において書籍の紹介・批評をする記事を掲載するに当たって、対象となる書籍を(記事の)読者に直感させるには表紙の写真を掲載することが合理的であり、書籍名と著者、発行日の記載で十分であるとするのは現在のWeb上の読者に不親切に過ぎる見解であると考えます。そして書籍の紹介・批評の記事に表紙の写真を掲載するのは、表紙自体の装丁を紹介する趣旨ではなく、あくまでも対象書籍を直感的に認識させることに目的があるのですから写真が表紙の一部であったとしてもそのこと(一部であること)は写真上一見して明らかなものですからそれが表紙の著作者の著作者人格権を侵害するということではない(それが著作者人格権侵害になるのなら、表紙の写真を掲載するときには表紙の著作者の氏名表示も必要になるはず)と考えます。以上から、現在のWeb環境において書籍の紹介・批評をする記事に対象書籍の表紙の写真(全体であれ一部であれ)を掲載することは、公正な慣行に合致し、目的上正当な範囲内の引用であると考えます。(この本の58ページ、59ページの見解に対するアンチテーゼとして)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

家庭用安心坑夫

2024-01-22 22:47:36 | 小説
 東京でテレワーク中の夫と2人暮らしの専業主婦で時折ネットで依頼があるお買い物代行をしにデパート等へ出かけている藤田小波が、幼い頃母からあの人がお父さんよと言われていたマインランド尾去沢の坑夫人形ツトムを行く先々で目にするようになり、止める夫を振り切って廃屋となっている実家に向かうが…という展開の小説。
 捨ててきた過去とどう向き合うか、という系統の作品ですが、小波側のエピソードなり心象風景なり妄想なりはよいとして、挟まれている尾去沢ツトム側のエピソードがどう関係するのか、ずっと見えず、読み終わってもそこがストンと落ちないままというのがフラストレーションとして残ります。


小砂川チト 講談社 2022年7月7日発行
群像新人文学賞受賞作
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

まだ終わらないで、文化祭

2024-01-21 15:06:54 | 小説
 学校側の計画にないサプライズを生徒がしでかす伝統がある八津丘高校文化祭で、2年前に生徒がハプニングのために組み立てた机が崩れて教師が負傷しその動画がSNSで拡散して炎上したため前年は学校側が厳しく取り締まり何事も起こさせなかったところ、文化祭当日早朝に教師から昇降口前に2年前の文化祭ポスターが貼られていたことを指摘されて疑わしい者を探るように指示された文化祭実行委員が、サプライズを企てそうな軽音楽部、放送部、自然科学部などを回るが…という展開の学園ライトミステリー形式の青春小説。
 サプライズの伝統とそれを望む者たち、花火の打ち上げ場所から一番近いところで告白すると成功するという都市伝説的なジンクスを信じる者たちの思惑が交差する青春群像劇的な仕立です。
 最初に学園の地図があるあたりから、これはミステリーなんだぞという意気込みが感じられます。こういう軽いネタでもミステリーにできるんだという受け止めもできますが、むしろ登場人物の思い人への感情/感傷の方を読む青春小説として味わった方がいいかなと思いました。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする