HIV感染者の性生活と結婚、出産をめぐるノンフィクション。
エイズの感染力は弱く異性間の性行為による1回あたりの感染率はコンドームを使用しない場合でさえ女性から男性が0.05%、男性から女性が0.1%と、この本で繰り返し説明されていますし、抗HIV薬を服用し続ければ(そのためには障害者手帳を得る必要がありカミングアウトすることになるし、長期的な副作用はまだわからないが)死亡することはほとんどなくなっているそうです。そのあたり認識していませんでしたが、HIV感染を性生活上のパートナーに知らせているのは半分程度(104~105ページ)というのは寒々とした数字かなと思います。
エイズ患者であれ、生きている以上性生活はあるものと思いますが、第1章で紹介されている3人のケースは、感染後に限っても、多くの人にとっては普通以上に奔放なあるいは多彩な性生活と感じられるのではないでしょうか。特に顔が醜いことで劣等感を持って性欲を満たすためだけに男色に走り乱交を繰り返してHIV感染し、それをすべて醜く産んだ親のせいだと恨み続けて父親を殴り倒し、HIV感染を知りながらも交際を続け心配して乱交をやめさせようとする同性愛者を振り切って乱交を続ける「拓郎」のケースは、HIV感染で人生が狂ったということを差し引いても、どうにも共感する材料もありません。また、薬害エイズ患者で、それと知って近づいてくる運動関係の女性と次々と関係を持つ「慎一郎」なんて慎みのないタカ派週刊誌が喜んで食いつきそうなネタだし、やっぱりその心根は醜いと思います。
著者は、感染者とその家族だけで100人以上から話を聞いたと述べています(12ページ)が、具体的な事例紹介として挙げられたこの3人はどういう基準で選ばれたのでしょうか。妊娠出産を取り扱った第5章で、エイス治療・研究開発センターの専門家に「あなたのような人は、本を書くためにおもしろい事例を見つけたがるでしょうけど、そうじゃない人の方が圧倒的に多い。無事に産んで、日常を楽しく暮らしている人の方が大多数なの。そのことは忘れないで欲しい」と言わせている(236ページ)ことで帳尻を合わせたつもりでしょうか。
HIV感染者の性生活をめぐっての問題提起とはなるでしょうけれども、どちらかというとHIV感染者の性生活をめぐっての嫌悪感や反感を強めそうな感じがします。
石井光太 講談社 2010年11月30日発行
エイズの感染力は弱く異性間の性行為による1回あたりの感染率はコンドームを使用しない場合でさえ女性から男性が0.05%、男性から女性が0.1%と、この本で繰り返し説明されていますし、抗HIV薬を服用し続ければ(そのためには障害者手帳を得る必要がありカミングアウトすることになるし、長期的な副作用はまだわからないが)死亡することはほとんどなくなっているそうです。そのあたり認識していませんでしたが、HIV感染を性生活上のパートナーに知らせているのは半分程度(104~105ページ)というのは寒々とした数字かなと思います。
エイズ患者であれ、生きている以上性生活はあるものと思いますが、第1章で紹介されている3人のケースは、感染後に限っても、多くの人にとっては普通以上に奔放なあるいは多彩な性生活と感じられるのではないでしょうか。特に顔が醜いことで劣等感を持って性欲を満たすためだけに男色に走り乱交を繰り返してHIV感染し、それをすべて醜く産んだ親のせいだと恨み続けて父親を殴り倒し、HIV感染を知りながらも交際を続け心配して乱交をやめさせようとする同性愛者を振り切って乱交を続ける「拓郎」のケースは、HIV感染で人生が狂ったということを差し引いても、どうにも共感する材料もありません。また、薬害エイズ患者で、それと知って近づいてくる運動関係の女性と次々と関係を持つ「慎一郎」なんて慎みのないタカ派週刊誌が喜んで食いつきそうなネタだし、やっぱりその心根は醜いと思います。
著者は、感染者とその家族だけで100人以上から話を聞いたと述べています(12ページ)が、具体的な事例紹介として挙げられたこの3人はどういう基準で選ばれたのでしょうか。妊娠出産を取り扱った第5章で、エイス治療・研究開発センターの専門家に「あなたのような人は、本を書くためにおもしろい事例を見つけたがるでしょうけど、そうじゃない人の方が圧倒的に多い。無事に産んで、日常を楽しく暮らしている人の方が大多数なの。そのことは忘れないで欲しい」と言わせている(236ページ)ことで帳尻を合わせたつもりでしょうか。
HIV感染者の性生活をめぐっての問題提起とはなるでしょうけれども、どちらかというとHIV感染者の性生活をめぐっての嫌悪感や反感を強めそうな感じがします。
石井光太 講談社 2010年11月30日発行