メランコリア

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ここにあるのはわたしの心象スケッチです。

『精神』(2009)

2013-05-06 10:41:38 | 映画
『精神』(2009)
監督・製作・撮影・編集:想田和弘

先日、想田監督のドキュメンタリー映画『Peace(ピース)』を観て、その他の作品も気になって借りてみた。
本作は、『Peace』を観る前から気になってはいたけど、自分の気分が安定している時じゃなきゃムリかもと思って後回しにしていた。

古い民家?を利用した病院で、待合室というより、みんなで休み、集う場所があるのが特徴的。
生保指定医の山本医師は、患者さんを公私にわたって何十年もかけて見守り続けている。
今作にもマザーテレサの引用が出てきた。世界中の大勢の心の支えになっているんだな。


▼内容抜粋メモ(患者さんの名前や話の内容の記憶違いがあったらすみません/謝

うつ病患者の女性・美咲さん
「友だちがいなくなって、大量服薬してしまった。もう死にたい!」
と自殺願望を訴え、腕にはたくさんの自傷行為の跡もある。
ものすごい数の薬を処方されていて、服用数を間違えると致死量になるという/驚
「人間が飲む量じゃない」


生保を受けていて「1割負担になったら食べれなくなる」
今は13歳と10歳になる2人の子どもがいて、お寺にある施設に預けられていて週1で電話や手紙がくるのが楽しみ。
子どもが小さい頃は、育てるためにやむなく売春もしたという。



子どもを殺してしまった躁鬱の女性・藤原さん(だっけ?
頭の中で声が聞こえて耐えられなくなり家を出て、公園で野宿していたので病院の宿泊施設に1泊することになった。
「ここから出てけ!」などという声は、何十年も会ってない父親の声に似ているという。

昔から母との折り合いが悪く、ワープロの資格をとろうとしても「行くな」と言って家から出してくれない。
母が子宮がんになり、その看病の負担が重く、薬を大量服用し、「いのちの電話」で逆探知され、入院した。
結婚して、子どもが泣いてばかりいるので口を塞いでしまい、植物状態になって亡くなって、警察が来た。
夫に「お前に子育てが出来ないことはない」「育て方が悪いんだ」「精神病院に通院するなら離婚する」と言われ、
隠れて通院していて、幻覚も見るので、入退院を繰り返した。

夫からは「お前が子どもを殺した」、警察からは「その罪は一生抱えていくんだ」と責められ、
その後、また子どもができたが、今でも亡くなった長男が成長した夢を見る。


頭の中で声がするという男性・吉澤さん(だっけ?
「わたしはそれをインベーダーと呼んでいる。数分後に自分が何をしでかすか分からないから、
 犯罪をするかもしれない不安があり、もしそうなったらちゃんと責任はとりたいと思っている」

「自分がやりたいことをしたい」「孤立が原因」
行きがい(場所)+居きがい=生き甲斐であるというメモを山本医師から渡される。

認知を分かりやすく図式化・視覚化して見せるのは、いい方法だと思うな。
短期目標を決めて実行すれば、成功体験が積めて、自己肯定力も高まると提案され、
「ラジオを聴くとホッとするから、それを続けてみる」と約束する。


非定型うつ病の女性
「体験者じゃなきゃ分からないですよ。自分を責めてばかりいるから、自分に○をつけるようにしている」
セクハラの手紙が届いて困っていると医師に見せる


病院の食堂の食事は患者さんとスタッフの補助で作る。栄養バランスの整った定食のセットが380円は安い!


「夢工房パステル」での奉仕活動

「牛乳配達は採算合うが、ほかは政府からの助成金なしではムリ」
医療費が高くなると“受診回数を減らす”“副作用の強い安い薬に替える”という弊害が出てくる。



親亡き後の生活をどうするか患者同士で話し合う
お金のやりくりなどがポイント。
傷病手当て金には医師の証明書が必要だが、提出しても社会保険事務所から戻されてしまうケースもある。


摂食障害の女性
生育歴もあるが、会社で「脚が太い」と言われたなど、人間関係のトラブルが原因。
病院で薬の調合を手伝うことがやる気につながるという。


息子に3年会ってない女性
精神病が理由で息子に絶縁され、電話をしても切られてしまう。


回復期にある患者の男性
「暗いニュースばかりで、親切心が感じられない」という訴えに、
山本「田舎で百姓するなら月6万円で暮らせる。元手の苗は近所から譲ってもらえるそうだ」と提案する。


ごちゃごちゃの部屋で、自活のためにスタッフから料理を教えてもらう男性

食は自活の第一歩だものね。



スタッフの女性は、引きこもりがちな患者さんのために、近所のイベントを探して掲示板に張り出している。
「無料ってゆうのがポイントですv」
「山本先生は、半分道楽でやっているというところがあるから儲かってはいません
 給料は月10万円ほど。それは先生の年金と講演料も含んでいる」



訪問看護師養成講習会

「四角い枠を書いてみてください。その次にバランスよく○を書いてみてください」
私は正方形の中に○を均等に下2つ、上に1つで描いたけど、
みんなで見合わせてみるといろんな描き方があることに気づいて驚く!

“一方向性のコミュニケーションの結果”であるという山本医師。
「なんでも本人に尋ねるのが一番イイ。本人は無視され、無視され、無視され続けているから、
 もう“自分はダメな人間だ”という風に周囲から見られている、と思っている。
 皆さんの活動が本当にこれから大事になると思いますなあ」

講演会の後、質問を受ける。
Q:骨折だというので医師が行くと、精神病患者で、家族も隠したいためにリハビリを拒否されるのはどうしたらよいのか?
A:親が権力を握っているから、少しずつ本人の意向を入れて、本人が選べるよう援助するしかない。


山本医師と25年の付き合いだという躁鬱患者の男性・菅野さん
「人の悩みを聞けば自分の心の傷も癒される」
若い頃に1日18時間、半年間勉強して、教師に対して点数をつけて提出したら「こいつは変だ」と思われた。
夜は大学に通い、昼は働く生活をしていたら倒れた。手持ちのお金が10円ほどになって、
山本先生に電話をしたら、たった1人の患者のために名古屋まで来てくれた。


統合失調症でクリスチャンの男性
男性「なぜ映画を撮っているのか?
想田「精神病患者と健常者の間には、見えないカーテンがあるように思った。その奥を世間に見せたいと思った」

同意した男性いわく
偏見というカーテンは、ヘタすると当事者から健常者にも作る場合がある。
 病が良くなると、健常者もよく見えてくるから、カンペキな人間など1人もいないと分かってくる。健常者にも欠陥がある。
 では、会社や組織に入った時に、健常者を補う役割になればいいと思って闘ってきた」


音楽サークルに参加しようとする男性患者
男性「人間関係で不安がある」
山本「そう差はないよ」
男性「(精神障害者保健福祉)手帳を持ったほうがいいか?」
山本「手帳を持つことに自分で偏見がなければイイ。それが特別に思われるならやめたほうがイイ」


休憩室で集う患者さんたち。
菅野さんは写真撮影も趣味で、そこに自作の素晴らしい詩も書いている。
踏まれても、踏まれても、咲き誇るタンポポが好きだという。


マザーテレサの名刺に書かれた言葉を引用して、「違う意見でも、両方正しいこともあるんやな」

非定型うつ病の女性は短歌を詠んだ。

「頭なで 自分で自分を褒めてやる よくぞここまで 生きてきたねと」

「世の中の 冷たき視線を受けながら 清く生きるは とても苦しき」



最後は、脚の障害と精神疾患のために、市営住宅に入居が許可されない?男性の様子もあった。


なぜ、何十年も投薬+通院しても回復しないのだろう、と素朴な疑問がおこった。
投薬と傾聴の治療が果して充分と言えるのか?
頭の中でずっと自己否定の声がしていたら、そりゃあ生きているのも耐えられないに違いない。
根本的な理由は人それぞれあるだろうけれども、患者・健常者の境界線もなく
みんなでより良く変えられることがあるとするなら一体何があるのだろうか???
本作に出演されていたうちの3人がすでに亡くなられたことが最後に追記されていた。合掌。


コメント

映画『精神』(2009)その2

2013-05-06 10:41:37 | 映画
映画『精神』(2009)【DVD特典メモ】

長くなったけれども、ココロにとても響いたのでメモした(ネタバレ注意です
詳細は、想田さんが書いた『精神病とモザイク』参照のこと。


**************想田さんと山本医師のインタビュー

山本「“分かる”ということは、とても大事なんだな。人間同士のつながりができる」
想田「自己評価がマイナスというのが患者さんの共通なんですか?」
山本「“こうあるべき”“よい・わるい”の価値観で、あまりにも理想が強すぎると、
   現実と比べるとどうしても否定的になる。
   そして限界を超えて無茶して頑張ってしまい、病む(まさにその通りだ
   安定した形で自分を評価すること」

想田「目標の持ち方が大事ってことですか?」
山本「目標を持つことはイイことだが、それは親や社会から与えられたものではなくて、
   自分とつながっていないといけない。好きなことならイイ。
   社会から切り離しても、厳しい条件でも乗り越えられる。
   状況に合わせようとすると無理がくる。
   自分がしたいのか?何度も自問自答して目標を検討する主体性が必要。
   自発性か?強制か?です」

想田さんにも同じ体験があるという。
なんの問題もなく進学してきたが、社会に出て、自分の考えと一致しないことが増えて、燃え尽きてしまい、精神科に通った。
病が今までの自分の生き方を見直すキッカケになった(とっても同感

想田「投薬だけでは限界があるか?」
山本「クスリは治療の一部にすぎない。統合失調症や、悪循環に対しては有効だけれども、
   回復期で、その人らしさを取り戻すにはクスリではだめ。
   自分で考えられるようになると、淋しさなどでしんどくなる。
   そこには“人”が必要。いろんな考えを持った人と出会うこと。
   人間関係が形成できる人はなんとかなれる。
   人との触れ合いの豊かさが必要だが、それが難しい。
   クスリに頼る状況は見直さねばならない」

病院に「こらーる(合唱の意)」とつけたのも、単なる待合室でなく、
当事者自身が声を出して、人と出会い、集える場にしたかったからだという。

想田「患者さんの“そうしたほうがいいですか?”の問いに“あなたはどうしたいんですか?”と返されるのはどうしてか?」
山本「これまでいろいろ失敗もしてきた。アドバイスは短期的にはいいけれども、長期的には機能しなかった。
   当事者に健常者が合わせることで合唱になる。
   お寺さんの護摩焚きに行った際、願い事を書いて、真言を唱えるんだけれども、
   良いことを手に入れるためには、人の書いた願い事にも同じように拝むことが必要になるw
   “自分さえよければよい”のでは、結果を出すのは難しい。“我もひとも”ってことです。

   ご加持の時には、坊さんが下までおりてきて、(紙のついた道具で肩など叩く)あれはスキンシップだとw
   治癒にも大事。これまでは病む人が健常者に合わせていたが、いい結果を出そうとするには間違っているのでは」

想田「閉鎖病棟の鍵を開け放した最初の人だということですが、その経緯は?」
山本「昭和44年。340人の患者に対して、スタッフが2人しかおらず、1人1人みていられない現状があった。
   中から開けられない鍵をするのはどうかという精神治療の転換期でもあった。
   必要に迫られて、患者とスタッフとで“誰が鍵を閉めているのか?”という会議を何度も重ねた。
   最初は、患者は“院長が閉じ込めているんだ”、スタッフは“面倒をみられず危険だから”と対立したが、
   会議を重ねるうちに、患者は“自分たちも危険なところがある”、スタッフは“自分たちも好都合だった”と和解意見がではじめた。
   鍵を開けて解放し、患者同士がお互いに“気配りする”ようになったらうまくいったんです

想田「撮影の許可もすんなり出してくれましたが」
山本「手順さえ踏めば患者さんも受け入れる。当事者の決定を信じた。
   信頼する・されることがどれだけ大事か。信じる心を身につけることが大事。
   信じている人を裏切ることはもの凄いエネルギーがいるんです」


**************試写会後の患者さんとの対話@こらーる

「人を裁く資格はない」とクリスチャンの患者さんの意見。

美咲さんはすごい変わった お化粧などのオシャレもしていて/驚
「治りたい一心で撮ってもらいたかった」

藤原さんも変わった 直前まで迷ってからタクシーで劇場に駆けつけたという。
「語っていることが人に伝わらないことが多かったので思い切ってゆったが、
 世の中に出ることで生き辛くなっちゃうのではと不安になった。
 ニュース的に言えば、子どもを虐待死させる母親は“悪”であり、マスコミは白黒つけたがる。
 それに自分が耐えられるかすごく悩んだが、全世界の人が観て、どう思われるかより、
 自分がどう思うかのほうが先で、悪だという人は、それでイイ」

想田「どんな変化があったのか?」
藤原「自分で認めるしかない。想田さんの奥さんが、“アメリカで上映したら、
   このような状況にある女性を守りたいという声が大勢出た”ということをゆってくれて救われた」
美咲「だって、育児は1人ではできないもの!」

吉澤さん
「精神病という摩訶不思議なゾーン。実際に声が聞こえるのに、日本ではそれを“幻聴”と言うが
 アメリカでは“ヒアリング・ヴォイス(聴声)”と言う。科学的にまだ分からない部分を幻と言っているのだ。
 マイノリティがメジャーに食い込むには奇襲しかない。テロリストが一方的に責められるが、
 アメリカはもっと多くの爆弾を落としている。それはアメリカ側に立った言い方で、ゲリラ戦やむなし」

菅野さんはこの日、映画とは真逆にとても沈んでいた。
「もっとミニシアター系だと思ってて、まさかベルリン映画祭までとは思ってなかった

全体的にみんな解放されているように見えたのが印象的/驚

美咲「どう苦しんでいるかがあまり映されていなかった。
   原因だけでなくて、日々どれだけ苦しんでいるかが全然映されていなかったことに驚いた」
藤原「落ちてる時はみんな家にいるからね」
美咲「病んでいる時は、字も読めない、音も耳障り、呼吸すら忘れてしまって過呼吸になるなど
   身体のコントロールが出来ない。光の部分だけでは舌足らずに終わる。
   カメラが病棟に実際入らないと、ここが一般的と思われるのもいやだ」

クリスチャンの男性患者さんは「あしあと」という詩の一節を引用して読んだ。
詩ってココロを癒して、救う力があるんだなぁ
「あしあとがひとつだったとき、 わたしはあなたを背負って歩いていた」

山本医師
「誤解の体験が多く、神経質になり、不安が大きくなる。
 本作を観て、これまで分かってなかった部分に気づかせてもらった。
 頭でなく、もっと深いところで感じることができた。
 ニンゲンは素晴らしい。これも縁じゃ」


**************岡山市での劇場での舞台挨拶(監督、山本医師、患者さん数人

想田「最初は10人中9人に出演を断られた。出演してくださった方に感謝したい」

患者「普通の病院では待合室で患者同士が話し合うことはない。ここは独特」(ほんとだね

美咲「夫の暴力が病の原因だったから、子どもから“父に見つかっちゃうんじゃないか”と心配されたが、
   夫とも子どもとも切り離されて、自分はもう1人きりで捨てるものもないと思って出演した」

吉澤さん「少数多数。悩んでいるのは自分だけじゃなかった。患者の立場を代弁するのが使命と思った」

こうしてみんな堂々と人前で論理的に話せるってすごい/驚


**************イメージフォーラム@東京での舞台挨拶(監督、山本医師、川田さん


想田「敢えて患者さんにモザイクをかけず素顔で出てもらった」
山本「個人の意思決定を尊重した」

HIV保持者であることをカミングアウトした川田議員のコメント
「周囲の受け入れと同時に、自分が差別を作っている部分もあるから、それもなくすことが必要」
山本「共に苦しんでくれる人が必要。“らしさ”を尊重し、いろんな決定に参加できる社会をのぞむ」


**************2009年の「青空生き方相談」の様子


女子A「うつの友だちと疎遠になってしまったがどうしたらいいか?」
山本「相手のことを考えてなにかを言うというのはかえって失礼にあたる。
   疎遠になって気にかかるなら“どうされていますか?”という素直な気持ちは通じると思う。
   相手をどうこうしようじゃなく、自分の気持ちを分かってもらうのが大事」

女子B「悩む友だちに何をしたらいいか?」
山本「1+1が3だと言われた時に“ちがうね”ではなく“そうですね”と言う。
   あるがままを聞き、自分と一致することに対しては“私もそう思う”、
   違う場合は“そういう世界があるのか!”と思って、そのプロセスを教えてもらう。
   何度もそれを積み重ねることで“私もそう思う”が増えればイイ」


山本医師のコメント
「“評価をしない”よい・わるいは神さまの世界。人は“事実”を教えてもらうのが一番大事」





想像通り重いテーマ、映像ではあるけれども、こうして特典映像も含めて観ると、
「話しても分かってもらえない。もっと分かってもらいたい!」と
日々、強く願っている人たちの気持ちが、事実こうして映画を通して、日本のみならず世界中に
さまざまな形で伝わったことに意義があって、鑑賞後も重いだけの余韻で終わらないところに
撮影された想田さんの人柄の温かみが出ていると感じた。

今作を観ると、自分の苦しみなぞ風邪をひいたくらいなものだと思えても、
これは他人との比較の問題じゃなく、個人個人、それぞれ生死を賭けた人生の課題であって、
一生かけて1人で、同時にみんなで考えていくのが自然なあり方なんだと再認識できた。

患者さんの苦しみから出る言葉にとても共感するものもあると同時に、
新たに気づかせてもらったものもあって、ほんとうに貴重な作品
もう1つの『選挙』はどうだろうか?
せーじ・けーざいは苦手なんだが・・・

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