メランコリア

メランコリアの国にようこそ。
ここにあるのはわたしの心象スケッチです。

『青い鳥』(2008)

2013-05-01 11:26:27 | 映画
『青い鳥』(2008)
原作:重松清 監督:中西健二
出演:阿部寛、本郷奏多、太賀、鈴木達也、伊藤歩、井上肇 ほか
主題歌:op theme♪鋼の心、ed theme♪さなぎ「青い鳥」ヴァージョン/まきちゃんぐ

trailer

原作者は、以前友だちから勧められて読んで感動した『きよしこ』の作者なんだ/驚
いじめをテーマにした映画やドラマはすでに溢れているが、
今作の教師が極度の吃音症であり、朴訥な様子がどこか明治か昭和初期の雰囲気で、
彼が言葉に詰まりながらも「本気で伝える言葉」ひとつひとつが心に沁み込んだ
村内先生演じる阿部ちゃんが終始穏やかな微笑みをたたえているのもとてもイイ。


story
東ヶ丘中学校において、いじめが原因で自殺未遂をして、転校した生徒・野口くんがいる2年1組。
彼の遺書には、いじめた犯人の名前が3つあり、2人までは知られていて、同じクラスの井上くんと梅田くん。
もう1人は不明で、担任の高橋先生ではないかという父兄の噂から休職となり、
代わりの臨時教師として村内が赴任してくる。

村内は、座席表と生徒の顔をひと通り見ただけで全員の名前を覚えてしまう。
彼は極度の吃音症で、喋り始めると生徒は思わず笑ってしまう。すると、

「卑怯だな。先生はどもります。あんまり上手に喋れません。
 でも、本気で喋ります。だからみんなも本気で聞いてください。
 本気の言葉を本気で聞くのは当たり前のことです。
 みんなはそれができなかったから、先生はここに来ました」と言った。

そして、撤去された野口くんの机と椅子を元の位置に戻して、
「おはよう、野口くん」と毎日声をかけるのだった。


村内先生がいつもバスの中で真剣に読んでいたのは、『石川啄木歌集』の「新しき明日」?

「石川啄木の生涯」参照

DVDメニューとして、音声解説付きの「バリアフリーメニュー」が付いていたのも特徴的。

塾の英語の教師が「現在進行形、過去分詞は、ぜったい試験に出るから忘れるなよ」なんてゆってるシーンがあるが、
こんなことをいつまでもゆってるから日本人は何十年経っても英語を喋れないんだよね



(以下はネタバレなので、本作をぜひ観てから読んで欲しいけれども、
 映画を観る時間もないという方には読んで欲しいと思ってメモった)

村内の言動が生徒の不安が父兄にも伝わり、教師の会議で問題となる。校長いわく、

「私は学校を船に例えると、誰一人欠けることなく、卒業という港まで無事に運ぶことだと思っています。
 残念ながら野口くんは“自ら”降りる結果になってしまった。
 でも、この船にはまだ残りの生徒たちが乗っている、我々には彼らを次の目的地に送り届ける義務があります。
 生徒には1日も早く事件のことは忘れさせて、日常の安心感を取り戻させてあげたい

校長の言葉には、いかにももっともらしい“思い遣り”があるように見えるが、そうではない。
その裏にある本心は、進学のほうが道徳より優先させるべき、だとか、
PTA(父兄)、マスコミを代表とする世間一般の非難から逃れたい、という大人の身勝手さがよく出ている。

村内は静かに反論する。
「船酔いした生徒はどうしたらいいんですか? 野口くんは船を絶対に降りたくなかった」

村内は、事件後、生徒に書かせた「反省文」と、マスコミがこぞって書きたてた記事を渡され、夜遅くまで読みふけるが、
隣りの席の女性教師・鳥崎は「それは教師がチェックして、いいと言うまで1ヶ月かけて、
1人原稿用紙5枚分、何度も書き直させたものなんです」と聞いて、村内は反省文を焼いてしまう
記事には、野口くんの両親はコンビニを経営しており、そこから万引きするよう脅迫されていたことが書かれていた。
あだ名は「コンビニ君」。彼の机にもそれが書いてある。事件後、「コンビニのぐち」は閉店した。


事件後、「ベストフレンド運動」が行われ、「青い鳥BOX」が設置され、無記名で校内の問題、悩みを投稿させた。
クラス委員と、生徒指導の石野が中を見てみると、たくさんのゴミとともに「青い鳥って何?」という投稿が見つかる。
校内の投稿ですら、白い紙にパソの文字で書いて個人が特定されないようにしているのが恐い。
まるで、犯人からの脅迫状のように。

井上くんは、村内の仕打ちは自分らへの脅迫だととらえ、梅田くんとケンカになり、石野が止めに入る。
ケンカの仲裁の仕方は、昔から馴染んできた上から下への圧力、つまり、軍隊 と同じやりかたで、
きっと宮沢賢治の頃とは随分違うのに、まるでずぅっと昔から、そうするのが通常の教育のように思い込んでいるんだ。

2回目の「青い鳥BOX」の開封で、

「誰かを嫌うのもいじめになるんですか?それとも好き嫌いは個人の自由だからOKですか?」
しごく素朴だが、根本的な質問が入っていた。

それに対しては、無視する石野。まるで質問の仕方に“良い、悪い”があると判断するように。
園田くんが改めて質問の答えを聞くと、

石野「あれ書いたのはお前か? それもいじめだ、当たり前だろ
園田「でも、こっちも1人だったら? 1人で心の中で思っているだけなら、いじめにならないんじゃないんですか?」
   先生には今まで嫌いな人はいないんですか?」
村内「みんな間違っている。いじめは人を嫌うからいじめになるんじゃない。人数がたくさんいるからでもない。
   人を踏みにじって苦しめようと思ったり、苦しめていることに気づかずに、苦しんでいる声を聞こうとしないのがいじめなんだ

園田「こんなポスト嫌です。何の役にも立たないと思います!」

園田くんは、野口くんの机に書かれたコンビニの文字を必死で消す。
園田「どうして野口くんの席つくったんですか? どうして毎朝、野口の席に声をかけるんですか?」

村内「だって、野口くんはずっとこの教室にいたかったんだから。
   ここにいたくて、でもいられなくなって、ほんとはみんなと一緒に座っていたかったんだよ。
   だからずっと名前を呼んであげるんだ。みんな野口くんを踏みにじって、野口くんの気持ちに気づかない。
   彼を軽くしか見ていなかった。だから野口くんのことをクラスで一番大切にしてあげたいんだ」

園田「野口はもうここにはいないじゃないですか?」
村内「野口くんがいなくても、みんながいるから」

園田「それは僕たちへのですか? 僕たちは何度も反省して、またいちからやり直そうと・・・」

村内「それは卑怯だ。野口くんは忘れない、みんなのこと。恨むのか、許すのか分からないけど、一生、絶対に忘れない。
   みんなは一生忘れられないようなことを、野口くんにしたんだ。だったら、みんながそれを忘れるなんて卑怯だ。
   野口くんのことを忘れちゃダメなんだ。それが責任だ。罪になんてならなくても、自分のしたことに責任をとらなきゃダメなんだよ」

園田「野口は笑いながら言ってたんですよ。“もうカンベンしてくださいよ”“地獄っすよ、それ”“あともう死ぬっきゃないっすよ”て」

村内「いろんな人がいるんだ。先生みたいに言葉をつっかえないと喋れない人、野口くんみたいに冗談ぽく言わないと本気で喋れない人もいる」

園田「仲が良かったのに、僕もみんなと一緒になって笑って“ポテトチップ”て言った時、一瞬オレのこと悲しそうに見たんです」

村内「今の気持ち、忘れるな。そうやって心の中で繰り返してきたこと、これからも自分のために忘れるなよ」

園田「そうすれば今度はもっと強くなれますか?」

村内「強くなんかなれなくていい。人なんてみんな弱いんだから。だから本気で頑張るんだ」


高橋先生の疑いが晴れて、担任に戻ることとなり、村内は突然今日が最後だと告げる。
そして、みんなに作文を書かせる。
「以前も書いたが、書き直したい人だけ原稿用紙を持っていってください。今度は自分のために書くんです」
いじめてたのは男子だから女子は関係ないとばかりに、自習を始める女子生徒。


村内が校門を出る時、島崎先生に呼び止められる。
村内「きっと、人になにかを教えることなんて簡単に出来ることではありません。
   教師に出来るのは、たぶん、生徒のそばにいてあげることだけなのかもしれません。
   もし、運が良ければ、なにかを伝えることができるかもしれない」


コメント