昭和45年初版 内田莉莎子/訳 山野辺進/挿絵
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「ジュヴェナイルまとめ」カテゴリー内に追加します
最初は、作者の言う通り悲しいはじまりだけれども
少女の天然の明るさが周りを幸福に照らして、どんどん惹き込まれる
“この世はいい人しかいない”と心底信じて生きていたら、そうなるって
今で言う引き寄せの法則の世界
登場人物がみな個性的
作家の年齢が最初はおじいさんかと思っていたら40代?
妻が25歳とすると、ずいぶん年の離れた夫婦だな
【内容抜粋メモ】
登場人物
バーシャ バルバラ・ブゾフスカ
アダム・ブゾフスキ 父
ヘレンカ・ブゾフスカ 母
ブジショーワ 医師夫人
アントン・ヴァリツキ 売れない俳優
オルフョフスキ 作家
ミハーウェク 召使
ワレントーワ 門番の妻
タニスカ夫人
マルツィシャ 女中
スタニスワヴァ・オルシャンスカ 孫娘スターシャ
ソーメル教授
ディモーリアック
●少女がやってきて、またさっていった
幸福な時は涙の後に生まれます
黒い喪服を着た母親が、5つくらいの女の子といっしょに汽車に乗り
少女に牛乳をあげようとして、逆のドアから降りてしまい
やって来た汽車に轢かれて亡くなる
医師が最後の言葉をメモり、少女を預けて欲しい人とその住所だった
バッグにはわずかなお金とワルシャワ行きの切符しかなく
少女はバーシャという名前しか言えず、苗字は分からない
新聞に載せても誰も申し出る者がなく
少女は1人で汽車に乗せられ、ワルシャワの住所に送り届けられる
医師夫人は一緒に行くと言ったが、医師から止められる
医師夫人はボール紙に受取人の名前と住所を書いて、バーシャの首から下げ
コンパートメントに座らせると、車掌や乗客全員に面倒をみてやってくれと泣いて頼む
●大事なことはインクで書いてはいけない
コンパートメントにいた赤い帽子と緑の帽子の女性は
売り子から牛乳を買って、バーシャに急いで飲ませたため
住所を書いたカードにこぼれて、字がめちゃめちゃになる
バーシャは怖い顔の男が大好きになり、歯ぎしりするたびにマネをして大笑いする
2人の女性は、ワルシャワに着くと、さっさと降りてしまったため
男はしかたなくバーシャを連れて帰る
●フミェルナ通りのオルフョフスキ氏だ!
男は売れない劇場の俳優ヴァリツキ
墓場のような声と顔で『ハムレット』の暗殺された父王の亡霊役は得意だが
その他は小さい役ばかりで、あちこち転々としている
小さい部屋をいっしょに借りているかけだしの俳優ショットは
いつも人生がたまらなく楽しくて、微笑をたやさず、誠実な青年で
めちゃめちゃになった字をなんとか読んで
フミェルナ町に住むスタニスワフ・オルフョフスキという有名作家だと言い切る
2人はバーシャが大好きになり、ぜひとも面倒をみたいと思うが
食べていくのも難しい生活ではどうにもならない
ヴァリツキ:
この子はオレに笑いかけてくれた
この子を引き取ることができたら!
●作家とバルバラ姫
オルフョフスキが夜遅く帰ると、自分のベッドに見知らぬ少女が寝ていて驚く
寝ぼけた召使いのミハーウェクに聞くと、劇団の人が2人来て
なぜ駅に迎えに来なかったと非難して置いていったと話す
バーシャはオルフョフスキも大好きになり、いきなりヒザに乗って
「キスして」とせがむ
門番の妻ワレントーワ:
アパート中の人が言ってますよ
あの子をぜひとも引き取らなきゃって
天にまします神さまがここへお送りになったんですとも
良心をお持ちなら、あの子をお育てなさい
ヴァリツキとショットを探し出し、ここに来るまでのいきさつを聞き
ショットに役をあげることを約束する
ステキな魔法のような1か月が経ち、オルフョフスキの生活は明るくなった
バーシャの身内を探すのも忘れて、すっかり夢中になった頃
新聞にバーシャが行方不明になったから
心当たりのある方は連絡を請うという広告を見つけておののく
●誘拐魔を探せ
タニスカ夫人は「私はもう70歳なのよ!」というセリフがおきまり
女中のマルツィシャが孫娘スターシャに手紙を持ってきた時
イヤな予感がして、読まないまま忘れ去ることにした
スターシャを引き取り、結婚させようとしても
タニスカ夫人の厳しすぎるジャッジに恐れをなして、誰も寄りつかず25歳になる
スターシャ宛ての手紙を1か月ぶりにもらって見ると
親友ヘレンカ・ブゾフスカが汽車に轢かれて亡くなり
少女バーシャを頼むと書かれていた
書いたのは医師夫人ナタリア・ブジショーワ
慌てて、ワルシャワまで来て欲しいと電報を打つ
バーシャの父は有名な学者で、南アメリカの山地に調査に行き遭難した
ヘレンカはフランス人で、親戚もフランスにいる
すぐに来たブジショーワは、ジェルナ町のスタニスワヴァ・オルシャンスカさま宛てと書いたと話し
新聞に行方不明の記事を出す
赤と緑の帽子の女性が来て、コワイ顔の男が誘拐犯だと話す
町中探して、ようやく見つけ、人殺しだと騒ぎになるw
ヴァリツキがワケを話すと、タニスカ夫人は気に入り
ときどきバーシャに会いに来てくれと頼む
●新ソロモン裁判
ワケを聞いたショットは、オルフョフスキに知らせに行く
バーシャはすっかり甘やかされて、よく吠えるフォックステリアの“キビツ”を飼っている
ブジショーワ、タニスカ夫人、スターシャが来て、バーシャを渡せと言う
オルフョフスキ:私はあの子を愛している!
スターシャ:男の方に子育てはムリですわ
タニスカ夫人:警察へ参らねばなりません
オルフョフスキになついたバーシャは「行かない!」と言う
3人は相談して、調停裁判を提案
牧師と小説家に間に立ってもらい、バルバラ・ブゾフスカは
成年になるまで、偶数月はオルフョフスキ
奇数月はスターシャのもとで暮らすことになる
それから1年
バーシャはどちらの家でも大切に育てられ
タニスカ夫人とヴァリツキはカード遊び仲間となる
タニスカ夫人は、スターシャがオルフョフスキと結婚すれば
バーシャが2つの家を行き来せずに済むのに、と計画している
タニスカ夫人:
殿方は心をお持ちとお思いかい? それより胃袋を持ってるんですよ
バーシャは初めて芝居に連れて行ってもらい、ヘロデ王が歯切りしした途端
ヴァリツキと分かり、大声をあげて抱きついて、新聞に書かれる
バーシャが肺炎になった時、7人の子どもを育てたタニスカ夫人が
夜昼となく看護し、ようやく峠を越える
ヴァリツキは退屈したバーシャを楽しませるために、いろんな役を演ってみせる
オルフョフスキ:人はそれぞれのやりかたで神を讃えるんですよ
バーシャはスターシャにオルフョフスキのお嫁さんになりなさいよ!と言って
2人は結婚する
●私は捨て子
バーシャはオルフョフスキ夫妻の正式の養女となる
夫婦には息子タージオも生まれる
15歳になったバーシャ
彼女に恋する2人 修理が得意なユーレクと詩が得意なジグムントは憎み合う
オルフョフスキは学校で大人気
写真が50グロシで売られ、バーシャは友だちにせがまれて断りきれず
自筆原稿まで盗んだことを白状して謝る
緑の目をした美少女ワンダは、バーシャに嫉妬して「捨て子のくせに!」と悪口を言う
バーシャは親についてなにひとつ知らされていなかったため
スターシャはこれまでのいきさつを初めて話す
スターシャ:ずっと私たちのそばにいてくれるでしょう?
●ヘロデの微笑
バーシャは熱心に地理の勉強を始め、父が遭難した南アメリカは全部覚えてしまう
オルフョフスキにソーメル教授を紹介してもらい会いに行く
ソーメル教授:アダム・ブゾフスキは私の一番弟子だ
父がエクアドルで遭難した経緯を話してくれる
インディアンのジバロ族が住んでいて
父を含む3人の学者が調査に行き、途中で道が崩れ
フランス人は助かったが、父は行方不明のまま10年が経った
若い頃の父の写真を見て、なぜかまだ生きている気がするバーシャ
ブジショーワ夫人を訪ねて、帰ると、ヴァリツキが病気で危篤
タニスカ夫人:あの人は涙のように清らかで自尊心が高いんですよ
バーシャが見舞いに行くと
ヴァリツキ:
どんなにおまえを愛しているか
顔をすり寄せてきたのはおまえだけだった
わしのことを覚えていてくれ
誰にも思い出してもらえんのは実に悲しいことだ
ああ、なんて温かいんだ そうとも、春じゃないか
わしはひどく疲れた・・・
奇跡がおこり、ヴァリツキの顔に穏やかな微笑が浮かぶ
ヴァリツキはほほ笑むために死なねばならなかった
●決闘
ユーレクとジグムントは、バーシャを巡って断食の決闘をする
学校中に噂が広まり、ジグムントが死にそうだと知らせが来る
その後、ジグムントは降参したが、その裏にはワンダのたくらみがあった
校長の命名日の呼び物はページェント(芝居
女神役のワンダの前に跪く朗読者のバーシャ
燃えたたいまつが女神のガウンにうつり
みんな逃げたが、バーシャは必死で消火して手を火傷する
ワンダは見舞いに来て、仲直りする
ワンダ:命を助けてもらったこと、一生忘れないわ
フランス大使館からオルフョフスキ宛てに手紙が来た
フランスにいるバーシャの祖母が莫大な財産をバーシャに遺したこと
父と探検して1人生き残ったディモーリアック氏が関わってくれていた
オルフョフスキ:
生まれつき悪い人間などめったにいない
人に怒りや憎しみを教えるのは、飢え、不幸、不公平なのだ
飢えた人に食べてもらえるパンこそ、いちばん味のよいパンだよ
誰にも食べさせず、欲張ってため込んだパンは、呪われて毒や石になるんだ
父の存命の可能性ありという電報が来て
オルフョフスキが付き添い、バーシャはパリに行く
6人の親友は肩にバーシャのBを彫りつけて
死をも分かつことができない友情をたしかめ合う
●魂をさがしもとめて
ディモーリアックが災難の際、どんなことが起きたかをバーシャに話す
濃い霧が出て、戻ろうとした時、石が降り
ディモーリアックは2日後に発見されたが、父は捜索の甲斐なく見つからなかった
アメリカの博物学者ウィリアムズがグアヤキルの町で
白人がインディアンと暮らしている噂を聞いて
イバル族と暮らす男を連れて、エクアドルに戻ってきた
インディアンが父を見つけて、怪我を治し、仕事を与えて、暮らしていた
父はショックで記憶がなく、港に迎えに行くと、40歳で白髪の老人のよう
バーシャは1人で父の記憶が戻るまで付き添うと誓う
ディモーリアック:
最高の学者より賢いものはだれか? 愛ですよ!
あなたは全身愛に満ちている!
●人間の誕生
その後、バーシャと父はタニスカ夫人が引き取り、息子のように面倒をみる
学者:なにかショックを受ければ、記憶がよみがえるかもしれない
バーシャは父をソーメル教授と引き合わせる
3年間通った教授の部屋に入ると、とうとう父は記憶を取り戻す
父とバーシャは家を見つけて引っ越し、ソーメル教授の研究にうちこむ
バーシャが祖母からもらった遺産の半分を
身寄りのない孤児の養育に寄付する話を聞いて
感動したタニスカ夫人は、自分の分も付け足すと言う
バーシャはもとの15歳の少女に戻り、また学校に通い始める
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訳者あとがき
コルネル・マクシンスキ
1884年 ポーランド生まれ
戦前ポーランドで活躍した有名な作家
もっとも評価されているのは少年少女のための作品の数々
長編『月をぬすんだふたり』は本作と並ぶ代表作
マクシンスキ作品の特徴は、底抜けの明るさと言われる