学生達に書いてもらったのは
「愛をめぐる5W1H」
『歌』の創作ワークショップ
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昨日の朝 年老いた父が 玄関先で 帰りが遅いから 朝帰りした20すぎの私を叱った。
佐野:ストレートで情景が思い浮かべることができるんだけど、これは御自身のこと?
学生:昨日にあったことをただ単純に書いたんです。
佐野:愛をめぐるストーリーということだけど、これは誰と誰の愛?
学生:お父さんと私
矢野:普通若い人に愛って言うと恋愛をいうけど。これを出してくれるって何か嬉しいな、親の立場としても。
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いつでも 私はどこでも 君とつながっていたくて ケータイを何度も見てしまう。
佐野:みんなに伝えたい思いは?
学生:私自身は片想いをしていて、その人とは普段、メールをやりとりする仲なんで、いつも携帯を見ているという
矢野:そのままですよね。
学生:はい。そのままです。
佐野:僕がソングライティングするときは先ず最初に歌いたい情景が眼に思い浮かべて、それを言葉にして、情景に言葉を与えて、メモ書きなどを始めたりして書いていきますね。
佐野:どうですか?こういう学生達の詩を読んでみて
矢野:ストーリーボードみたいなもんだね、朝帰りをした○○さん、これは御自分で歌の文句書こうと思って書いてみた?そうか、単に書いてみた?
それともケータイの・・・こうしたフレーズをパンパンパンと切れていくのが、とても歌になりやすい。出来るかやってみよう。
(おもむろに鍵盤を弾き、)私何も考えてない、この文章を見て
(・・・でも曲になってしまいました。)
(佐野さんは指を鳴らしてリズムをとる。)
佐野:素晴らしい。信じられない。
矢野:これは作りやすい。できやすい形になっているからです。メロディーがつくことによって、それぞれの聴いた人の自分自身の想像力が入る 余地ができる。あのね、私が人から質問されたことで、
どうして矢野さんは男の人が作った歌ばかり歌うんですか?って聞かれたことがあるんです。自分ではそんなことは全然考えたことはなかったんですよ。言われてみれば、そういえば私、女性が作った歌は少ない。物凄く少ない。一生懸命考えてたの、するとねぼんやりと見えてきたものは、女性が作った歌は、いつでもそこに私がいつもいるの。一枚剥いても二枚剥いても何枚剥いても私が出てくるから、私は入れない、矢野顕子が入れないわけですよ。でも先ほどのケータイの歌は、ユニバーサルな感じがしない?何か言葉が・・この歌詞に何も入ってない。英語で言うBIG WORDSが入ってない。難しい言葉が入ってない。それが重要な要素かもしれない。
簡単な言葉で難しいことを言うのは難しいよね。難しい言葉で難しいことを言うのは誰でも言えるけど。みなさんそれで目指してください。
先週 自分が自宅で 映画のワンシーンを観て 電話をした 1.5年ぶりに親にかけた。声が変わっていた
学生:映画を見てまして、ジーンときたわけじゃないんですが、電話してみようと思って、電話をしたら母親の声が変わっていたんですよ、それで
矢野:ねえ1年半も親に電話してないの?そりゃないだろう君!ちょっと
学生:電話したら帰って来い帰って来いって言うんですよ。
矢野:ああそれは、うるさいねそりゃあ、私の親も日本を離れて20年くらい経つけど、そろそろ帰って来ないか?って言いますよ。心配してもらえるうちは花っていうかね。
親がらみのものっていうのは、私達のヒット曲の中には含まれてないのよ。商業的にヒット曲というのは
男女間の恋愛だけのことを考えてどれだけ生きられるだろうか。だって恋愛してなくても
恋愛をしていても冷蔵庫を開けて何も入ってなければご飯は食えない。冷蔵庫を開けて入っていれば、明日生きていける。どっちが大切ですか?
そういう基本的な私達が生きていく生活と愛とを直結させてみると
親とか家族との愛、恋愛と言うよりは友だちとの愛を歌っているのがとても少ない
佐野:友愛ということですか、言われてみるとそうかもしれないですね
矢野:この詩のままだと、曲をつけるのは出来ないわけではないけれど、
佐野:出来ないわけではないけれど、細部をちょっと磨いた方が良い
矢野:これをちゃんと表現するだけの詩というのは佐野元春の方が上手いと思うよ。
(佐野さんに向かって)これ、ディライトして、はい(と紙を渡す)
佐野:はい (と受け取る) 先週のこと 自分の部屋 自宅はどんな部屋?
学生:4.5畳の畳の部屋なんですが、でも田舎が九州なんで簡単に帰ることができないんですよ。
矢野:ああそうか、でも電話くらいできるでしょう?意地悪ねー
学生:なんでしょうね、しゃべられない訳ではないけれど、こちらに夢をもって出てきたんで、中途半端な状態で何か連絡できなくて・・
佐野:映画のワンシーンというのは、その見た映画って、どんな映画?LIFE IS BEAUTIFUL
矢野:ああーそりゃ電話したくなるわな。毎日見なさい。
「LIFE IS BEAUTIFUL」というタイトルで
先週のこと 僕が住む部屋から 電話した 映画をみたあと 電話した ひさしぶりに母の声をきいた
僕が知っている 声じゃなかった
矢野:洗練されますね
佐野:どうですか?君が書いたのと僕が換えてしまったけど書いたのは自分が書いたのと変わりました?
学生:いやあ、全然、佐野さんの方が綺麗に
僕らソングライターは、同時にリズムが乗ったらどうなるか、メロディーが乗ったらどうなるか、小節が加わったらこのフレーズはどうなるか という色んなことを同時に考えて作る、のるか反るかどっちかって感じ
矢野:ちょっと貸して、何か字が汚いなあ・・・
佐野:ごめんなさい(笑)
矢野:TELしたって電話しただね、ちゃんと書いてくれなきゃ困るなあ。
即興で作曲しながら歌う矢野さん
佐野:素晴らしい。どう?音楽、言葉が立ち上がってくる瞬間を僕たちはともに経験したんだけど
学生:もう素晴らしくて、着歌にしたいなーと思いました。
佐野:もうちょっとマシな感想はないの?
矢野:あはははー(爆笑)
佐野:言葉ににこのようにメロディー・リズムが伴ってくることによって、僕らの目の前に立ち上がってくる景色というのはとても普遍的なことのように思えるんだけど、君はどう思う?
学生:佐野さんのおっしゃるとおりです。
率直に感想がある人はいる?
学生:歌詞だけだととても平面的な感じがしましたが、メロディー・旋律が加わったことによって立体的になった。遠近法が入ったような。
佐野&矢野 うーんと頷く
佐野:ワイズとか距離とか立体になったってことね
素晴らしい時間を共有できました。何も無いとこに言葉がある、何も無いところにメロディーが与えられ、やがて景色が立体的になって立ち上がってくる、というのを僕たちは目撃した。
矢野:ごめんね、みんなのを作ってあげられなくて
学生からの質問
中学時代に青森でジャズに出会ったと窺ったんですか、きっかけは?
矢野:小学生の割には宵っ張りだったんで、ラジオでね12時くらいかな、ラジオで流れてきて
散華月というサキソフォンの演奏だったんだけど、なんだかワクワクして
それがジャズだってことも何も知らないんですけど、大人の人のところに行って
ジャズ喫茶に中学1年生くらいのときに父が連れて行ってくれて、父はじゃあこの子お願いしますっていう感じでカウンターの所でポーンと置いて帰って、周りの大人はお酒を飲んでコルトレーンとかを聴いているんですが、私はコーラとかミルクとかを聴いてました。夜遅くなると父が迎えに来るというのをやってたんです。
ジャズの中に即興性に何か満足させることがあるんだということぐらいで、理論的なことなどはないです。今もほとんど変わってないです。
矢野さんが作品をする際に、自分である程度思想を固めて作品を作ったときに、聴く人が違う解釈をしたら その作品は失敗だと思いますか?
矢野&佐野 ああ、良い質問ですね。
矢野:いやむしろ成功ではないですかね?良い例で、私の「ラーメン食べたい」という歌があるんですが、奥田民生さんが歌ってくださってて、彼がギター一本でかき鳴らして「ラーメン」と歌いだすと、私の食べたいラーメンじゃないの。なのに凄く良いの、その時は私のところじゃないところに、湯気がばーと上がってて旨そうなの。私はこのラーメンは食べないけど、ああみんな美味しそうで良かったねーって言えるの。むしろ他の人の想像力が歌い手であろうが聴く人であろうが、 その曲は喜ぶんじゃないかなって思うの。
学生:法学部で勉強しているんですけど、大学に入ってから女だからということに敏感になることが多くなって、それは女だからと制限されることが多いと感じる 矢野顕子さんは女ということに対して、どうお考えか?
矢野:社会というのは不公平に出来ているんですよね。変えたいのは山々なんですが、おそらく変わらない。ならば出来る手段として、こちらが考え方を変える ことはできるでしょう?私自身が幸せであるためには何が必要かというと、私が私に誇りを持つ。こういうのじゃなくて(いばるような格好をしながら)、
私が私が存在することに意義という認識ね、それを高く持つということが一番大事。それがあれば、男であろうが女であろうが関係ないんで。例えば
アーティストである私達の場合は、自分がものを作るものによって評価されるって言える。
法律を扱う面で、仕事で自分のやり方で自分の満足するやり方を確立して、こうよって出していくならば、例え負けることがあってもそれでOKだから、そういうやり方を認めてくれる人が割りといるものだと思います。頑張って。
やはり矢野顕子は素晴らしい人だなあ。本来ある人となりが、そのまま溢れてくる。
「愛をめぐる5W1H」
『歌』の創作ワークショップ
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昨日の朝 年老いた父が 玄関先で 帰りが遅いから 朝帰りした20すぎの私を叱った。
佐野:ストレートで情景が思い浮かべることができるんだけど、これは御自身のこと?
学生:昨日にあったことをただ単純に書いたんです。
佐野:愛をめぐるストーリーということだけど、これは誰と誰の愛?
学生:お父さんと私
矢野:普通若い人に愛って言うと恋愛をいうけど。これを出してくれるって何か嬉しいな、親の立場としても。
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いつでも 私はどこでも 君とつながっていたくて ケータイを何度も見てしまう。
佐野:みんなに伝えたい思いは?
学生:私自身は片想いをしていて、その人とは普段、メールをやりとりする仲なんで、いつも携帯を見ているという
矢野:そのままですよね。
学生:はい。そのままです。
佐野:僕がソングライティングするときは先ず最初に歌いたい情景が眼に思い浮かべて、それを言葉にして、情景に言葉を与えて、メモ書きなどを始めたりして書いていきますね。
佐野:どうですか?こういう学生達の詩を読んでみて
矢野:ストーリーボードみたいなもんだね、朝帰りをした○○さん、これは御自分で歌の文句書こうと思って書いてみた?そうか、単に書いてみた?
それともケータイの・・・こうしたフレーズをパンパンパンと切れていくのが、とても歌になりやすい。出来るかやってみよう。
(おもむろに鍵盤を弾き、)私何も考えてない、この文章を見て
(・・・でも曲になってしまいました。)
(佐野さんは指を鳴らしてリズムをとる。)
佐野:素晴らしい。信じられない。
矢野:これは作りやすい。できやすい形になっているからです。メロディーがつくことによって、それぞれの聴いた人の自分自身の想像力が入る 余地ができる。あのね、私が人から質問されたことで、
どうして矢野さんは男の人が作った歌ばかり歌うんですか?って聞かれたことがあるんです。自分ではそんなことは全然考えたことはなかったんですよ。言われてみれば、そういえば私、女性が作った歌は少ない。物凄く少ない。一生懸命考えてたの、するとねぼんやりと見えてきたものは、女性が作った歌は、いつでもそこに私がいつもいるの。一枚剥いても二枚剥いても何枚剥いても私が出てくるから、私は入れない、矢野顕子が入れないわけですよ。でも先ほどのケータイの歌は、ユニバーサルな感じがしない?何か言葉が・・この歌詞に何も入ってない。英語で言うBIG WORDSが入ってない。難しい言葉が入ってない。それが重要な要素かもしれない。
簡単な言葉で難しいことを言うのは難しいよね。難しい言葉で難しいことを言うのは誰でも言えるけど。みなさんそれで目指してください。
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学生:映画を見てまして、ジーンときたわけじゃないんですが、電話してみようと思って、電話をしたら母親の声が変わっていたんですよ、それで
矢野:ねえ1年半も親に電話してないの?そりゃないだろう君!ちょっと
学生:電話したら帰って来い帰って来いって言うんですよ。
矢野:ああそれは、うるさいねそりゃあ、私の親も日本を離れて20年くらい経つけど、そろそろ帰って来ないか?って言いますよ。心配してもらえるうちは花っていうかね。
親がらみのものっていうのは、私達のヒット曲の中には含まれてないのよ。商業的にヒット曲というのは
男女間の恋愛だけのことを考えてどれだけ生きられるだろうか。だって恋愛してなくても
恋愛をしていても冷蔵庫を開けて何も入ってなければご飯は食えない。冷蔵庫を開けて入っていれば、明日生きていける。どっちが大切ですか?
そういう基本的な私達が生きていく生活と愛とを直結させてみると
親とか家族との愛、恋愛と言うよりは友だちとの愛を歌っているのがとても少ない
佐野:友愛ということですか、言われてみるとそうかもしれないですね
矢野:この詩のままだと、曲をつけるのは出来ないわけではないけれど、
佐野:出来ないわけではないけれど、細部をちょっと磨いた方が良い
矢野:これをちゃんと表現するだけの詩というのは佐野元春の方が上手いと思うよ。
(佐野さんに向かって)これ、ディライトして、はい(と紙を渡す)
佐野:はい (と受け取る) 先週のこと 自分の部屋 自宅はどんな部屋?
学生:4.5畳の畳の部屋なんですが、でも田舎が九州なんで簡単に帰ることができないんですよ。
矢野:ああそうか、でも電話くらいできるでしょう?意地悪ねー
学生:なんでしょうね、しゃべられない訳ではないけれど、こちらに夢をもって出てきたんで、中途半端な状態で何か連絡できなくて・・
佐野:映画のワンシーンというのは、その見た映画って、どんな映画?LIFE IS BEAUTIFUL
矢野:ああーそりゃ電話したくなるわな。毎日見なさい。
「LIFE IS BEAUTIFUL」というタイトルで
先週のこと 僕が住む部屋から 電話した 映画をみたあと 電話した ひさしぶりに母の声をきいた
僕が知っている 声じゃなかった
矢野:洗練されますね
佐野:どうですか?君が書いたのと僕が換えてしまったけど書いたのは自分が書いたのと変わりました?
学生:いやあ、全然、佐野さんの方が綺麗に
僕らソングライターは、同時にリズムが乗ったらどうなるか、メロディーが乗ったらどうなるか、小節が加わったらこのフレーズはどうなるか という色んなことを同時に考えて作る、のるか反るかどっちかって感じ
矢野:ちょっと貸して、何か字が汚いなあ・・・
佐野:ごめんなさい(笑)
矢野:TELしたって電話しただね、ちゃんと書いてくれなきゃ困るなあ。
即興で作曲しながら歌う矢野さん
佐野:素晴らしい。どう?音楽、言葉が立ち上がってくる瞬間を僕たちはともに経験したんだけど
学生:もう素晴らしくて、着歌にしたいなーと思いました。
佐野:もうちょっとマシな感想はないの?
矢野:あはははー(爆笑)
佐野:言葉ににこのようにメロディー・リズムが伴ってくることによって、僕らの目の前に立ち上がってくる景色というのはとても普遍的なことのように思えるんだけど、君はどう思う?
学生:佐野さんのおっしゃるとおりです。
率直に感想がある人はいる?
学生:歌詞だけだととても平面的な感じがしましたが、メロディー・旋律が加わったことによって立体的になった。遠近法が入ったような。
佐野&矢野 うーんと頷く
佐野:ワイズとか距離とか立体になったってことね
素晴らしい時間を共有できました。何も無いとこに言葉がある、何も無いところにメロディーが与えられ、やがて景色が立体的になって立ち上がってくる、というのを僕たちは目撃した。
矢野:ごめんね、みんなのを作ってあげられなくて
学生からの質問
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矢野:小学生の割には宵っ張りだったんで、ラジオでね12時くらいかな、ラジオで流れてきて
散華月というサキソフォンの演奏だったんだけど、なんだかワクワクして
それがジャズだってことも何も知らないんですけど、大人の人のところに行って
ジャズ喫茶に中学1年生くらいのときに父が連れて行ってくれて、父はじゃあこの子お願いしますっていう感じでカウンターの所でポーンと置いて帰って、周りの大人はお酒を飲んでコルトレーンとかを聴いているんですが、私はコーラとかミルクとかを聴いてました。夜遅くなると父が迎えに来るというのをやってたんです。
ジャズの中に即興性に何か満足させることがあるんだということぐらいで、理論的なことなどはないです。今もほとんど変わってないです。
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矢野&佐野 ああ、良い質問ですね。
矢野:いやむしろ成功ではないですかね?良い例で、私の「ラーメン食べたい」という歌があるんですが、奥田民生さんが歌ってくださってて、彼がギター一本でかき鳴らして「ラーメン」と歌いだすと、私の食べたいラーメンじゃないの。なのに凄く良いの、その時は私のところじゃないところに、湯気がばーと上がってて旨そうなの。私はこのラーメンは食べないけど、ああみんな美味しそうで良かったねーって言えるの。むしろ他の人の想像力が歌い手であろうが聴く人であろうが、 その曲は喜ぶんじゃないかなって思うの。
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矢野:社会というのは不公平に出来ているんですよね。変えたいのは山々なんですが、おそらく変わらない。ならば出来る手段として、こちらが考え方を変える ことはできるでしょう?私自身が幸せであるためには何が必要かというと、私が私に誇りを持つ。こういうのじゃなくて(いばるような格好をしながら)、
私が私が存在することに意義という認識ね、それを高く持つということが一番大事。それがあれば、男であろうが女であろうが関係ないんで。例えば
アーティストである私達の場合は、自分がものを作るものによって評価されるって言える。
法律を扱う面で、仕事で自分のやり方で自分の満足するやり方を確立して、こうよって出していくならば、例え負けることがあってもそれでOKだから、そういうやり方を認めてくれる人が割りといるものだと思います。頑張って。
やはり矢野顕子は素晴らしい人だなあ。本来ある人となりが、そのまま溢れてくる。