存在する音楽

ジャンルに関係なく良いと感じた曲は聴く
誰かの心に存在する音楽は
実際に音が鳴っていない時にも聴こえてくることがある

the songwrighters 2 後藤正文 第3回

2010-07-17 23:45:01 | 佐野元春
佐野:
1976年生まれ
同世代のバンドと言えるバンドというとどんなバンドですか?
後藤:
年齢的に言えば、くるりの岸田さんとか同い年になると思うのですが、音楽に入ったのは遅い、高校を卒業して初めて音楽をやりたいと思ったので、そのあたりで、何と言うか音楽離れというか、自分達より少し下の人とかみ合うというか、自分達と同世代よりも既に僕らが大学生の頃から活躍されている方たちというのは実際の年齢よりも年をちょっと
佐野:
わかります
後藤:
はい。何年か先にいかれてしまった感じがあるんですけど。

2003年 アジアン・カンフー・ジェネレーションでデビュー
今年6月ニューアルバム「マジックディスク」を発売
今年 雑誌「音楽と人」7月号で佐野元春と対談した。

佐野:
僕はあのときの対談は刺激的でした。
後藤:
僕もとても得るものがありましたね。新しい場所に向かうフィーリングを得た気がして
佐野:
全ての楽曲を聴いて、選んでみました。

スポークンワーズ「ワールド ワールド ワールド」より「新しい世界」

どうですか?こうして言葉だけ抽出されて他人に読まれている感想は?
後藤:素直に格好良いですねー
佐野さんに読まれている時は、佐野さんが歌っているのと変わらない、佐野さん独特のエネルギーが言葉に宿って、最後に「世界」を三回言われたときはゾクッと来ました。

佐野:
ああ、そうですか。「さよならロストジェネレーション」という曲。
「将来の夢を持てなんて 無責任な物言いも、1986に膨らんだ泡と一緒にはじけたんだ」
ここでいう泡というのは80年代バブルのことかな と思ったんですけど。
後藤:
はい、そうですね。
佐野:
ロストジェネレーションというと、後藤さんは正にそのど真ん中に生まれてるでしょ?
この詩を読むと、後藤さんロストジェネレーションと言われると抵抗があるのかなって思ったんですけど、
それで同じ曲の中で
「何も無いです。それでロストジェネレーションが忘れないで 僕らそれでもここでずっと生きているよ。」

後藤:そのなんか、名前をつけることの無責任さはちょっと嫌な感じですが、多分名前を付けるのは僕らよりも上の世代の人が付けるわけで、この状況を用意したのはあなた達なんではないですか?という気持ちもあって、それに対する悔しさであったり怒りに近い感情であったりっていうのはあります。正直。
自分達の世代に対しても、このままロストジェネレーションと呼ばれて、時代の片隅に追いやられたように歳を取っていくのは嫌だと思うし、やっぱり30代になってからこれから40代になって50代になって社会の矢面に立っていく、そうなった時に、まあ何か何も無かったといわれる世代ですけど、僕らの世代で何か新しいことが始められたら美しいなって思います。

佐野:
うん。後藤さんがよくかく詩にね「つながる」「つなぐ」という言葉がよく出てくるんですが。
この「つながる」「つなぐ」という言葉が後藤さんのソングライティングの根幹にある言葉なのかなって思うんですが。

後藤:
僕もそう思いますね。よく使ってますね。でもなるべく使わないように頑張っています。

佐野:
ここにゲストに来てくれたソングライターたちに良く使う言葉ってありますか?って聴いた時に
無意識に「風」「光」という言葉だったりを使って、まあ70年代のソングライター達はそう言ったんですけれど、90年代の後藤さんが言ったのは「つなぐ」人と人とのコミュニケーションを自然とは違うところにまた目を向けているという。この違いを僕は面白いと思っているんですけれど、

後藤:
僕らの年代はちょうど20歳ぐらいからインターネットが普及した年代でもあるので、どうしても他人との距離感を見失う、絶好のタイミングだったんですよね。PHSに始まってポケベルが携帯になったりという時代を生きてきたんで。
何かみんなの距離感を見失ってしまっている感じもしたし。今でも危機感がありますけど。物凄い色んな人の現実感がもう壊れている感じがして、本当のことは何?繋がりっていうけど、本当に繋がっているってことってどういうこと?って疑問が自分の中にずっとあって、それは未だに他の言葉で言い当てられるんだったら言い直して書きたいと思って。だから他の詩でもテーマに上がっていると思うし。

「未来の破片」のライブ映像が流れる

普段 後藤さんが使っている詞のノート4冊(同じざらし風の 無地の茶色いレポート用紙に縦書きで書いている)

佐野:
これは常に自分の側にあるもの?

佐野:
みなさんに是非知ってほしいのは、全て歌詞は縦書きで書いてある。アジカンのファンなら知っていると思いますが、歌詞カードも全て縦書きで書いてあります。驚くのは普段から詩を発想する時にこうして縦書きで書いていることですね。

後藤:
今回は佐野さんのリスペクトをこめて佐野さんの幾つかの作品を書きなおしてみました。
佐野:
ああ本当ですか?
後藤:
何か凄く理解が進むかなって思って、これがねとても楽しかったです。
佐野:
ちょっと見せて
後藤:
はい
佐野:
確かに縦書きで書いてあると交差する日本語の意味が少し何となく違うということがわかりますね。
こう縦書きで書くということに常に常に後藤さんは意識して
後藤:
そうですね、いつの頃からか縦書きでないとかけなくなって、歌も歌えないようになってしまって、レコーディング中もいつも驚かれます。縦書きの歌詞カードを置いて歌っている。
一番最初のきっかけは、曲を書くようになって沢山本を読むようになって、デビューしてから本をよく読むようになって縦書きを読むことに慣れてしまって、自分のHPの日記も 書けるものなら縦で書きたいんですよね。自分は縦で書くように作られているように感じます。
佐野:
後藤さんが曲を書くときの状態について、どんなんだろうなって思いを馳せるんですが、「君という花」という曲
僕はこの曲が好きなんですけど、この「君という花」という曲を書いたときの自分のライティングしたときのことって何か覚えてます?
後藤:
曲自体は横浜の貸しスタジオみたいな所で書いてたんで、曲はセッションで作りましたけど、
歌詞はどこで書いたのか全く覚えてないですが、おそらくアパートで自分のiMacで打ち込んで書いたものだと思います。

佐野:
後藤さんは曲を作って、それをバンドのメンバーに渡す、そのフローについて知りたいんだけど、曲を作って、その先どう渡っていくんですかバンドに?

後藤:
僕がだいたいの構成というか、AメロBメロ サビとかを作ってみんなに聞かせて、それで合わせながら色んな肉付け、間奏をつけたりとか、イントロを考えたりとかってのは全員でやるんですけど、当時は自分の中にだいたいこういうのをしてみたいっていうのがあって、それを先ず、みんなに弾き語りを聞かせてから、じゃあ足りない部分をみんなで足していきましょう。

佐野:
その時点での詩、言葉というのは既にあるんですか?
後藤:
基本的には無いです。この頃は無いし、メロディーがないと言葉が出てこないので。まだ僕が自分で作る音楽のスピードとか言葉が追いついてこれないっていうのを感じていますね。
佐野:
なるほどね。その時点で言葉がまだない、詩がのってないとなると、バンドのメンバーは何をイメージして演奏すれば良いのか。これは怒りなのか悲しさなのか楽しさなのか?その辺だけでもヒントをくれよっていうことはありますけどねー。

後藤:アジアン・カンフージェネレーションのメンバーは歌詞をあんまり読まないんですよ全く。

佐野 え、本当ですか?

後藤:
はい。昔メンバーに言ったことがあるんですけど、あんまりこの詩の世界に寄せないで欲しいという発言をしたことがありますね。っていうか言葉に合わせて変えないでくれって、僕が演奏にのっかりたいから、演奏にあわせて曲が出てくるところがあるから
「君という花」

定型質問

好きな言葉
継続は力成り
続けることが難しいといつも思っています。

嫌いな言葉
自分でもたまに言ってしまうことがあって恥ずかしいんですけど
死ねって言葉 一番嫌いです。
これを言った日はもう一日立ち直れないですね。

一番嬉しいことは
誰かに好きだといわれること

映画
メゾン・ド・ヒミコ
人と人のなんと言うんだろう、交われなさというのがうまく出てて感銘を受けましたね。

他になりたかった職業
学校の先生になりたかったです
大学も教職を受けたりして、諦めましたけど

なりたくない職業
ペテン師か詐欺師。それに近い職業かもしれないですけど。
ハッピーがあるかないかっていうのがとても大きいと思いますけど。

人から言われてカチンとくる言葉
人から能力・能無しみたいなことを言われること

女性から言われて嬉しい言葉
恥ずかしいですね・・桜井さんは「可愛い」と言われて あ、僕もそれ わかりますね。カッコイイといわれるよりも可愛いと言われた方がグッと来ますね。

死ぬ前に愛する人に残す伝言
ごめんなさい

佐野:
後藤さんは多感な頃からずっと詩を書いておられると思うんですけれど、詩を書く上で最近の悩みってあります?

後藤:
最近の悩み、一番の悩みは
私が書いた詞がアウトプットされる場所がアジアン・カンフージェネレーションだってことです

それはとても大きな装置なので、それに対する責任感みたいなものが自分の中には幾つもまとわりついていて、これを振り払いたいなと思うときがある。沢山ありますね。正直、世に出て売れるということが、こんなに大変なことだってわからなかった自分がいて、物凄いプレッシャーもあったし、何かでもね、ライブの現場で全部洗われてしまうことでね。そこにあるこの空気、何をとまどってたりしたんだろうなって、気持ちになるのはいつもツアーなんですよね。だから多分、実際に鳴らすってことが物凄い意味をなしているってことは、ツアーをやって、身をもって体験し続けていること

佐野:
そういうことなんだろうね。後藤さんの詩はね、音楽の詞でありながら現代詞だと思う。
これは後藤さん自身が詩人だということで、それを意識してますか?

後藤:
詩人だと意識したのは、ここ二年ほど、さっきの「君という花」「未来の欠片」を書いたころはミュージシャンの意識が強かった。文学的だと言われたときは戸惑いがあり以外だったりしましたが、今は自分で意識して文学的で詩人ですよって思っています。
佐野:
現代において言葉を鳴らす詩人であると強く意識した何かきっかけみたいなものはあるんですか?
後藤:
やっぱり音楽というものはサウンドというものもどんどんカタチを変えているし、新しい方向もドンドン出てきている。
ヒップホップポップ以降というのは新しい発明もなくてレコードショップの棚のドカンとジャンルを消してしまうような
大きいカテゴリーは多分ヒップポップが最後だと思うんだけど。皮膚的感覚は これからは言葉の時代なんじゃないかなって音楽において言葉っていうのは見直される。これが最も重要なんじゃないかな。サウンドとしてはある種、出尽くしている。感覚に近い。決定的なものってまず無いような気もするし。

佐野:
僕たちの対談で後藤さんはこうおっしゃいました。
ロックはもしかしたらヒップホップに負けるかもしれない。
これについてもう少し詳しく話してくれます?
後藤:
端的にヒップホップの方が雄弁であるという。語る文字数がその自由さたるや、もう・・しかもビートとかも
ロックバンドよりも意識的なんですよね。物凄い細かい区割りを気にしていたり、グルーブっていうものを。
ロックバンドは様式みたいなものに縛られて、あまりにこうであらねばならないっていうものに設定を自分達でしすぎている感じがして。

佐野:
わかります

後藤:
僕がやっているような、いわゆる日本のギターロックってのは、ちょっと内省的すぎるし、イマイチこう自分達の歌詞という足かせを外せないような文章。自分なりの何かラップなのかポエトリーリーディングなのか歌っているのか、よくわかんないやり方って絶対あるんじゃないかって思って。だから先ず自分でトラックを作ってみて、家でマイクを向けて自分のスタジオでわーって わめきちらす訳ではないですけど、まくしたてるところから始まって、なんか自然と言葉にメロディーが乗ってきて、すると新世紀のラブソング、最初のバースのような歌い方になってきたんですけど、けっこう嬉しかったんで、自分なりの韻の踏み方だとか、そういうのはある種、自分の中に落とし込めたという。インスタントのカタチではなくて。三年がかりくらいで「新世紀のラブソング」のフィーリングが出てきて難産でしたけど、とてもやったーていう気持ちがありましたね。

佐野:
「新世紀のラブソング」で911のことを言っています。
佐野元春が朗読
この観察はまさに詩人の観察の視点。
僕がきいてみたいのは
あの事件は後藤さんにとってもショックだった?
後藤:
僕はサッカーゲームをやっていたんですけど、リモコンがなくてテレビに切り替えが出来なかったんですけど、とてもえらい事件が起きていると友だちから教えてもらって、見ようとしたけど見ることができなかったんですよ。その突っ込む瞬間は。
何か凄い、自分の中でのパースペクトっていうのがわかんなくなっちゃったっていうか。物凄いことが起きている。でも、目撃しなかった自分はこう距離感がずたずたになっちゃったっていうか

佐野:
では後藤さんにとって社会の出来事っていくのは曲を作るきっかけになったりしますか?

後藤:
何かやっぱり、そのー役割としてはソングライターでも詩人でも良いんですけど、何か今起きていることを書き記していくことっていうのも何か役割の一つの気がしていて、それが僕はそれを書かないとバランスが凄い悪い気がします。自分の中で内面だけの書くことはバランスが悪いし、外のことだけを書き続けるのもバランスが悪いし、それを説明しなきゃいけないんですけど、それを言葉で説明できるような因果関係があるんじゃないのかみたいな、うーん、これはどっかで繋がっているフィーリングなのか何かわからないですけど、それを書きとめようっていう作業でもあり、行為でもあるような気がするんですけど。




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