アリャアリャは習慣的な動作で腕時計を確認した。もちろん彼の腕時計もまだ実体化していないのに気が付いたので明智に聞いた。「いま何時ですか」
「えっ、そう一時三十五分ですかね」と明智は自分の腕時計を見た。
「たしか、時間は正三時に合わせてあったはずだが、時間が逆行したのかな」と思案顔で心配そうにつぶやいた。
「いや、GPSのダイヤルは三時になっていましたね。ところがね、あちらで急病になりましてね、病院に入っていて退院の許可が出ないので医者や看護婦の巡回しない時間にダイヤルを合わせなおしたのです、脱出を阻止されないようにね」
「そうですか。何時に合わせたのですか」
「一時半にしました」
そこで殿下は気が付いたように叫んだ。ここに着地してからかれこれ四、五分は経っているかもしれないとすると、向こうを出たのが一時半でここへ着いたのも一時半ということになる。本当ですかね」
明智は薄く笑って「タイムトラベルでは時間は進行しないんですよ。もっとも世紀は吹っ飛んでいますがね。時間は進行しないんです。もっとも私は三時にダイヤルを合わせておいたから、時間が逆行したのかと驚いたのですよ。しかしあなたがダイヤルを戻したと聞いたので得心したのです」
「アインシュタインの理論では猛烈なスピードで移動すると時間の進行が遅くなると言っているらしいが、時間が止まるとも言っているんですか」と物理学には疎い彼は質問した。
明智は「さあ、停止するとは言っていないようですね」
「そうするとタイムトラベルは相対性理論を超えているわけですね」
「超えているというのがどういう意味だかしりませんが、相対性理論の適用外であることは間違いないです」
明智は実体化促進ジュースがちっとも減っていないのに気が付くと「心配しないで飲んでください」と促した。
「ところで、向こうで入院されたということですが、よほどひどい症状だったのですか」
「ひどいのなんのって、体中を切り刻まれたような痛みに襲われましてね」
「それはまた、、感染症かなにかですか」
「ヘルペスとか言っていましたね。感染したというよりかは、子供の時に感染して体内で不活化していたウィールスが猛烈なストレスで活性化したのだろうと医者は言っていました。タイムトラベルと言うのもあまり楽しいものではないようです。肉体的、精神的にものすごいストレスがかかるものらしい」
「いまはどうです」
「二、三日は意識不明で集中治療室につながれていたのですが、だいたい、元に戻りつつあるようです。医者はまだ退院はだめだといっていたのですがね。すきを見て病院を脱出してきたのです」