穴村久の書評ブログ

漫才哲学師(非国家資格)による小説と哲学書の書評ならびに試小説。新連載「失われし時を求めて」

書評家の上前をはねる(5) 

2022-01-05 08:10:54 | 書評

 目をエンタメに向けてみましょう。小川榮太郎氏はエンタメと純文学両方から作品をピックアップしています。エンタメで90点以上つまり「世界文学の水準に達している作品」を見ると冲方丁氏の「光圀伝」が94点、伊集院静氏の「いとまの雪、、、」92点についで石田衣良氏の「池袋ウェストゲートパーク」が91点とある。時代小説は後回しにして「池袋ウェストゲートパーク」を読みました。
 巻末に池上冬樹氏の解説がある。これが妙なもので褒めるならもっと素直に褒めればよいものを妙な書き方をしている。池上氏のこの種の巻末解説はいくつか読んだことがありますが、まっとうな書評をする人だという信頼感がありました。しかし、こんどはねえ。
 彼は*日本の作家、筆者補足*を評価するときには外国の作家の豊かさを血と肉としているかを見るという。つまりうまく模倣しているかどうか、ということでしょう。そしてこの石田氏の作品についてここは誰(カタカナ)、あそこはダレに似ているといったたぐいの評価をしている。これって褒めているんですかね。前からしっかりしていると思っていた池上氏の文章なので余計に引っかかりました。
 なんだか、嫌いな人の息子の結婚式でスピーチを頼まれてイヤイヤやっているみたいに感じましたがね。勿論そうではないのでしょうが、それなら書き方がある。
 さて、池上流にこの作品を批評すると、最初はシャーロック・ホームズや江戸川乱歩の少年探偵団みたいだ、なかのころはアメリカのノワール小説風だ。落ちは整理されていない、積み残しが多いということでしょうか。
 次回は又吉直樹の「劇場」を予定しています。