小川榮太郎氏の「作家の値打ち」純文学部門でトップ評価は96点で二作品が並んでいます。
村上龍「愛と幻想のファシズム」
古井由吉「辻」
さてどれにしようかな、と迷いました。「愛と幻想の、、」は書店で見ると活字が小さすぎる。そのうえ超長編であるからパス。それで辻を買いました。これは短編集でとりあえず表題になっている「辻」を読みました。これが96点?というのが結論というか疑問です。
最初の3ページほどは散文詩かな、という感想。三ページ目に唐突に朝原という名前らしきものが出てきて、これが主人公らしいと分かる。相変わらず散文詩調と言うか、ぼかし、飛び、省略、比喩(変換)という詩的手法で進む。それでもテーマは何となくわかってくる。父と子の確執という定番です。その確執とか家庭内の紛糾という内容には目新しい問題意識も問題提起もない。
一読しての印象は私小説的です。古井氏の作家論は少ないようですが、伝記的なものがあれば純然たる創作か私小説かは分かるんですけどね。志賀直哉が父と子の確執をテーマに何作か私小説的な作品を書いていたと記憶していますが、それを連想しました。志賀直哉の作品は散文なのに対してこの作品は散文詩、とくにそのうち詩の味が強い。
こうなると、好みの問題になるんじゃないでしょうか。あるいはそのスタイルを高く評価するかしないか、ということでしょう。スタイルだけでは小説は評価できないというのが私の意見です。大胆に申し上げるとそう高い評点はつけられない。