夜の旅の行きつく果ては朝である。コペルニクスの太陽系が続く限りで、と言うことであるが。
夜の旅は脳と言うものがスキャンをする時間であり、必要ならリセットであり、リアレンジメントである。それは無意識にある78階層で実施される。夢を見るのもその一環である。夢とは睡眠中、表象をともなう脳作業である、フロイト先生によれば。
「君が知っているのは例の庭の茂みから飛び出してきた中学の頃の妹だろう。よく見分けがついたな」
どうして妹のことを彼が知っているのだろうと訝ったが、彼を家につれてきたときのことを思い出して訊いた。
「いや、大学なんかの合コンによく来ていた。派手な服装で有名だった。まあちょっと忘れられないほど目立っていたからね」
「それでどうしたんだ」
「いや、こっちはそのうちの一人だから個人的な関係はない」
「妹も君に気が付いていたのか」
「いや気が付かなかったと思うね。俺のほうはすぐに気が付いたが、俺にもつれがいたし、彼女も相手と話し込んでいたからね」
「へえ、男性か」
「そうなんだが、大分年は離れているみたいだった。中年と言うか50歳代の感じだった」
四海は妙な気がした。
しばらく沈黙していた彼が「そういえばその男性は見たことがあるような気がしたんだが、思い出したよ。同じ業界の人間だよ。それで君の家を売るのか、とさっき聞いたんだ」
「というと不動産屋か」
「不動産と言うかゼネコンのたしか部長だったな」
「名前は?」
「そこまでは分からないがね」
四海にはなにかピンとくるものがあった。「どんな男性だった?」
聞かれて相手もびっくりしたようだったが、「年は五十くらいかな、白髪交じりで眼鏡をかけていたな。それが何か?」
「いや。同窓会のことは申し訳ないな」
「いや、いいんだよ。時期的に皆、忙しいからな」
黒木田から妹の話を聞いたためか、その夜彼女にジャガンが発生したころのことを思い出した。彼女の性格はそれから激変した。自己顕示欲が異常に強くなった。物欲が激しくなった。と同時に自分のものと他人のものの区別がつけられなくなった。つまり自分の物は自分のもの、まあ、これはいい。 他人の物も自分のものと見境がつかなくなった。これは困る。家族のほかのものが持っているものが欲しくなると黙って勝手に持って行ってしまう。そのかわり自分の物に他人が触っただけで狂ったようになる。
高校に入ると母親のクレジットカードを持ち出して洋服なんかを見境なく買いまくった。男遊びが激しくなると、そうして買ったハレハレの派手な服装で家の周りを歩き回るので有名になった。