平敷は作業机からハイライトのパッケージを持ってきて一本振り出した。
「禁煙したんじゃないのか、ここに入った時に煙草のにおいがしたが、てっきり麻耶さんのせいだと思っていたが君も始めたのか、つられて」
卓上ライターで煙草に火をつけると肺が一杯になるまで吸い込んで大量の煙を吐き出して彼は弁解した。
「それもあるけど、仕事がうまくいかなくてイライラすることが多くて、ついまた始めたんだろうな。君は相変わらず止めているのか。プロクシー・スモーキングも迷惑かい」
「プロクシー」って。
「代理喫煙と言うか受動喫煙さ」
「相手によるな。君や麻耶さんならそんなに気にならないな」と苦笑した。
「本当かい。それならいいけど」
「さっきの君の話だけどいまいち理解できないな。どうも腑に落ちない」
「そうだろうな、僕も自信がないんだから」
「それでね、この間それぞれの事件にネーミングして見たんだ。どうも通底する理屈を思いつかないんでね。そんなことで暇をつぶしている」
「どんな風に」
「大阪の小学校襲撃事件は、やりつくし、もういいや犯行とかね」
あっけにとられて平敷を説明を求めるように見つめた。
「犯人の宅間守の経歴は驚くほど多彩だ。婦女暴行無数、転職無数、自衛隊にも入った。警察やヤクザから逃れるために何回も精神病院に隠れた。結婚は四回もした。もっとも彼なりのケチなスケールではあるがね。それで38歳になって先が見えたんだろうな。そこで派手にビッグ・キルを演出して幕を引いたのさ」
「いささか無理があるが面白い。で土浦の事件はどうした」
「ゲーム食傷による犯行だ。ゲームに飽きたという理由だな。犯人が生きている理由はただ一つだ。新しいゲームが発売されるのを期待するということだった。いくら若くても数年もゲームに浸かっている生活をしていれば、もう新しいわくわくするゲームなど期待できないということは分かる。それで最後に彼がゲームの主人公になったわけだ。生きがい喪失による犯行だな」
「面白い、前のよりは使えるぜ。秋葉原事件はどう始末をつけるんだ」
平敷は煙草の煙を吐き出すと唾液で唇にこびりついているハイライトを乱暴に引きはがすと灰皿に押し付けた。唇にハイライトの巻紙のカスが残っている。
「あれはだね、自己肥大化計画失敗による失望自殺だな」
「それだけじゃ分からないな」
「かれも年のわりには多彩な経歴でね。派遣社員だが多くの職場を渡り歩いている。最後にはインターネットの掲示板にのめり込んで自己の生きがいを確認というか確立したかったが、掲示板が炎上したり、無視されて頭にきた。それが即犯行につながるところが今一つ説得力がないがね」
「面白い。君の話を聞いてなんだか僕のアイデアと結びつきそうな気がしてきたぜ」