あと40頁ほど読み残しているが、もう最終的な書評をしてもよかろう。残りを読んで必要なら修正する。
最初のボディが転がる(掘り起こされる)ところまでは褒めてもいいが、その後推理小説になって二段評価下げだ。
解説は巽昌章氏という人が書いている。スリラーの解説はろくなのがないが、これはまあまあである。へー、なるほど、そうだな、というところが複数あった。
翻訳だがえらいなまっている。どこの方言だろう。きいたこと、読んだことがない。実際にある特定の日本の方言で統一しているのだろうな、訳者は。原作の舞台はバスが一週間に二回(2weeklyだよ、間違えない様に)ようやく最近通う様になった僻地である。ところが自動車で行くとロンドンへ楽々日帰りが出来る所という設定。地名も出てくるがこれが実際の地名かな。
時代は昭和の初期であろう。ムッソリーニ台頭後、ヒトラーがまだ政権を取っていない時期ということが小説を読むと分かる。とすると、日本でいうとどのあたりだろう。埼玉東部か奥多摩か。あるいは三浦半島の山中でサンカののようなところであろうか。
一週間にバスが二回しか来ないんだから。
貴族探偵というんだが、彼ら(推理作家)も頭をひねるね。キャラはたっていない。
この探偵、千里眼を持った探偵ではない。失敗したり、どじったりする。試行錯誤である。
前に推理小説の分類の話をしたが、そこでし残したがスリラーには
1:「犬もあるけば棒に当たる」スタイルがある。ハードボイルドはこれに該当する。
2:本格ものと言われる小説では超人的な推理力を持った探偵が出てくる。この観点からいうと、ナイン・テイラーズは「犬も当たれば棒にあたる」に近い。
それでいながら印象が散漫なのは「三人称複数視点」だからだろう。三人称でも単視点なら救われたかもしれない。
なんやかや、わいわいいいながら神輿を担ぐみたいにこねくり回しているうちにクロスワードパズルの最後の札が見つかるテイの小説である。まあ、評価はBかBマイナスに直そう。
それと、やたらと詩文からの引用をひけらかす貴族探偵である、この点だけはヴァン・ダイン流だ。センスのなさでもヴァン・ダインに匹敵する。一言これを覆う、曰く珍妙。
江戸川乱歩はベストテンの10位に上げているがどうしてだろう。暗号解読の話が長々と出てくるからかな。乱歩も暗号ものがたしかあった。なんだっけ、5銭銅貨だったかな、ちがったかな。乱歩のは短編だったが、セイヤーズのは不釣り合いに長々と退屈な講釈が続く。よくない。
巽氏が幻の傑作と言っているがとても傑作といえる作品ではない。