最初の死体まで114頁、読ませる。江戸川乱歩のベストテンでは10位だが、ここまで(114頁)読んだ所では下拙の評価はAマイナスである。
イングランドの田舎、吹雪の道で素人(御前様の貴族探偵)の車が路肩に突っ込む。避難したのが教区長の家である。そこでの一夜の描写を読む限りでは探偵小説とは思えない。
その地方に伝わる鐘を使った一種の教会音楽の演奏の話が延々と続く。まったくその種のことに疎くても滞りなく読ませる腕は一流である。これで思い出したが、古いキリスト教会では鐘をならす一種の教会音楽が各国各地方にあるらしい。昔読んだユイスマンの「彼方」にも似たような熱狂的な鐘研究家の話があったと思うが。
「読書は私に取って休養である」といった哲学者がいたが、私にとっても大部分の本は面白いと思っても「休養」である。だから「逃避文学」というのかな。私に取ってはシリアスな小説も大部分は「休養」なのであるが。
したがって、one sitting でせいぜい2、30頁しか読まない。一気呵成に、徹夜で読んだりしたら「休養」じゃなくなるからね。で、一番大切なのはしばらく「非休養」すなわち仕事をしていて、どれ一休みと再び本を取り上げた時に前回まで読んだ所の筋道がすぐに思い浮かぶのが条件である。そしてこれが良書の条件でもあろう。これだけを基準にしても本の評価はほとんど過たない。
セイヤーズは一、二読んだ記憶はあるが退屈そのものという印象だったが、この本で見直した。