安倍政権が成立を目指す特定秘密保護法案。法整備を促すきっかけの一つとされるのが、2010年9月に沖縄・尖閣諸島沖で起きた中国漁船衝突の映像が動画サイトに流出した事件だ。投稿した元海上保安官の一色正春氏(46)に、今回の法案について聞いた。
私が映像を公開した当時この法律があれば、あいつは今ごろ刑務所だという人がいるが、それは違うと思う。映像はしばらくの間、海保職員なら誰でも閲覧できる状態で、あの映像は秘密でも何でもなかったからです。
《一色氏は10年11月、巡視艇の共用パソコンに保存されていた衝突映像を自分のUSBメモリーに移し、神戸市内のネットカフェから「sengoku38」の名で動画サイトに投稿した。》
あの時、日本は「(中国側がぶつかってきた)証拠がある」と言い張るばかりで映像を公開しなかった。その結果、国民は日本と中国のどちらに責任があるのか分からなくなった。恣意(しい)的に隠した政府の姿勢は許されるのか。あの映像を見て、国民に考えてもらいたかったんです。
《国家公務員法の守秘義務違反容疑で書類送検された一色氏は停職1年の処分を受け、依願退職。東京地検は不起訴(起訴猶予)処分とした。》
今回の法案は内容が国民に詳しく知らされていない。イメージが先行して、極端な意見が飛び交っている。反対派が「どんどん秘密指定が広がって知る権利が奪われる」といえば、賛成派は「知る権利のために国民の安全が脅かされたら意味がない」という。
私も賛否は何とも言えないが、「スパイ天国日本」と言われるような現状は何とかしたほうがいいと思う。自衛隊はもちろん、警察や海保の配備状況なども簡単に漏れれば国益を損なう。鍵をかけないといけない情報というのはある。
ただ、恣意的な運用がされないための仕組みは必要です。この法案では、少なくとも「特定秘密」を指定した人間が特定され、責任の所在ははっきりする。政府が都合の悪いことを隠しても、その指定が正当なものではないと判明した場合は処罰する規定も設けるべきです。そうした検証と追及ができるシステムを作っておくことが重要だと思います。
(聞き手・今村優莉)
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いっしき・まさはる 1967年、京都市生まれ。商船会社などを経て98年から海上保安官。2010年12月に退職。現在は無職
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秘密保護法案について様々な立場の人に聞きます。
◆キーワード
<特定秘密保護法案> (1)防衛(2)外交(3)特定有害活動の防止(4)テロ活動の防止の4分野で、行政機関の長が指定した「特定秘密」を漏らした公務員らに、最長で懲役10年の刑事罰が科される。
従来の国家公務員法の守秘義務違反は「職務上知ることの出来た秘密」について在職中だけでなく、退職後も漏らすことを禁じている。最高裁の判例では同法で示す「秘密」を(1)公には知られていない事実で(2)実質的にも秘密として保護するに値するもの、と定義。同法の罰則は1年以下の懲役か50万円以下の罰金。地方公務員法にも同様の規定がある。
元海上保安官・一色正春氏のl海上保安官の仕事に従事された自分の経験と現実を見据えた意見と『恣意的な運用がされないための仕組みは必要です。この法案では、少なくとも「特定秘密」を指定した人間が特定され、責任の所在ははっきりする。政府が都合の悪いことを隠しても、その指定が正当なものではないと判明した場合は処罰する規定も設けるべきです。そうした検証と追及ができるシステムを作っておくことが重要だと思います。』 の指摘は、国民に取って大切なことと思いました。