便秘に新薬続々 医師処方、個人に合わせ治療しやすく
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病院で処方できる便秘の新薬が相次いで登場している。作用の仕方が新しく、従来の薬では改善しなかった頑固な便秘でも、治療できる可能性が高まってきた。高齢化によって便秘の患者は年々増える傾向にあり、専門医は「悩んだら早めの受診を」と呼びかけている。
「使える『武器』が増え、個人に合わせた治療がしやすくなった」。便秘治療に詳しい鳥居内科クリニック(東京・世田谷)院長の鳥居明氏はこう話す。ここ数年で、便秘の新薬ラッシュが起きているからだ。
32年ぶりの新薬登場として話題を呼んだのは2012年に発売された「アミティーザ」。17年になってさらに「リンゼス」「スインプロイク」が登場。18年には「グーフィス」が加わり、18年末にはさらに1種類の登場が見込まれている。
■国内に450万人
便秘は女性や高齢者に多く、日本には推定約450万人の患者がいる。高齢化で今後も増加していく。これまで処方されてきた薬剤はほとんどの場合、便の水分を増やす酸化マグネシウムか、腸を刺激して活性化する植物成分のセンナの2成分が中心だが改善せず悩んでいた人も少なくない。
新薬は臨床試験で大きな効果が出ている。例えば今年4月に発売されたグーフィスを飲んだ患者群では1週間の排便回数が服用前1.8回から8.2回へと、4倍以上に増えた。偽薬(プラセボ)を飲んだ患者群は1.7回から3.4回に増えているが、グーフィスの方が増え方が顕著で、有効と判断された。
それぞれの新薬同士の強さの比較は現時点ではできないが、異なる作用で効果を発揮するため使い分けが可能になる。
一般に、便の水分を増やす薬は高齢者に向いているといわれる。効き過ぎると下痢になりやすく若い人や女性には好まれない。一方、腸を刺激する薬は腸が活発であることが必要なので、若い人に向く。ただ長期に使うと効きにくくなるので一時的な使用が原則だ。
■高齢の患者向け
アミティーザは腸粘膜にある塩素イオンチャネルに結合し、腸液の量を増やして便を軟らかくする作用がある。「高齢者に使いやすい。若い女性はたまに副作用で気分が悪くなる人がいる」(鳥居氏)
グーフィスは、胆汁酸が小腸で吸収されるのを抑える薬で、胆汁酸が大腸に届き水分が分泌されて便が軟らかくなる。また、胆汁酸が腸を刺激する効果もある。鳥居氏は「適する患者はまだはっきりしないが、酸化マグネシウムで不十分な患者に併用して使うのが一般的だろう」という。
リンゼスは現在「便秘型過敏性腸症候群」と診断された場合のみ使用できる。だが今年中には一般的な便秘にも対象が広がる見込みで、腹痛を軽減させる効果もあるため痛みを伴う便秘に有効と期待されている。
スインプロイクは、鎮痛薬オピオイドを使用中の患者が対象。最近は腰痛などに「トラマール」「トラムセット」などの弱いオピオイドを使用する高齢者が増えており使われそうだ。
さらに、欧米で便秘の第1選択薬であるポリエチレングリコールも近く登場する。今も大腸カメラの時に腸を空っぽにするのに使っている薬で、「腸の中身が全部出てきて爽快さがある」(鳥居氏)という。
便秘は放置すると不快なだけでなく腸管穿孔(せんこう)や不整脈などを引き起こす。一方で薬物治療は大幅に進歩しており、鳥居氏は「悩むようなら早めに医療機関へ」と話している。
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■ガイドラインを初作成 生活習慣の改善も重要
便秘では新薬が相次ぐだけでなく、昨年10月に治療指針である「慢性便秘症診療ガイドライン」が国内で初めて作成されたのも、便秘治療のターニングポイントになっている。
ガイドラインでは問診票を掲載し、診断に役立てている
便秘は日本内科学会が便が3日以上出ない、または出ても残便感がある場合を便秘というように定義していた。しかしそれでは現状悩んでいる患者を十分に拾い上げられないということで、「本来出すべき便を十分かつ快適に排出できない状態」に幅広く変更した。
「毎日便が出ていれば便秘ではない」と医師に言われる患者が困惑していることへの反省からだ。
ガイドラインはリンゼスやアミティーザ、酸化マグネシウムなどの薬剤を評価して、推奨度を1番高くしている。ヨーグルトや食物繊維の摂取などはそれより推奨度は一段下がる。ただ効果がないわけではなく、鳥居氏は「食事や運動など生活習慣の改善は安価なので、取り組んでいくといい」と指摘している。
(野村和博)
[日本経済新聞朝刊2018年5月21日付]
鬱病で、抗鬱剤や精神安定剤の副作用で、便秘になっている人も多いようです。新薬であっても副作用が、なく自分の体質に合っていることが一番と思います。