新型コロナウイルスの感染が世界中に広まるなか、患者のデータを報告する論文が世界各国から出てきています。論文によると、一部の患者に発疹が出ることがわかってきたといいます。京都大学医学部特定准教授で皮膚科医の大塚篤司医師が解説します。

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 新型コロナウイルス感染症が日本でも猛威を奮っています。首相の緊急事態宣言やタレントの志村けんさんが亡くなったことで、これまで経験したことのない恐怖を多くの人が感じています。

 医療崩壊が起きているイタリアでは、皮膚科医も新型コロナ感染症の診療に駆り出されています。感染症専門医だけでは対応ができないため、皮膚科医は緊急度に従って診察の優先順位を決めるトリアージを担当し、新型コロナ感染症患者の最前線で活動しています。

 さて、最近になって新型コロナ感染症では一部の患者さんに発疹(ぶつぶつ)が出ることがわかってきました。

 イタリアの新型コロナ感染症病棟からのデータをまとめた報告(「J Eur Acad Dermatol Venereol. 」2020 Mar 26. doi: 10.1111/jdv.16387.)では、88人の患者のうち18人(20.4%)に何らかの皮膚症状が見られました。この発疹の出現時期ですが、18人のうち8人の患者さんは発症とともに、残りの10人は入院後に皮膚症状が出たと論文では記載されています。

 では、どういった皮膚症状が出たかと言えば、残念ながら皮膚のぶつぶつの写真はなく、論文では記載のみです。これは、皮膚症状を記録に収めるためのカメラが、感染拡大防止の観点から病棟に持ち込めなかったためであるようです。

 この論文では、18人中の14人が紅斑性皮疹(あかいぶつぶつ)、3人が広い範囲でのじんましん症状、1人が水ぼうそうのような症状だったとあります。

 出現部位は体幹で、かゆみはほとんどないとのこと。これらのぶつぶつは数日で消失したようです。また、これら皮膚症状は、新型コロナ感染症の重症度とは関連しないとのこと。つまり重症だからといってぶつぶつが出るわけではないようです。

 新型コロナ感染症に合併する発疹は、もう一報あります。タイからの報告(「J Am Acad Dermatol. 」2020 Mar 22. pii: S0190−9622(20)30454−0. doi: 10.1016/j.jaad.2020.03.036.)によると、新型コロナ感染症の患者さんにはデング熱と同じような皮膚症状が出たとのことでした。デング熱は赤いぶつぶつに小さな内出血が交じる典型的な皮膚症状が出現します。タイではデング熱が多いため、患者さんの初診の段階では新型コロナ感染症とはわからず誤診したとのことでした。

 どの国でも新型コロナ感染症患者は隔離され、皮膚症状が丁寧に解析されていない印象です。

 しかし、上記二つの論文から言えることは、新型コロナ感染症で出現する皮膚症状に特徴的なものはまだ見つかっていないということです。体全体が赤くなったり、じんましんが出現したりなどの症状は、新型コロナ感染症だけでなく他のウイルス感染症でも私たち皮膚科医が目にする症状です。

 こういった皮膚症状について報告が出ると皮膚のぶつぶつが心配になる人も多いと思います。

 気をつけてもらいたいのは、熱が出て皮膚にぶつぶつが出現したからといって、それが新型コロナ感染症の症状というわけではないことです。前述のように、他のウイルス感染でも同様の皮膚症状は出現しますし、薬の副作用(いわゆる薬疹)でも同じ症状が出ます。

 はしか(麻疹)もウイルス感染症の一つですが、発熱後すぐに口の中に白いぶつぶつができます。これはコプリック斑とよばれ、はしか特有の症状として診断の助けになります。

 また、リンゴほっぺ病(伝染性紅斑)はヒトパルボウイルスB19というウイルス感染症ですが、病名のとおり両頬がリンゴのように赤くなります。また、手足にレース状の発疹が出ることも特徴的です。

 今後、新型コロナ感染症で特徴的な発疹(ぶつぶつ)が見つかると、診断の助けになるかもしれません。このコラムでは引き続き、最新の論文を紹介していきたいと思います。