トラック運転手らの長時間労働が常態化している。2021年度には脳や心臓疾患で労災認定を受けた全労働者の3割を占め、厚生労働省は23日、運転手の労働基準を25年ぶりに改正し、長時間労働の是正策を強化した。ただ、賃金が低く抑えられているという実態もあり、専門家は「労働環境を変えないと物流を維持できない」と警鐘を鳴らす。(広瀬誠)

 

長い拘束時間・人手不足

 

「明日は我が身」

 

 「身近な人が次々に倒れ、『明日は我が身』と思った」。今年7月まで約20年間、トラック運転手として働いた埼玉県の男性(50)は振り返る。

 関東地方でいくつかの運送会社に勤め、全国に食品や家電を運んだ。拘束時間は業種ごとに国が定め、トラック運転手の場合は月に原則293時間だが、450時間を超えることも珍しくなかった。納品は朝が多く、夜通しで走って昼間に運転席後ろの仮眠スペースで横になっても、実際に眠れるのは4〜5時間。パーキングエリアでラーメンをすすり、運転中に大福で小腹を満たしていると、糖尿病も患った。

 この間に、脳梗塞こうそくなどで5人の同僚が倒れ、2人が亡くなった。給料も当初は手取りで40万円を超えたが、運送業の過当競争を受けて20万円台まで落ちた。男性は「体力の限界だった。労力に見合う給料も得られなかった」と話す。

全業種平均の10・3倍

 

 厚生労働省によると、2021年度に国内で企業や官公庁などに雇用されている労働者は6013万人で、脳・心臓疾患での労災認定は172件あった。業種別の内訳でみると、トラック運転手ら190万人が従事する「道路貨物運送業」が最多の56件で全体の32・5%を占め、雇用者数に対する認定の割合は、全業種平均の10・3倍だ。比較のできる09年度以降、この業種は常に最多となっている。

 背景には、トラック運転手らの過酷な労働環境がある。長距離運行が多い大型トラックの運転手の労働時間は、全産業平均(175時間)より2割長い月212時間だ。過酷な労働環境を敬遠して新規就労者は少なく、平均年齢は50歳に近い。

 こうした状況を改善するため、厚労省は23日、トラック運転手らの労働基準を定めた告示を改めた。改正は1997年以来。2024年4月から適用される新基準では、月の拘束時間を9時間減の原則284時間とし、終業から次の始業までの間隔(勤務間インターバル)も延ばす。違反が確認されれば、国土交通省が事業者に対し、車両使用停止などの行政処分を行う。

荷主も改革必要

 

 ただ、規制が強化されても、環境改善につながるかは不透明だ。都内の運送会社幹部は「運転手の労働環境改善には、荷主の意識改革も必要だ」と指摘する。長時間拘束の背景には、荷主の元での積み下ろしの順番待ちが長時間に及んでいるという実態があるからだ。

 1990年に運送業が免許制から許可制に規制緩和されてから事業者数が増え、業界は過当競争に陥っている。この幹部は「運転手を守るために荷主へ環境改善を訴えれば、他の業者に乗り換えられかねない」と打ち明ける。荷主から過積載を求められるケースもあり、厚労省は今後、企業に立ち入って調査を行う労働基準監督署を通じて情報を集め、荷主側に改善を働きかける。

 立教大の首藤若菜教授(労使関係論)は「運転手の拘束時間の削減と賃上げは急務だが、そのためには運送料の値上げは避けられない。輸送費が上がることで物の値段にも影響が及ぶかもしれないが、流通を止めないためには、荷主や消費者も負担を理解する必要がある」と指摘している。

 

 鉄道輸送の良さも考え直すべきですね。