Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

小さな中国のお針子

2009-12-17 | 映画(た行)

■「小さな中国のお針子/Balzac Et La Petite Tailleuse Chinoise」(2002年・フランス)

監督=ダイ・シージエ
主演=ジョウ・シュン リウ・イエ チェン・クン ツォン・チーチュン

 文化大革命による「再教育」で、山間部の農村で働くことになった二人の若者。西洋文化に触れることができた知識層は、思想につながる書物を没収され、農村での労働こそが社会主義国家に貢献できることだ、と慣れない農作業に従事させられた。持っていた料理の本までブルジョアの食べ物が載っているとして没収される。この頃の中国の激しさは知ってはいたが、まるで秦の「焚書坑儒」やブラッドベリの「華氏451」を思わせる思想統制。西洋の本は読むことを禁じられている。体制に反する思想や文化を禁じる風潮。

 そんな二人の前に仕立屋の孫である美しいお針子が現れる。山間部に住む民族の娘で、やはり文字を知らない。彼らはふとしたことで手に入れた西洋文学の本を彼女に読み聞かせる。村人から隠れて洞穴で西洋小説を読む3人の姿は、微妙な友情のトライアングル。それが禁じられた行為であるというスリル。やがて彼女は、本との出会いと若者との恋から人生を大きく変えていく。

 これまでも僕らは生涯残るような感動を本や映画から得てきた。それらは少なからず僕らの人生を左右してきた。この映画では、1冊の本との出会いによって運命を大きく変えるお針子の姿がたいへん印象的だ。一人で村を去るお針子は「バルザックが私を変えた」と言う。その衝撃の強さを感じさせる。

 また、この映画は中国を舞台にした青春映画だが、フランス資本で製作されている。そのせいなのか、僕はこの映画の三角関係に、奔放なジャンヌ・モローが二人の文学青年に愛されるフランス映画「突然炎のごとく」を思い浮かべてしまった。体制や時代、それに翻弄される人間がテーマとされがちな中国映画とはまったく違う。

 映画のラストは、村を出たその後の二人が描かれる。お針子の行方はわからないままなのだが、彼らが「再教育」で訪れた村は、巨大ダムの建設で水没してしまうという結末を迎える。ジャ・ジャンクー監督の「長江哀歌」でも描かれた山峡ダムの建設だ。近代化の影で変わりゆく中国。そこに、若者二人の帰り来ぬ青春を重ねる脚本は実に巧みだ。湖の底で三人のイメージが重なるラストシーンは実に美しい。

 お針子を演ずるジョウ・シュンは、「ウィンター・ソング」で金城武の相手役を演じてた女優さん。ちょっと南果歩を思わせるね。村長の歯の治療をする場面や近衛兵の踊りを女性たちが披露する場面が印象的。




コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする