■「ずっとあなたを愛してる/Il Y A Longtemps Que Je T'aime」(2008年・フランス)
監督=フィリップ・クローデル
主演=クリスティン・スコット・トーマス エルザ・ジルベルスタイン セルジュ・アザナヴィシウス
●2008年英国アカデミー賞 外国語映画賞
●2008年ヨーロッパ映画賞 女優賞
●2008年セザール賞 助演女優賞・新人監督作品賞
観る前は「ずっとあなたを愛してる」というタイトルに対して、「あぁ、また配給会社が下手な邦題考えちゃって・・・」と正直なところ思っていた。しかし・・・エンドクレジットを迎え、柔らかなギターの調べの静かな曲と映画の余韻に身を委ねながら考えた。これは登場するそれぞれの人々の愛し方を表していたのだ。
親が子供を、家族同士がそれぞれを思う気持ちを失わせることはできない。ジュリエットが息子を殺した本当の理由。そしてその姉をいないものとして育てられた妹。ジュリエットは誰にも真実を打ち明けず、すべてを自分で抱え込んだ。妹レアは突然姉が去った日から、毎日日記に姉の名を綴り、出所した姉を支えようとする。記憶を失ってレアが娘だと理解できない母親が、ジュリエットだと一目でわかりきつく抱擁する場面は感動的だ。「姉はいないもの」とされていたジュリエットはその抱擁にとまどう。その背後に妹レアが立っているという構図は、映像としてとても雄弁だ。
ほんとうにいい演技に支えられた映画だ。脇役の一人一人の生き方、考え方、心の動きが伝わってくるし、愛すべき人々たち。ものを言わぬおじいさんもベトナム人養女も友人たちも。保護観察の為にジュリエットと会う刑事も印象的な人物だ。オリノコ川への憧れと夢を語りながら、ジュリエットに自らの身の上を打ち明ける。「旅立つ決意をした」と言い残して自殺する彼は、水源がわからないオリノコ川にたどり着くところのない自分を重ねていたのかもしれない。それは温かい人々に囲まれたジュリエットとは違う。そんな人々に支えられて15年の刑期を終えて誰にも心を許せなかったジュリエットが、少しずつ変わっていく姿が心に残る。疲れ果てた表情だったクリスティン・スコット・トーマスが次第に笑顔をみせていく。そして映画の最後お互いの気持ちをぶつけ合い、妹にすべてを打ち明けた彼女は「私はここにいる」と言う。
地味な映画だが、人間模様をきちんと描くことは、フランス映画の伝統だ。監督フィリップ・クローデルはそもそも小説家。登場人物の一人ミシェルと同じく刑務所で教師をやっていた経験がある。人を見つめる優しい視線が銀幕から伝わってくるのはそのせいなのかな。