■「家族の庭/Another Year」(2010年・イギリス)
監督=マイク・リー
主演=ジム・ブロードベンド ルース・シーン レスリー・マンヴィル オリヴァー・モルトマン
マイク・リー監督が、ある夫婦とその家に集う人々の悲喜こもごもを、四季の風景を交えつつ描いた作品。コメディとジャンル分けされているのだが、それが間違っているのではない。一般的にゲラゲラ笑わせてくれるコメディとは別なものだと考えるべきだろう。監督は登場人物の誰かに肩入れするような演出ではなく、そのままの人間模様を描いている。しかし、それは誰かが抱えた悲しみを癒したり、幸せを分かち合ったりするような人間関係とは違う。この映画のコピーには「ここに集まると、喜びは倍に悲しみは半分になる」とある。このコピーや邦題を見てイメージしてしまうのは、家族同様のつき合いをしている人たちによる、幸せも悲しみも幾年月・・・めいたホームドラマ的なもの。しかし実際に観ると、映画はそのイメージを完全に壊してくれる。このコピーは大嘘だ。
地質学者のトムと心理カウンセラーのジェリー夫妻は、市民菜園で野菜をつくるのが共通の趣味で、弁護士である息子ジョーの結婚こそ気がかりだが穏やかで満ち足りた生活を送っている。週末には、妻の同僚であるオールドミスのメアリーや夫の友人ケンらが訪れ、料理やワインを楽しんでいた。メアリーは一度結婚に失敗しており、夫妻のところによく遊びにやってくる。ケンも独身でさみしい日々を送っている。メアリーは夫婦の息子ジョーに好意を抱いていたのだが、ある日ジョーが突然ガールフレンドのケイティを連れてくる。夫婦はケイティを歓迎するが、メアリーはケイティへの嫌悪感を隠さない。それぞれの思いを抱えながら季節は変わっていく・・・。
トムとジェリー夫婦(このネーミングはいいセンス)は初老夫婦の幸せを絵に描いたようで、しかも知性を感じさせるキャラクター。一方で、メアリーやケンは酒を飲んでは取り乱し、空気を読まない自分本位なおしゃべりをやめず、幸せな結婚からはほど遠い。銀幕のこちらから観ていても、メアリーみたいな女性がちょくちょく家にやって来られるのは嫌だと思える。グチって、煙草ふかして、息子に色目つかって・・・同僚だとしても距離を置きたい。物語が進むにつれて、次第にジェリーとメアリーの仲が離れていくのがわかる。家に泊まって酔っぱらって言いたい放題。庭でのパーティ場面では、メアリーが赤ちゃんの前で煙草を吸おうとし、一斉にみんなが離れていく。冬のパートでは、予告もなく家にやってきて勝手に上がり込み、夫婦が息子たちと家族で過ごしたい日に居座ってしまう。映画が終わって残るのは、トムとジェリー夫妻の幸せよりもメアリーへの嫌悪感。それ故にすっきりしないラストに今ひとつ満足できなかった。そして思うのは、邦題の「家族の庭」に感ずる違和感。友人たちと家族の様に過ごす庭というイメージでは決してない。かといってトムとジェリー夫妻の幸せは庭に象徴されているとは思えないのだが。
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