■「火星のわが家」(2000年・日本)
監督=大嶋拓
主演=鈴木重子 ちわきまゆみ 堺雅人 日下武史
地味だけど不思議と心に残る映画ってあるよね。秋の夜にはそんな映画が観たい。「火星のわが家」はまさにそんな映画。ニューヨークでジャズシンガーとして活動していた主人公がスランプとトラブルから故郷に帰ってくる。実家には年老いた元教師の父と離れに住むその教え子がいる。音楽の才がありながら主婦としておさまっている姉がそれにからんで、ときにスリリングに、ときにホッとさせてくれる映画になっている。主人公を演ずるのは、実際に海外でも活躍するジャズシンガー鈴木重子。彼女の自然体でほんわかとしたムードが映画でも生かされている。一方、姉を演ずるのはかつてボンテージファッションでロック歌っていたちわきまゆみ。どちらも映画初出演という異色のキャスティングだ。
今年僕が観た映画たちは、”家族”がキーワードになっているものが偶然だけど多いように思う。この映画も家族という人間関係の難しさ、温かみが感じられる。自身の問題で里帰りしたはずの主人公が相対するのは、父親の介護という現実の問題。妹の活躍をねたむ姉との人間関係がからんで、介護のあり方での意見の相違や父親と姉との対立が、主人公の心を悩ませる。そんな中、同居人の男性と主人公は恋愛ムードになっていく。二人がキスを交わす場面は自然でとても印象に残る場面だ。妹への嫉妬から姉が彼に迫ったことで、ますます関係はギクシャクしていくのだ。大した劇伴も凝った映像もないけれど、この辺りは緊張感が伝わってくる。それにしても日下武史扮する父親が素晴らしい。火星に憧れる宇宙学者で、宇宙への夢を追った頑固だけど優しい父親。厳しさと温かさの両面を見事に演じてくれる。いいところが多い映画なんだけど、いかんせん台詞が聞き取りにくいのが最大の難点。サウンドがすごくこもっていて聞きづらかった。
鈴木重子の本業での活躍は以前に音楽雑誌で目にしたことがある。東京大学出身ということがやたらと取りあげられていて、アンチ学歴主義の僕は正直言うとあまりいい印象はなかった。ところがそんな僕もこの映画を観てから、近頃彼女のCDを聴いている。出身大学をどうこう言う報道がなければもっと早く聴いていたかもしれない。劇中「あなたの歌を聴くとホッとする」と言われる場面があるけれど、彼女のヴォーカルに包まれると日常を忘れさせてくれるような気がするのだ。こんなことを言う自分はやっぱり疲れているのだろうか。この映画でもエンディングで彼女の曲 ♪It's Time To Love が聴ける。
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この文章を書いたのは2004年。地方都市在住だと映画館でお目にかかれない日本映画がたくさんある。かといって積極的にレンタルしてまで・・・という映画がNHKのBSで放送されたりするのはありがたい。けっこういい出会いになったりするんよね。この「火星のわが家」もその一つ。当時劇団で活動しており、”小劇場のアイドル”と言われていた堺雅人の映画デビュー作でもある。姉妹の間で振り回される男性役だけど、そのやさしいイメージは今と変わらない。
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