■「最強のふたり/Intouchables」(2011年・フランス)
監督=エリック・トレダノ
主演=フランソワ・クリュゼ オマール・シー アンヌ・ル・ニ オドレイ・フルーロ
●2011年セザール賞 主演男優賞
●2011年東京国際映画祭 東京サクラグランプリ・最優秀男優賞
エンドクレジットが終わるまで誰ひとり席を立たない。エンドクレジットは最後まで観るという良識ある映画ファンばかりが、ここに来ているとも思えない。しかもフランス語のクレジットだし。それは、みんなこの映画が醸し出す余韻に浸っているから。僕もそうだった。フランスではあの「アメリ」の観客動員数を抜き、非ハリウッド映画の世界観客動員数ではこれまで「千と千尋の神隠し」が持っていた記録を塗り替えたフランス映画・・・実話である障害者と介護する人との友情物語が、パラリンピックの時期に公開されたのも動員が増えた背景としてはあるかもしれない。
「最強のふたり」は、これまで製作されてきた障害者を題材とした映画とはまったく違う。それは障害者を特別扱いするのではなく、一人の個人として対等に接する人間関係が描かれているところだ。
冒頭、スポーツカーをぶっ飛ばす主人公二人。障害者を隣に乗せてるのに?パトカーに追われて一芝居?えっ?そしてEW&FのSeptemberが流れるタイトル・・・それだけでもうワクワクしてる。そしてこの二人が出会った経緯が語られていく。大富豪の主人公フィリップが介護者の面接をしているときに、失業中だから活動をしたという証明書をくれと黒人青年ドリスがやってくる。遠慮のないその態度と物言いを気に入った富豪は彼を採用する。介護の経験もないだけに、そこから始まる二人の生活はハラハラするところだらけ。フィリップが文通している女性へ詩を送る様子をじれったく感じたドリスは、遠慮なくアプローチを指南したり、退屈なはずの誕生パーティではフィリップがドリスにクラシック音楽を教えてくれた代わりに、ドリスはBoogie Wonderlandを大音量で流してみんなで踊ろうと言う。きれい事ばかりではなく、性の問題についてもさらりと触れていて好感がもてる。だが家族の問題からドリスはフィリップの元を去らねばならなくなが、彼を失ってからのフィリップは落ち込んでいく一方。そんなフィリップにドリスが用意した粋なはからいが、この映画の感動的で幸せな結末。
従来、スクリーンの中で描かれてきたのは、障害者が不屈の闘志で困難に立ち向かう懸命な姿を描いたものだった。同じ肢体不自由な障害者が登場する映画で言えば、まばたきだけで意思を伝えて自伝を書いた男性が主人公の「潜水服は蝶の夢を見る」、足で絵を描いた男性の実話をダニエル・ディ・ルイスが演じた「マイ・レフト・フット」など、障害がある人が困難や苦悩を乗り越えていく強さ。障害者を支える周囲の人々との人間ドラマもたくさん製作されている。ダスティン・ホフマンがオスカーを獲得した「レインマン」やダウン症をテーマにした「八日目」など秀作がたくさんある。それらは障害者と接することで、それまで人間味のなかったり、自己中心的だった主人公が変わることを描いた感動作だった。つまり障害者と接することで大事なことに気づかされていく成長物語になっているのだ。「最強のふたり」がこれまでの映画と違った感動をもたらしてくれるのは、障害者も彼と接する人もお互いに影響を与えられて変わっていくところにある。そして何よりも、この映画がエンターテイメントとして楽しいこと!。パラグライダーにしても、秘書(オドレイ・フロール、美人!)を口説こうとするのも、電動車椅子が遅いからとチューンナップするのも、耳の性感帯を試すのも、とにかく観ていてワクワクする。そして迎えるクライマックスの静かな余韻にぐっときてしまう。ヨーロッパで映画賞を手にしているオマール・シー、品もあるしユーモアもあるフランソワ・クリュゼ。これからも心に残るであろう映画に、またひとつ出会えました。