■「アンナ・カレーニナ/Anne Karenina」(1997年・アメリカ=イギリス)
監督=バーナード・ローズ
主演=ソフィー・マルソー ショーン・ビーン アルフレッド・モリナ ジェームズ・フォックス
トルストイの同名原作、7度目の映画化。かつてグレタ・ガルボやビビアン・リー、ジャクリーン・ビセット(さらにキーラ・ナイトレイでリメイクとか)が演じた主役を、「不滅の恋/ベートヴェン」が好評だったバーナード・ローズ監督、「ブレイブハート」でハリウッドにも活躍の場を広げたソフィー・マルソー主演で製作した作品である。僕はビビアン・リーの「アンナ・カレニナ」(1948)を高校生の頃に教育テレビで観ている。その印象が強いだけに、この題材は悲恋メロドラマの典型のように思ってきた。それを大好きなソフィーが演ずる・・・そんな大舞台、期待せずにはいられなかった。ところがソフィーファンのくせに、公開当時観る機会に恵まれず、今さらながら初めて鑑賞。
ひとことで言ってしまえば、綺麗な映画。僕がソフィー・マルソー熱烈ファンであることは抜きにして(笑)。映像に関しては工夫もされてるし、手も抜いてない。カメラは日系のダリン・岡田。ロシアで実際に撮った風景、灰色の空の何とも言えない色彩。アンナとブロンスキーが初めて出会う列車の場面は、蒸気の向こうから黒いヴェール越しのアンナが見えてくるいい演出。キティが何枚ものドアと部屋を通り抜け、ワクワクしながら舞踏会へと向かう場面のワンシーンワンショットの移動撮影。映画後半、アンナが社交界での悪い評判で家から出られなくなる場面の光と陰。それぞれ巧いな、と感じさせる場面は多々ある。ところが、あの長編小説を2時間に綺麗におさめるべく頑張ったバーナード・ローズの脚本は、どうしても原作のストーリーが淡々と流れていくようにしか感じられないのが残念。舞踏会でアンナとブロンスキーが踊る場面が、「その数分が暗い子宮に火をつけた」とまで思えるような情熱的な思いが伝わってこない。表情や視線、添えられた手にもっと迫ってくれていたら・・・。「若い子に恋するのは愚かだけど、人妻に恋するのはロマンティックよね」と別の伯爵夫人にけしかけられたブロンスキー。ペテルスブルクに舞台を移してからも、突然立ち上がってアンナの上着を脱がし始めたり、懐妊を知って動揺もしない・・・お前、ちょっと身勝手やん!と内心思いながら観ている僕はやっぱりソフィー側でひいき目に観ているのでしょうかw。
不倫と世間で騒がれる恋の果て。二人の思いとおりに事が運べばよいだろうが、うまくいかなければギクシャクして愛情が崩れ始める。それまでストーリーを追っていただけのような淡々としていた映画が、終盤になり雰囲気が一変。アンナが狂気におちていく場面だ。常軌を逸していくヒロインをアンジェイ・ズラウスキー監督作でさんざん演じているからか、疑心暗鬼に陥るアンナはとても迫力があるし生々しさまで感じられる。そして列車に飛び込むラスト。ビビアン・リーが演じた映画ではここで映画は終わる。しかしこの「アンナ・カレーニナ」は、二人の姿を見てきた人物に再び焦点があてられるひと工夫が付け加えられている。だけど、二人の悲恋を中心に据えて撮った映画ではないことが、このエンディングでさらに客観的なものに強調されてしまった気がする。観る側が期待したのは悲恋の果てを描くメロドラマ。アルフレッド・モリーナは確かに映画冒頭から語り部ではあったが、どうも中途半端な印象だ。
名指揮者サー・ゲオルグ・ショルティによるチャイコフスキーが聴けるのはクラシック音楽ファンには嬉しいところ。
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