■「たまこラブストーリー/Tamako Love Story」(2014年・日本)
監督=山田尚子
声の出演=州崎綾 田丸篤志 金子有希 長妻樹里 山下百合恵
「涼宮ハルヒの憂鬱」以来、京都アニメーション作品はとりあえず観るというのが、自分の中で定着してしまっている。「けいおん!」のスタッフが手掛けた「たまこまーけっと」は、派手さはなく、どちらかというと女子向け?な印象だった。主人公はうさぎ山商店街のもち屋の娘、たまこ。のほほーんとした性格で、向かいに住む幼なじみであるもち蔵の恋心にも気付かない。ある日、南の島から王子のお妃探しのためにやってきた不思議な鳥デラが街に現れる。もちを気に入ったデラは、たまこの家に居候することになり、騒動が毎回起こるってなお話。今どき、南の島の王子様やらお妃探しとか現実味ねぇ~、と最初は思っていたのだが、商店街の心優しい人々とのご近所つきあいや、たまこの高校生活がほんわかとしたムードで描かれて、懐かしいような癒されるような気持で毎回見るのが楽しみになってきた。もち蔵の恋のゆくえに大いに共感しながら。本作はその劇場版だが、テレビシリーズの再編集ではなく完全新作。デラや占い師のチョイなど、作品のコメディ部分を担う南の島の人々は同時上映の短編で登場させておいて、高校3年になり進路選択が迫った主人公たちの迷いと恋のゆくえに絞ったストーリーになっているのだ。
映画館のチケット売り場で、映画名を告げるとスタッフの方が、「ありがとうございます。たまこ、いいですよ~。きっとお若い頃の恋愛とか思い出しちゃいますよ。」とにこやかに話しかけてくれた。僕の生息地の映画館ではこの作品は観られないと思っていたので、「上映してくれてありがとう」と僕も告げた。気持のいいやりとりを経て、劇場へ。
友人のみどり、かんなは大学進学、しおりは留学と進路を考えている中、たまこは家業のもち屋を継ぐこと以外考えていなかった。一方、もち蔵は東京の大学で映像を学ぶことを決めているが、たまこにはまだ言い出せずにいた。もちろん自分の恋心も。みどりのひと言で告白せざるを得なくなったもち蔵は、学校帰りの河原で、東京の大学に行くことを告げ、気持を打ち明ける。もちのことばかり考える"変態もち娘"たまこは、もちろん恋愛に免疫などまったくない。幼なじみの関係がずっと変わらない、と思い続けてきたたまこは、それからもち蔵と会ってもギクシャクしてばかり。バトン部の高校生活最後の思い出に、と出演を決めたイベントの練習もうまくいかない。たまこにとっては、もち蔵の気持と友人たちの進路を決める姿を見て、このまま変わらない自分でいいのか、と悩み続けることになる・・・。コメディ部分を排してたまこともち蔵に話を絞った分だけ、すごく感情移入できる作品になっている。この作品の魅力はキャラクターのよさもあるのだが、今どきの高校生の話なのにどこか懐かしい、僕ら世代にも共感できる要素がたくさんあるからだ。
僕が幼い頃暮らしていたのは駅前の商店街に近い場所で、通学路はまさに商店街のアーケードだった。七夕の頃には高い天井から吊された飾りをかき分けて歩いた。ときどき脇道の"大人の世界"を通って帰りながらエッチな映画のポスターに驚いたり、ツッパリ男子高校生御用達の学生服屋をのぞいてみたり。生まれて初めてもらった賞状は、商店街主催の「ちびっ子まんがコンクール」だった(どうせ怪獣の絵でも描いたんだろうけど・恥)。お祭りの時期には周辺に住む小学生は御神輿かついで商店街を練り歩いた。御神輿かついだ子供に日当300円を手渡してくれるのは、商店街の元締めみたいな優しいおじさん。学校帰りのたまこみたいにお菓子屋やおもちゃ屋のおばちゃんと挨拶していたし、洋服屋を営む外国人一家の息子とは友達だった。クリスマスプレゼントの包装が商店街のおもちゃ屋のものだったのを指摘したら、「そこでサンタさんに預かったのよ」と母親は笑って言った。あの頃、近所の商店街はまさに世界の中心だった気がする。主人公たまこは、もっとディープに商店街の人々と接して育ってきたんだろう。そしてそのまま成長した。
二人の交流はケータイも使わず、子供の頃と同じ道路を隔てて糸でんわ。なんか幼いまんまで、ロマンティックでもない。でも文字通りつながっている二人の関係。そして親世代である僕らを泣かせるのは、テレビシリーズのクライマックスで解き明かされた、亡き母親が口ずさんでいた歌の謎。それは、たまこの父親が母親に告白するために作ったオリジナルの歌だった。この劇場版ではオープニングテーマ曲としていきなり流れ、物語の進展に大きな役割を果たす。歌で告白・・・って、きっと僕ら世代は憧れた行動だと思うのだ。オフコースの「僕はこの思いを調べにのせて」って歌詞に共感したり、チューリップの「ぼくがつくった愛のうた」や、恋人の名前をタイトルにしたポール・サイモンやビリー・ジョエルの曲に涙したり。音楽といえば、商店街のレコード喫茶(たまこの父親とはバンド仲間だった人物)が、主人公たちにつぶやくひと言が素敵。ここで流れる古いロックやポップスもこの作品の魅力のひとつだし、カウンター越しの人間関係というのも、今どきの若い子たちよりも僕ら世代に響くシチュエーション。いやはや、「たまこまーけっと」という作品が狙ったターゲットは実は僕ら世代も含まれていたのか。テレビシリーズでは次々に出てくる女の子たちに気をとられて(恥)、ぼんやりと見過ごしていたのかも。本編では亡き母親が回想シーンで登場(日笠陽子さん、グッジョブ!)。高校時代の父親とのやりとりがまたじーんときます。
みどりの粋な計らいでたどりつくラストシーンの告白。「だいすき」って何気ないひと言がこんなにも心に染みる。