◼️「5つの銅貨/The Five Pennies」(1959年・アメリカ)
監督=メルヴィル・シェイヴルソン
主演=ダニー・ケイ バーバラ・ベル・ゲデス ルイ・アームストロング チューズデイ・ウェルド
「午後10時の映画祭」と勝手に題して、家で旧作をちょくちょく観ている。新作を必死に追いかけるのも楽しいけど、新旧問わず本当に良い映画にはきっとまだまだ出会えるはずだ。今回は、子供の頃に断片的に見ていて、親が「よかった」を連呼していた映画「5つの銅貨」に挑んでみた。
実在のコルネット奏者レッド・ニコルズの伝記映画だ。映画は冒頭から盛り上げてくる。自信に満ち、音楽のことしか考えられないレッドが、恐れ多くも当時人気ミュージシャンだった"サッチモ"ルイ・アームストロング(本人役で出演)が演奏する店で飛び入り演奏するのだ。しかも教会で歌われるリパブリック賛歌をジャズアレンジで聴かせる。
そしてその店に同伴していたショーガールと結婚。CMの仕事で食いつなぐも失敗の連続。その後、若手で腕のいいミュージジャンを集めて自身のバンドを結成する。そもそも黒人音楽だったニューオリンズ発祥のジャズを、よりポピュラーなのものとしたデキシーランドジャズ。彼らの演奏スタイルは人気を博した。ところが、ひとり娘がポリオに感染して、後遺症が残る。レッドは楽器を捨て、造船所で働くようになる。同じ楽団員だったメンバー、グレン・ミラーらの成功を聴きながら。
ダニー・ケイの芸達者ぶりは名作「虹を掴む男」でもよく知られているが、本作では主演だけに歌も笑いも見事なパフォーマンス。眠れないという娘の相手をする場面の微笑ましさ。それでも眠れない娘とルイの店へ行き、聖者の行進を歌い演奏する場面の掛け合いは、もう圧巻。なんて贅沢な音楽映画。
この聖者の行進の演奏は、高校時代にNHK FMでやってた映画音楽番組で流されたのをエアチェック(もはや死語。平たく言えば録音)して繰り返し聴いていた。映画本編は観ていないけど、音楽家の名前を言い合う即興の見事な掛け合いは覚えていた。だから今回観て「あ!これだー!」ともうテレビの前で嬉しくなっちゃって。僕は中学高校吹奏楽部でトロンボーン担当。スウィングジャズのノリが大好きだった。タイミングよく地元映画館でリバイバル上映された「グレン・ミラー物語」を観て、さらにあれこれ聴くようになる。この音楽体験があるから、ウディ・アレン作品でよく流れるこの時代のジャズがとても心地よく感じられる。何事も無駄な経験はないね。
数年が経ち、後遺症が残る娘は父親が実は有名ミュージジャンだったことに気づく。何故音楽から離れたのかを尋ねても頑なな態度をとるレッド。その一方で、かつての仲間たちからカムバックのオファーがやってくる…。
前半のお茶目で明るいダニー・ケイが一転してシリアスな表情となる後半のドラマ。葛藤を抱えながら再びステージに立つレッドに、サプライズが待っている。あー、こりゃ泣けるわ。親が「よかった」を連呼していたのは当然。いや、むしろ自分が親の立場でこの映画を観たからこそ、当時の親の「よかった」が理解できた気がする。奥様役のバーバラ・ベル・ゲデスは、ヒッチコックの「めまい」で主人公を心配するメガネの女友達だった女優さん。
The Five Pennies Trailer 1959
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