◾️「危険なメソッド/A Dangerous Method」(2011年・イギリス=ドイツ=カナダ=スイス)
監督=デビッド・クローネンバーグ
主演=キーラ・ナイトレイ マイケル・ファスベンダー ヴィゴ・モーテンセン サラ・ガドン
デビッド・クローネンバーグ監督作なのに毒がない。そりゃ、精神分析医と患者が愛人関係になるお話と聞けば、スキャンダラスな響きはある。おしりペンペンされて興奮する彼女を抱きしめてしまうユング先生。確かに淫らな場面ではあるのだが、ユング先生が関係に溺れていくこともなく、己を抑え込む姿がかえって痛々しい。さらに師匠フロイト先生とも、考え方の違いで対立してしまうからなおさら。一般にも受け入れられる線に落ち着いた印象。
代表作のようなビジュアルのおどろおどろしさを求める気はないけれど、この内容ならクローネンバーグ監督でなくてもよかったのではと思えてしまう。それでもこの映画のユングは、クローネンバーグ映画に共通する何かに"堕ちていく男"の系譜とは言えるかな。
マイケル・ファスベンダーは、僕にとっては「プロメテウス」を筆頭に冷徹なイメージが強い。なので、この映画で演ずる、考えて悩んでだんだんと病んでいくユング役はとても人間的に見えた。キーラ・ナイトレイは、患者としてユングの元に連れてこられるヒロインが、ユングとの対話を通じて自分を見つめることで落ち着きを取り戻していく様子を、歪んだ表情やひきつった動きでこれ以上あろうかという熱演をみせる。元患者の精神科医としてユングの信頼を得るラストに向かって、だんだん印象が変わっていく。この演技には圧倒される。
映画『危険なメソッド』予告編