◾️「グレース・オブ・ゴッド 告発の時/Grâce à Dieu」(2019年・フランス=ベルギー)
監督=フランソワ・オゾン
主演=メルヴィル・プポー ドゥニ・メノーシエ スワン・アルロー エリック・カラヴァア
映画が公開された現在も訴訟が続いている、神父による性的虐待事件を描いたフランソワ・オゾン監督の新作。オゾン作品の魅力は、独特のユーモアや斬新な切り口の作風。だがこの映画は実話で、しかもその騒ぎの渦中での映画化という普通では製作すら難しいもの。関係者や団体の反対は必至だし、ましてやこのケースでは教会というヨーロッパ社会における強大な存在が相手。上映差し止めの声も挙がったと聞く。「ダヴィンチ・コード」の時にもそんな話があったから、教会の内幕が描かれるのを嫌う層は確実にいる。
オゾン監督のこれまでの作風は封じられたと確かに感じたけれど、人物とその心に深く切り込んでいく演出の力は、これまで以上に発揮されており、神父の行為によって心を傷つけられた3人の男性の心情と行動が深く掘り下げられて、現在の訴訟に至るプロセスが生々しく描かれている力作。
被害者の会立ち上げ、告発、と同じベクトルでいるように見えて、三者三様の思いがすれ違う。この描写が見事だ。最初に神父を訴えようとしたアレクサンドル。彼は神父や事件を見過ごした教会を恨む一方で、「教会を救いたい」と言う。しかし、子供に「まだ神を信じてるの?」と尋ねられて言葉を発することができない。この場面の葛藤を思うと胸が苦しくなる。3人の中で闘士として前面に立つのがフランソワ。捜査に影響があるから、と警察に言われてもマスコミを煽ることを辞さない。過激な言動もあり、被害者の会ではメンバーに諭されることも。そして3人目は法的なら解決を望むエマニュエル。他の二人と違って家族はなく、母親に長年支えられている。事件の影響からか、時折発作を起こして倒れてしまう。フランソワとエマニュエルは復讐心が強く、カトリックの信仰を捨てても構わないとまで言い始める。
彼らをとりまく家族の間にも、事件がきっかけで大きな亀裂が入っている。観ていて辛い場面も多い。それでもこの140分弱の上映時間は、決して飽きさせることはない。スキャンダラスな事件の影で、被害者の男性たちがどんな思いでいるのかが生々しく描かれている。「しあわせの雨傘」や「8人の女たち」のような楽しさはないから、二度三度と観る映画ではないかもしれない。だけど、現在進行形のリアルが描かれる映画なんて少ない。異国で起こっている現実とその渦中で生きる人々を知るという意義はあるはずだ。