◾️「シェルブールの雨傘/Les Parapluies de Cherbourg」(1963年・フランス)
監督=ジャック・ドゥミ
主演=カトリーヌ・ドヌーヴ ニーノ・カステルヌオーヴォ アンヌ・ヴァルノン
ジャック・ドゥミ監督作品、特にミュージカルテイストの作品は高く評価されている。名作と名高い「シェルブールの雨傘」はまさにその代表で、全編台詞が歌になっているという挑戦的な作品。愛の言葉はもちろん、日常会話、ウィやノンに至るまで全てにメロディがつく。絶対音感を持っている人に、世界はこんな風に聴こえるのだろうかとは言わないが、初めて観た頃の僕はこの世界を受け入れきれなかった。
ミュージカル映画は嫌いじゃない。高校時代に「ウエストサイド物語」のリバイバルを観て、サントラのレコードも買って聴きまくったし、「雨に唄えば」は「スターウォーズ」以上に繰り返し観ている。ドゥミ監督作でも「ロシュフォールの恋人たち」は、「双子の歌」を毎朝聴きたいくらいに大好きなのだ。どれも初めて観たときからハマったけれど、「シェルブール」は別格だった。すごく高尚なものに触れた気がして、すごいとは思ったけど素直に感動できなかった。
あれからウン十年経って、映画館で「ひまわり」と二本立てで観る機会に恵まれた。あー、やっぱり響くところが違う。あの頃と自分の何が違うかって、ひとつは音楽担当したミシェル・ルグランの偉大さを知っていることだ。メロディメーカーとしてだけでなく、ジャズピアニストとしてのプレイ、アレンジの巧さ。あれ程違和感を感じていたメロディ付きの台詞が、スッと入ってくる。哀愁漂うあの有名なメロディ以外の部分を、今回はカッコいいと感じ身を委ねることができたのは大きい。もうひとつは、戦争で引き裂かれた二人がそれぞれの人生を歩む姿。妥協で結婚を決めた訳ではないけれど、過去の恋の記憶は失われることはない。そんな切なさが、若い頃とは違って重く感じられるのだ。それぞれの今がきちんと描かれていて、お互いが子供の名前を口にする場面に、僕らはハッとして涙してしまう。これはこれでいい結末なんよ、きっと。
「ラ・ラ・ランド」がオマージュを捧げた映画とされる。だけど、別れた後の二人の現実を見せた「シェルブール」とは違って、「ラ・ラ・ランド」はもし別れなかったら…と本編とは違う結末を示す、お涙ちょうだいで、未練がましくて、陰気くさい悲恋ミュージカル。テクニックはすごいと認めるけど、実は大嫌いなんす。
ウン十年経って、やっと「シェルブール」を受け止められた。でも改めて観て思った。この上映時間で「ジュテーム」と「モナムール」を何回聞かされたのだろう。しばらく聞かなくていいや。でも僕に言ってくれるならw