◼️「マチネー/土曜の午後はキッスで始まる/Matinee」(1993年・アメリカ)
監督=ジョー・ダンテ
主演=サイモン・フェントン オムリ・カッツ ジョン・グッドマン ケリー・マーティン
TSUTAYAの発掘良品で復刻された愛すべき良作。これを復刻してくれて感謝。
あわや第三次世界大戦の危機と言われた1962年のキューバ危機。そんな一触即発の状況下で落ち着かないフロリダ州キー・ウェスト。街の映画館では、人気B級映画監督ウールジーの新作「MANT(アリ人間)」の封切りが迫っていた。B級ホラー好きの少年ジーンはこの映画を楽しみにしているが、海軍に勤める父親がキューバの海上封鎖の任務に就いたことで不安な気持ちを抱えていた。ウールジー監督は映画館に様々な仕掛けを施して観客の恐怖を煽ろうとするが、それが元で上映中に騒ぎが起こることに。ジーンは同級生のサンドラと核シェルターの中に閉じ込められてしまう…。
映画が娯楽の中心だった時代。周りを見渡せばご近所さんや同級生ばかり。それだけにスクリーンに向かう人々が同じものを観て感じている一体感に、観ているこっちまでワクワクしてくる。ウールジー監督が観客を驚かすために劇場の椅子を揺らしたり風を出したりする仕掛けは今の4DXの先駆け。その仕掛けが引き金となって、大騒ぎを巻き起こしてしまう。クライマックスは、映画館の中が大パニックに。愛すべき青春映画だったはずが、「グーニーズ」みたいなアドベンチャーに。それだけでも楽しい映画だ。
しかし。この映画は単なる青春コメディで終わらない。核戦争の脅威が迫る中で、放射能でアリ人間になってしまうホラー映画を上映するのは「不謹慎だ」と、一部の大人たちは良識ある顔をして反対運動を起こす。それはわからんでもない。だって、キューバ危機という現実を前に世間には恐怖があるからだ。例えばゾンビに取り囲まれるような怖い映画を観ても、僕らは戻って来られる現実があるから、2時間身を委ねられる。だけど戻るべき現実に恐怖があるなら、映画を楽しめないどころか、上映すること自体が不謹慎だ、それどころではないという気持ちにもなるだろう。「スーパーマン リターンズ」が公開された2006年。同時多発テロの記憶もまだ生々しい頃。旅客機が落ちそうになったり、ニューヨークに危機が迫るのを僕らは心から楽しむことはできなかったではないか。
そして「マチネー」では、ウールジー監督が仕組んだ爆発や破壊の描写を現実だと誤解した観客によってパニックが起きてしまう。ジョー・ダンテ監督はこの映画に、自分のB級映画愛だけでなく、映画が楽しめる平和な世の中であるように、という祈りを込めていると思うのだ。映画のラスト、ウールジー監督を演ずるジョン・グッドマンはこう言う。
「眼は開いておけよ」
それはホラー映画のショックシーンについてではない。"現実"から目を離すな、というメッセージなのだ。
大槻ケンちゃんが宝物にしたい映画と評したと聞くが、その気持ちすごっくわかる。青春映画にピリリと効いた社会派のテイスト、そして映画愛。ただ楽しいだけの映画じゃない。そこには大人になる上で大切なこともしっかり描かれていたんだ。
マチネー 土曜の午後はキッスで始まる 日本劇場予告編