◼️「007/ゴールドフィンガー/Goldfinger」(1964年・イギリス)
監督=ガイ・ハミルトン
主演=ショーン・コネリー ゲルト・フレーベ オナー・ブラックマン シャーリー・イートン
子供の頃、自動車の図鑑を眺めて楽しんでいた。あるページで手が止まった。その見開きのページには「スパイの車」とある。フロントに機関銃、リアから煙幕が出て、ナンバープレートが回転して変わり、隣を走る車をパンクさせる装備があって、助手席に乗った悪い奴は屋根から放り出される。なんだこれ、カッコいい。ウルトラ警備隊のポインター以上に少年の心に刻まれた。そして数年後。その車が登場するスパイ映画を少年が観る日が訪れた。「007/ゴールドフィンガー」である。
アメリカが舞台になる最初の作品だけに派手な印象のエンターテイメント。マイアミビーチからイギリス、スイス、再びアメリカと舞台も豪華だし、ボンドのプレイボーイ振りはますますお盛ん。そしてスパイ映画の魅力である秘密兵器が大活躍する楽しさ。コネリー主演の007映画では欧米で最も支持されているというのはうなづける。
悪役は、自分の保有する金を増やし、価値を上げるためには手段を選ばない大富豪ゴールドフィンガー。吹替版育ちなもので、顔を見るだけで滝口順平の声が脳内再生されちまう。憎たらしい役柄だが、演じたゲルト・フレーべは、ナチス党員の肩書を利用してドイツ国内のユダヤ人を逃して匿っていたという経歴があると聞く。こういう裏話を知ると映画ってまた面白い。そしてオッドジョブ(吹替版育ちなもので"よろず屋"とつい呼んでしまう😅)の不敵な存在感。こうした個性的な悪役の存在が007映画を楽しくしてくれる。
ボンドが女性を味方につけるやり口がかなり露骨で、それがなければ成功しなかった任務にも見える。オナー・ブラックマン演ずるプッシー・ガロア(この役名が既に男性目線)は「男性に興味ない」と言い切っている。今のLGBT目線だと、彼女を力づくで押し倒したボンドを不快に感じる方もいるかもしれない。ゴールドフィンガーのやり口に疑問を感じていた気持ちが表現されていたら納得できるのかもしれない。
007映画好きの親父殿は、身支度を整えたボンドに、ガロアが「剃りあとが素敵よ」と言って銃で頬を撫でる場面でニターっと笑う。ほんっと大人ってエッチなんだから、と当時少年だった僕は思った。今配信で見られる吹替では「深剃りは危険よ」との訳になっていて、ストーリーに緊張感をもたせるひと言に感じられる。どっちのニュアンスなんだろ。