Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

ベルファスト

2022-04-05 | 映画(は行)

◼️「ベルファスト/Belfast」(2021年・イギリス)

監督=ケネス・ブラナー
主演=ジュード・ヒル カトリーナ・バルフ ジュディ・デンチ ジェイミー・ドーナン

元来シェイクスピア俳優であるケネス・ブラナーは、英国文化の継承者の役割がある。近年アガサ・クリスティ作品の映画化を続けているのもそうした姿勢の表れだと思うのだ。ケネス・ブラナーが次に撮ったこの「ベルファスト」は、自身の少年時代を基に、北アイルランドの街で宗教対立を発端にした暴動とそこで暮らす人々が描かれる。これまでブラナーが手がけてきた文学作品の継承でなく、忘れてはならない歴史の継承であり、これからへのメッセージが込められている。

紛争についてもっと悲惨な内容を予想していた。厳しい状況は描かれながらも、この映画は少年バディ視点の庶民生活を中心に据える。日に日に悪化する街の様子、ギクシャクする両親の様子も目にするけれど、家族で映画を観たり、学校で好きな女の子に認められたいと願ったり、悪友の万引きに巻き込まれたり、家族で映画「チキチキバンバン」を観て盛り上がったり。変わらない日常がそこにある。

挿入される映画やグッズの数々に思わずニヤリとしてしまう。チラッと映すアガサ・クリスティの本や「マイティ・ソー」の雑誌は、ケネス・ブラナーのフィルモグラフィーに直結する小道具だし、アストンマーチンのミニカーやサンダーバードのおもちゃは60年代の英国を感じさせる。感激したのは、フレッド・ジンネマン監督の異色西部劇「真昼の決闘」とフランキー・レーンの主題歌High Noonを挿入したこと。これが暴動の中で息子と妻を救おうとするバディの父親の行動に重なる描写は実に見事。祖母が好きだった映画として「失はれた地平線」が挙げられるのもいい。理想郷シャングリラが登場するクラシック。そして祖母は「ベルファストから行けはしないわ」とつぶやく。さりげなく目の前の荒廃したベルファストと対比させてみせる。なんて巧い。

バディとその家族に向けられる祖父母の愛ある言葉の一つ一つも胸に残るいい場面。「イングランドに行ったら言葉が通じないらしい」というバディに、「ばあさんとは50年一緒にいるが何を言ってるのか今でもわからん」と言って笑わせる。「大事なのは自分が誰かを忘れないことだ」とのひと言も響いた。そしてラスト、家族に向けられた祖母の短い台詞も忘れがたい。祖父母の仲の良さも素敵だなと思うポイントだが、ギクシャクしていた両親が歌いながら踊るラスト近くもいい。四分打ちスネアがカッコいい、Love AffairのEverlasting Love(余談:U2のカバーもナイスなんです)が流れる素敵なシーンになっている。

戦乱の中で街に住み続ける人々。連日報道されるウクライナの様子とどうしても重なってしまう。何故争わなければならないのか。この映画を観るとますますその疑問と虚しさを感じずにはいられない。

家族愛と郷土愛、そしてポップカルチャーへの愛情を添えた物語。オスカー脚本賞は納得だ。個人的に、アイルランドが舞台となる映画と相性がいいのかな。これまであんまりハズレと思ったことがないし、むしろお気に入りの映画が多い。この作品もその一つとなるだろう。



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