◼️「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語/Little Women」(2021年・アメリカ)
監督=グレタ・ガーウィグ
主演=シアーシャ・ローナン エマ・ワトソン フローレンス・ビュー エリザ・スカンレン ローラ・ダーン
子供向けの世界名作文学全集めいた本が自宅にあった。買ってくれた親には申し訳ないが、兄妹3人で繰り返し読む本は偏っていた。妹たちのはお気に入りは「秘密の花園」と「若草物語」。四人姉妹の誰に感情移入したのかはわからないが、ジョーが髪の毛切るところでいつも泣くとか、ベスがいなくなるところのページが傷んでるとか、言ってたのを覚えている。僕はとりあえず登場人物と筋は知ってる程度で、どハマりしてはいない。だって、その頃の僕はジュール・ベルヌとH・G・ウェルズばっかり読んでたんだもの。
さて、本題。邦題が気に食わないのが理由で観るのをためらっていた本作。なんで終活自分史みたいな邦題になるんよ。家族の物語なんだぞ。しかもサブタイトルで「若草物語」を添えてさ。でも、ふとシアーシャの笑顔が見たくなった。「若草物語」は今回が7回目の映画化だが、不勉強なことに僕はどれも観ていなかった。ウィノナ・ライダーの時も観なかったくらいだから、どっかで女子向けな文学作品だと敬遠していたのかもしれない。でも今までスルーしていた分だけ家族の歴史を刻むドラマにしんみりしたような気もする。
グレタ・ガーウィグ監督は物語の時系列を敢えて崩して、四人が一緒に過ごした少女時代をジョーの回想で示しながら今と対比させる編集を施した。演じてる面々の顔立ちに年齢の差を感じられないから、ちょっと混乱しそうにも思った。少女時代も妻となってもエマたんはエマたんだもんなw。でも時系列が交差する構成にしたのは、僕は効果的だと思った。例えば作家に憧れるジョーの小説家に対する向き合い方の変化は、こうして示したことによって、変わった理由や本当に貫きたかったことが見えてくる。少女時代の自己満足、周りを喜ばせたこと、お金のための軽い読み物、それを批判されたこと、ベスのために書いた物語、誰かの為に書くこと、誰に何を伝えたいのか、そしてたどり着くのは自分と家族の歩んだ日々。これら今と過去を対比することで、今ジョーが進もうとしているのが、しっかりとした一歩に感じられたのだ。
それだけに、執筆を始めたジョーが原稿を部屋中に広げる場面がとても胸に迫ってくる。そこには、これまでの楽しかった日々、悲しかったことが綴られているはずだ。それは邦題の通り彼女の生い立ちでもあるが、家族の物語である。ラストを見届けて、やっぱり邦題は「若草物語」を貫いて欲しかったとも思った。
それにしてもキャスティングがいい。シアーシャ・ローナンは自分に正直で真っ直ぐなジョーには適任。エイミー結婚の報を聞く場面の微妙な表情と、母親とのアイコンタクトに泣かされた。それだけにクライマックスの笑顔が本当に素敵だ。エイミー役フローレンス・ビューは、末っ子の抑え込まれた感情から求婚に葛藤する場面がよかった。「私はいつもジョーの次」と怒ってた彼女が、この後出演するアメコミもので姉妹的関係を演じているのも何かのご縁。母親のローラ・ダーンは、若い頃演じたハジけた役柄を知ってるだけに、落ち着いて娘に向き合う姿が感慨深い。