若い頃を音楽と過ごした自分には、「ぼっち・ざ・ろっく!」はたまらなく愛おしい青春音楽アニメ。
最初からスキルの高い主人公が活躍する話は成長がなくて嫌い。しかし。このアニメのヒロイン後藤ひとりは、ギターすご腕なのになかなか活躍できない。それは周囲とうまくやれないコミュ障だから、陰キャだから。バンドメンバーとの日常や彼女のキャラが巻き起こす騒動を描いたストーリー。
(ごめんなさい、自分の話ですが)
大学時代に軽音楽系のサークルに入った時、変に陽気でノリのいい先輩方が怖くて仕方なかった。高校時代からオリジナル書いてて、幅広く音楽の知識も心意気も、拙いテクニックもあった(つもりの)僕。しかし、"コピーを突き詰めて演奏や情感から学ぶことこそ探究である"みたいな風潮があって、自作曲やりたい!とか絶対言えない空気があった。今で言うパリピ系の先輩方からはイジられたし、そういう関わりからはいつも逃げて回っていた。それでも、使える鍵盤弾きだとキャラも含めてだんだん理解されるようになった。
だからヒロイン後藤ひとりに共感できる自分がいる。彼女が乗り越えなければならない障害物は自分自身。「敵を見間違えるんじゃないぞ」とのひと言をかけられる回は泣くかと思った。好きなことをやっているはずなのに、僕も顔を上げられなかったんだもの。
ロックは反体制の音楽と呼ばれた時代もあった。一般に浸透するものとなってからも、社会や文化に様々な影響を与えてきた音楽だ。デビッド・ボウイがHEROSを歌わなかったら、ベルリンの壁崩壊はもっと先だったかもしれない。しかし現在の多様化した音楽シーンの中で、ロックはそうした位置づけではなくなっている。
それでも何かを打ち破るのがロック。後藤ひとりが少しずつ成長に向かう姿こそが、自分という壁を打ち破るロックなのだ。
それがロック、君のロック。
(これ、みうらじゅんの「アイデン&ティティ」に出てくるフレーズだ)
周囲の波長とうまく合わせられないし、妄想激しいから、突飛な言動をしてしまう。アニメはそこを痛々しいまでに描いてみせる。陰キャを笑いものにして、と不快に感じる視聴者もいるかもしれない。でもこのアニメは社会不適合者めいた存在にして笑いのネタにしてるのとは違う。その言動の背景にあるものをきちんと示してくれている。だから共感できるし、支持がある。
僕らだって、苦手な上司の前でドギマギしたり、得意なことをわかって欲しいけどチャンスがなかったり。そんな日々を過ごしてるじゃないか。何が違う、そんなに変わりはしないじゃない。
初ライブ回、「このままじゃ嫌だ!」演奏中に覚醒する場面のカッコ良さ。学園祭ライブでギターのトラブルを乗り越える妙技。君はまさにギターヒーローだ。ドラムの虹夏から「ぼっちちゃんのロックを聴かせてよ!」と言われるタイトル回収エピソードは泣けた。最終回のEDがアジカンのカバーとか、素晴らしいじゃん。
新しいギターを手にする最終回。本作のようなアニメがきっかけで、誰かが音楽を始めてくれたら嬉しい。「響けユーフォニアム」の時は久美子の立て看が、「バンドリ!」の時はRoseliaのポスターが楽器店を飾った。きっと今度はぼっちちゃんだ!w