◼️「シンドラーのリスト/Schindler's List」(1993年・アメリカ)
監督=スティーブン・スピルバーグ
主演=リーアム・ニースン ベン・キングズレー レイフ・ファインズ
この映画は、幻想を追いかけてきたかつての映画少年スピルバーグが、現実を撮れる巨匠となった作品だ。それを大スクリーンで味わえたのは、映画生活の中でも貴重な出来事だと思えた。
「E.T.」や「オールウェイズ」なような幻想(ファンタジー)、「インディ・ジョーンズ」「フック」のような冒険(アドベンチャー)、「未知との遭遇」「ジョーズ」のような未知なるものとの対峙。それらは、銀幕に映し出された夢の中に僕らをグイグイと引き込んでくれたけれど、そこに現実を思い知らせるドラマは希薄だった。賞取りを狙ったと評された「カラーパープル」や「太陽の帝国」にも、どこかファンタジーを思わせる瞬間があった。それはそれで僕は好きだったけど、作風が合わない人も演出の巧さが鼻につくと毛嫌いする人もいただろう。
「シンドラーのリスト」が他の作品と大きく違うのは、スピルバーグにとって初めて史実に基づく"事実"の映画化ということだ。いくらファンタジックな演出を取り入れても、スクリーンの外側にはオスカー・シンドラーがやってきたことが歴史に刻まれている。多くのユダヤ人を救った事実は、映画とは違うところで感動させるに足るものだ。
多くの実話映画化作品は、その出来に多少の難があっても、スクリーンの外側の事実で感動させてしまいがちだ。現実という予備知識だけで、観客は泣く準備が整っている。その事実をいかに見せるのか、人物像や出来事をいかに語り尽くせるのかが映画化の肝。
「シンドラーのリスト」は、セミドキュメンタリーを思わせる手法で僕らを引きつける。それまで幾度も映像化されてきたホロコーストという歴史上の出来事を、スピルバーグはこれまで培った表現力で、そこにいるかのような臨場感を見せつけた。決して忘れてはいけない虐殺の歴史を再認識させる。
一方で、金儲けしか興味のなかった主人公オスカーが、現実を目にして人間として目覚めていく姿。ユダヤ人を殺すことに快楽を感じていたドイツ軍将校が一人の女性にそれまで経験したことのない不思議な感情を抱く姿。残酷な現実の中で、実に人間味のある登場人物がいる。オスカーを決して清廉潔白な偉人とせず、レイフ・ファインズが演じたドイツ将校を極悪非道なだけの人物にしなかった。それまでのスピルバーグ作品にはなかった人間ドラマだ。車を売ればあと何人か救えたと嘆くオスカーに、ここまで人間は変われるんだと涙した。