◼️「バビロン/Babylon」(2021年・アメリカ)
監督=デイミアン・チャゼル
主演=ブラッド・ピット マーゴット・ロビー ディエゴ・カルバ ジーン・スマート
デイミアン・チャゼル監督が撮る映画はカッコいい。絵になるアングル、長回しで動き回るカメラ、台詞に頼らずに物語を伝える手腕。これまでの作品でも発揮されてきたこうした面は本作でも健在。いや、むしろパワーアップしている。
延々続く酒池肉林のパーティ場面では、人をかき分けてカメラは突き進む。後でストーリーに絡んでくる人を紹介するように止まり、そしてまた動き出す。ギャングに連れて行かれる秘密のクラブに入っていく場面でも、観客もその場に導かれるような気持ちにさせる(嫌だ。もう帰りたい!と思ったもんw)。さらにカメラは自在に動き回り、映画館を俯瞰で捉えたり、踊るマーゴット・ロビーを見上げるエロ目線まで。ヴァラエティ紙の記事や雑誌の表紙で示す成り行きや世間の動き。スマートだし見事だ。
その一方で、観客が娯楽映画で見たくないものを容赦なく示してくれるのもチャゼル監督。象の尻はカメラをも汚し、「猟奇的な彼女」ほど生々しくないけど(笑)激しい嘔吐、秘密クラブの怪しく危険な世界。サイレント時代のハリウッドを描いた映画だから静かな雰囲気かと思ったら、セット撮影場面のうるさいことうるさいこと。音が記録されないからすぐ隣で別な映画撮っても平気。だからこんな無茶苦茶が成り立っていたんだろう。カメラを借りるために車を走らせる場面は、「セッション」みたいに事故るのかと思ったぞ。
特に映画前半、僕は聴覚に不快感を覚えた。ピーター・グリーナウェイの「ベイビー・オブ・マコン」より人であふれかえる映像に、バズ・ラーマン映画よりやかましいサウンドが乗っかる。それが延々続くんだもの。あーもぉー😩、この映画、チャゼル監督の代表作「ラ・ラ・ランド」(大嫌い)より嫌いかも。
ところが、トーキーの時代に物語が進むとピタッと音が止む。同時録音のために撮影現場が静まりかえるからだ。この切り替えが見事。「ファースト・マン」の月面シーンで無音になるところも見事だったな。この撮影場面から先のストーリーの進み方はさらに緻密になっていくし、僕らも映画への没入感が高まっていく。映画が音を伴ったことで地位を追われていくスタアたち。その末路は厳しく哀しい。そして、かつて同じテーマを扱った名作ミュージカル「雨に唄えば」が引用される。
映画のラスト、主人公が映画館で「雨に唄えば」を観て号泣する場面がたまらなく胸に迫るのだ。
「映画という未来に残り続ける大きな存在の一部になりたい。」
そう思って撮影所で働いて頑張ってきたんだもの。トーキー導入の苦しさ。あの現場にいたんだもの。でもその涙はいつしか銀幕を見つめる笑顔に変わっていく。カメラは場内を舐めるように移動して、観客のニコニコした表情を映していく。映画は夢を与え続けるもの。あの頃も今も。この映画への愛が込められた場面の印象が、それまで不快だった部分を吹き飛ばしてくれる。今回も巧さを見せつけるな、チャゼル監督。前半の不快感がなければ好きな映画だったかも。
歴代の映画の名場面をつないで、後の時代から今まで残り続ける映画たちを示す場面。本筋に関係ないからズルいと思うけど、確かに感動的ないい場面。でも似たようなことは、ニール・ジョーダン監督の「インタビュー・ウィズ・バンパイア」で、もっと筋に則してやってるからね。
「セッション」が大好きなだけに、僕はチャゼル監督への期待が大きくて、目線が厳しいのかな。でも最後に言わせて。
長えよ!長けりゃいいってもんじゃねえよ!