Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

ファルコン・レイク

2023-09-17 | 映画(は行)

◼️「ファルコン・レイク/Falcon Lake」(2022年・カナダ=フランス)

監督=シャルロット・ル・ボン
主演=ジョゼフ・アンジェル サラ・モンプチ モニア・ショクリ

ケベック州の湖のほとりにある母の友人の家を訪れた一家。もうすぐ14歳になる主人公バスティアンは、母の友人の娘16歳のクロエと同じ部屋で過ごすことになった。年上の女子への憧れにも似た気持ちと、同じ10代である共感。理解できるようで理解できない彼女の行動は、時に優しく、時に残酷。同じ時間を過ごしているようで、どこか置いてけぼり。

今どきこんな言い方しないかもしれないけど、バスティアンはローティーンからミドルティーンになろうとする歳頃で、クロエはもうすぐハイティーン。その時期の3歳年上って、自分よりすごく大人びて見えるもの。相手を振り向かせるにはどんな言葉を選んだらいいのだろう。どんな行動をとればいいのだろう。大学生くらいの男子たちとワインやビールをラッパ飲みするクロエを見て、同じ行動をとるけれどまだ身体がアルコールを受けつけず、無様な姿を見せてしまう。

一方でクロエと性について会話する場面や、10代だから抱えている孤独やなんとも言えない不安を共有する場面では、二人の距離は誰よりも近くなる。同じベッドで寝ながら、"人生でいちばん怖いこと"についてクロエが話す場面はとても印象的なだった。親に自慰行為を見られることだと答えたバスティアン。性に目覚めた男子らしい精一杯の大人ぶった答えかもしれない。

クロエは誰とも分かり合えないことだと答える。彼女は誰ともなじめないと今まさに感じている。その不安を打ち明ける。湖で水死した人がいて、その幽霊が出ると言うクロエ。それは大人たちを自分に振り向かせたくて口にする言葉で、親たちはまともに取り合ってくれない。パーティで一緒に踊る年上の男子たちや大人に、不安な気持ちを言えないけれど、同じ"ティーン"で括られるバスティアンになら言えること。布を被ったバスティアンに寄り添いながら、悩みを打ち明けるクロエは、聖母像に向かって告白をしているようにも見えた。

髪を洗うクロエの背中を見つめる場面。泳ぐのが苦手なバスティアンが湖に入ったところで、クロエがシャツの裾をまくる場面。二人が暗闇で触れ合っている場面。そんな無言の思わせぶりなシーンも、二人の距離を僕らに映像だけで概算させ、強く印象づける。

そして映画のクライマックス。大人ぶって強がりな返事を示したバスティアン。その後、そこで何が起こったのかは具体的に示されない。喪失感漂うその様子を、カメラは主観移動のように捉えていく。無言のラストシーンに解釈は人それぞれだろう。僕は、微かに振り向いたクロエの動きこそが答えだと感じた。湖の風景と薄暗い森の風景。それは閉鎖的で、逃げられないホラー映画の舞台めいた雰囲気がある。秘めておきたいティーンエイジャーの気持ちも、湖だけが知っている。




コメント
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