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キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

アリスとテレスのまぼろし工場

2023-09-03 | 映画(あ行)

◼️「アリスとテレスのまぼろし工場」(2023年・日本)

監督=岡田麿里
声の出演=榎木淳弥 上田麗奈 久野美咲 瀬戸康史 林遣都

製鉄工場の事故をきっかけに時間が止まり、空間的にも閉鎖されてしまった町。大人たちも子供たちも変わらないでいることを強要される。大きな変化を望むと空がひび割れ、その空の隙間を狼の頭をした煙が巻き起こって埋めていく。そしてまた何事もない日常が続く。それがまぼろし工場のある本作の舞台だ。

「うる星やつら ビューティフル・ドリーマー」や「涼宮ハルヒの憂鬱」にも出てくる閉鎖空間。変化を望む心がその壁を打ち砕く。それはこの「アリスとテレスのまぼろし工場」でも同じだ。本作では14歳の彼ら彼女らの知らず知らず知らずに惹かれあう気持ちが、変わろうとするひとつの原動力となっていく。

岡田麿里監督が携わった作品では、過去と向き合う辛さが示されてきた。それは今と対比することで観客の僕らをも巻き込んで、共感の気持ちを湧き上がらせた。これまでの作品をちょっとした共通点は確かにある。出られない空間や過去の人物への片思いは「空の青さを知る人よ」、自分の気持ちを吐き出すような告白は「ここさけ」を思わせる。

でも確実に違うのは、本作はただひたすらにまっすぐ未来を見据えていること。映画の中の街の行末は混沌としているけれど、スクリーンのこっち側も未来もなんなモヤモヤしている。でも、今いる世界がどうであれ、今自分はここにいる。ここにいて人とつながっているし、時には惹かれあっている。その気持ちに嘘はない。上気した頬の火照りや、息づかい、肌が触れるもの、匂い、ぬくもり。これまでのアニメでは見たことのない、生々しさを感じる描写は、確かにそこに彼ら彼女らがいる証を示す。「好き」という気持ちが急に高まる様子や、どれだけ胸をざわつかせる感情なのかを、丁寧に描いてみせる。
「好きって、痛い?」
そうだよ。好きになるって、そういうことなんだよ。主人公の叔父を通じて、大人の「好き」も、ちょっとだけ示される。いいね。

「好き」が行動の根底にあるお話だけど、正宗が絵を描くのが得意なのも「好き」→イラストレーターになりたいって変化につがっている。惚れた腫れただけの話だけではない。

多くの方の感想にもあるように、タイトル回収してくれないことに、正直僕も戸惑っている。岡田麿里監督のインタビューを読んで、そもそもの構想(狼少女2人の物語)や言葉を選んだ気持ちはなんとなくわかった。哲学者の名前が二人組の名前だと勘違いしていた幼い頃の記憶が発想の元にあるのだそうだ。

映画館を出て、なーんとなく浮かんだ落としどころ。自分の存在、憧れ、未来、生きる意味について深く考えている正宗と睦実たちこそ、結論を出せずにいる悩める哲学者コンビ。そしてその世界に現れた謎の少女は不思議の国に迷い込んだアリスなんだ。こんなことを考えちゃうのは、「空の青さを知る人よ」のタイトル回収場面で泣いてしまった自分😭だからなのかも。

なーんかまとまりのないレビューになったけれど、なかなかの力作なのは間違いないです。はい。

試写会にて鑑賞。
 


コメント
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