新型コロナウイルス感染拡大防止対策で 4月25日から5月11日まで、3回目の「緊急事態宣言」が出され、更に5月31日まで延長されている当地、未だに収束の見通しが立っておらず、更なる延長の声も上がっている。利用している市立図書館もずっと休館中だが、「緊急事態宣言」が出される前に図書館から借りていた本が、まだ3冊残っている。通常の貸し出し期間は借りた日から2週間と定められているが、現在、最初に指定された返却期限に拘らず、とりあえず、全て、「返却期限=6月15日」に延長する処置がされている。何事にも、期限、締切が迫らないと なかなか重い腰を上げない爺さん、「読書も 一時休業?」、「ゆっくり、読みゃ ええわい」と決め込んできたが、気がつくと、もう1ケ月以上も放ったらかし。やっと、その気になり、読み始めたところだ。
平岩弓枝著 「新・御宿かわせみシリーズ」第4弾目の作品、「蘭陵王の恋」(文春文庫)を 読み終えた。
読んでも読んでも、そのそばから忘れてしまう爺さん、読んだことの有る本を、うっかりまた借りてくるような失態を繰り返さないためにも その都度、備忘録としてブログに書き留め置くことにしている。
新・御宿かわせみ(4)
「蘭陵王の恋」
本書には 表題の「蘭陵王の恋」の他、「イギリスから来た娘」、「麻太郎に友人」、「姨捨山幻想」、「西から来た母娘」、「殺人鬼」、「松前屋の事件」の 連作短編7篇が収録されている。
表題に有る「蘭陵王(らんりょうおう)」は 雅楽の曲目のひとつ?。
ネットで調べてみた。
「蘭陵王」とは 中国の魏晋南北朝時代末期、北斉の高宗の孫に当たり、文帝の4男に生まれた、北斉の王子、高長恭に付けられた名前。才智武勇に優れ、しかも美男の誉れ高かった。564年、わずか500騎の援軍を率いて城門に駆けつけた「蘭陵王」に対し、兵士が敵か味方か判断しかねていた時、兜を脱いで素顔を見せたことで入城、見事、北宗軍の包囲を破って、勝利を導いた。北斉の兵士達は、この勝利と勇姿を称え、「蘭陵王入陣曲」という楽曲を作ったが、そのことから、「蘭陵王」は 戦の時には、龍の仮面を付けて臨んだ等という伝説が生まれたようだ。ただ、「蘭陵王」は その勇姿、武勲なるがゆえに、皇帝からは疎まれ、毒薬を賜り生涯を閉じるという悲劇が付いている。「蘭陵王入陣曲」は、唐の時代になってから、日本にも伝わり、雅楽「蘭陵王」として、現在でも愛され、演じられている、華やかな中にも、哀愁漂う楽曲なのだそうだ。
本篇では 神林麻太郎がロンドン留学中に知り合った友人で、華やかさと爽快感を兼ね備えたキャラクター、式部寮の楽人、清野凛汰郎(すがのりんたろう)が初登場し、次第に主要な登場人物になってくるが、作者は 清野凛汰郎を、「蘭陵王」のイメージで登場させたのだろう。
振り返り
前作の「御宿かわせみシリーズ」(全34巻)は 江戸南町奉行所吟味方与力神林通之進の弟、東吾、元同心庄司源右衛門の一人娘で父親死後、大川端で旅館かわせみの女主人となったるい、東吾、るいとは幼馴染みの定廻り同心畝源三郎が 中心人物の江戸時代末期の物語だったが、「新・御宿かわせみシリーズ」の時代背景は 明治維新後。幕末の混乱期に 東吾は行方不明、源三郎は殺され、旧作の中心人物の内、健在なのはるいだけという設定になっている。江戸から東京に、すっかり変わってしまった風景、物語の中心人物も、旧作の子供達、神林麻太郎、花世、畝源太郎、千春等に変わっているが、随所に、るいや麻太郎の東吾への想いが描かれたり、かっての岡っ引き長助、仙五郎を登場させる等、旧作の流れを途切れさせないうまさがあるように思う。
主な登場人物とあらすじ
「イギリスから来た娘」
ジュリア・セントクレア、リチャード・バーンズ、マギー夫人、村山屋参之助、福島屋万兵衛、
築地居住地のバーンズ診療所に、神林麻太郎がロンドン留学中に世話になった城館の娘、ジュリア・セントクレアが訪ねてきた。彼女の両親は日本人?、養女?、両親の仇討ち?、事件発生。秘められた想い。「貴方に会えたこと、忘れません。一生に一度の大切な思い出として・・・」
「麻太郎の友人」
清野凛汰郎、正吉(かわせみ番頭)、お晴(かわせみ女中頭)、
暴風雨の後の落花狼藉の後片付けをしている「かわせみ」、千春の前に、一見、神林麻太郎に似ていた男が立った。清野凛太郎である。不躾な言動に 老番頭嘉助、老女中頭お吉、板場の男達も包丁、すりこ木掴んで飛び出してきた。凛太郎が かわせみに一時逗留。ある日 千春が離れで琴の稽古中、凛太郎が聞きつけて・・。「あいつ、千春に惚れてる暇なんぞなかろうに・・・」、麻太郎が内心つぶやく・・。
「姨捨山幻想」
おとよ、
江戸時代から「かわせみ」を常宿にしていた信州東筑摩郡の名主松川太兵衛に伴われて、江戸見物にきた老婆おとよ(68歳)、小さな犬張子を4個も買ってきたが、孫は一人もいないという?。男の子2人、女の子2人が次々亡くなった老婆の悲哀。麻太郎と凛太郎は、老婆を代わる代わる背負い、名所を教えながら、戸田橋まで送る場面、ジーンとしてくる篇である。
「西から来た母娘(おやこ)」
汪文秀、翠蘭、周京竹、山勢屋松崎千之助、陳鳳、長助、
清国人と名乗り、居住地に住み着いた美貌の母娘(おやこ)、縁有って治療した麻太郎だが、関西で頻発していた窃盗団の一味だと気付き、一網打尽にする。悪を憎しみ、正義を守ろうとする人の心、一挙一動が、東吾と瓜二つの麻太郎が 目の前で煎茶を飲んでいる・・るいは感慨深く眺めてしまう。
「殺人鬼」
伊勢屋松坂芳兵衛、芳之助、お倉、お梅、松吉、伊豆谷久七、お文、長助、仙五郎、
るいが「かわせみ」の外に出て大川端の堤で、芳兵衛、芳之助親子と出会うところから、物語が始まっている。芳之助(23歳)は 義母(芳兵衛の妻)お倉には 随分と虐待された妾腹の子。そのお倉が殺害され、若死にしたお倉の弟の子松吉も死んだ。女中のお梅も危ない。麻太郎、源太郎が疾走する。果たして?
「松前屋の事件」
松前屋波越宗兵衛、おかね、お佐和、染之助、おさき、清兵衛、お小夜、仙七、
長兄清兵衛が22歳の時、海難事故で行方不明になり、未亡人となったおかねは、義弟だった宗兵衛と結婚、染之助が生まれた。一方で、清兵衛が外で作った子だと騙されて引き取った娘、千春と茶道の同門、お佐和がいる。・・、入り混んだ複雑な婚姻関係の中、清兵衛が生還したとして現れるが、宗兵衛、清兵衛が 毒殺された。実は・・・。犯人は、誰?
「蘭陵王の恋」
清野凛太郎、清野須美子、
「千春はお嫁には行きません。いつまでも母様の傍にいます」、「千春」、るいの声が厳しかった。「あなたの母はそれほど弱虫ではありません」。老番頭嘉助、老女中頭お吉、番頭正吉、女中頭お晴が廊下を駆け付け、「お許しなさって下さいまし・・」、両手を突いてお辞儀を繰り返す。るいは笑いをこらえ切れずくすりとしのび声、「笑った、笑った、母様が笑った。鬼の母様、天女さんになった」
清野凛太郎は、兄(清野家の当主)が亡くなり、その未亡人須美子から夫婦になるよう申し込まれていたが きっぱり断り、いよいよ、千春との結婚意思を強固にした。突然 千春が飛び出してきて「千春は 清野様が好きです」。
千春の結婚が決まり、るいは「かわせみ」に残されることになった。
千春が麻太郎の隣に並んだ時。るいは二人に言った。「ごらん、一番星がもう光っていますよ」
さて、次巻からは、どのような物語になっていくのだろうか。
最も気になるのは 東吾が生きているのかどうか、
千春の結婚までに どんな姿であれ、生還して欲しいものだ等と
読者は 勝手に思ってしまうものだが。
(つづく)