映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「ねじまき鳥クロニクル」 村上春樹 

2016年08月10日 | 本(その他)
“絶対悪”と対峙する男

ねじまき鳥クロニクル〈第1部〉泥棒かささぎ編 (新潮文庫)
村上 春樹
新潮社


ねじまき鳥クロニクル〈第2部〉予言する鳥編 (新潮文庫)
村上 春樹
新潮社


ねじまき鳥クロニクル〈第3部〉鳥刺し男編 (新潮文庫)
村上 春樹
新潮社


 
* * * * * * * * * *

 第1部 泥棒かささぎ編
 第2部 予言する鳥編
 第3部 鳥刺し男編


さあ、読みましたねえ、3冊。
ふう、凄い話だった・・・。
 一言で言ってしまえばつまり、「ねじまき鳥」と称する、一見ごく普通の男性が、
 不意にいなくなってしまった妻を取り戻そうとする話だよね。
そう言ってしまうと身もフタもないんだけどさ、その過程が尋常ではない、ということだよ。


まずは、この1部~3部の章題を読んでもま~ったく内容は分からないし、想像もつかないというのも面白い。
そもそもねじまき鳥っていうのは・・・?
運命のネジをまく鳥、だね。
 人々は自分の意志で運命を切り開くと思っているけど、
 実は予め定められた「運命」を、たどるのだ。
 それはねじまき鳥がネジを巻くことで動き出す。
オカダ・トオル(=ねじまき鳥)は物語のはじめころから、
 この鳥がギリギリギリ・・・とネジを巻く音を聞くんだよね。
言ってみればこのストーリー全般の背後に、この音が響いているのかもしれない。


村上春樹のストーリーには、巨悪というか絶対悪というか、何か悪魔的な存在が登場するよね。
 本作では綿谷ノボルであり、この前読んだ「海辺のカフカ」ではジョニー・ウォーカーだった。
 それは恐怖と嫌悪の対象であり、苦痛と死であり、
 主人公が乗り越え、駆逐しなければならないモノなんだ。
しかも主人公は孤独な存在。
 単身で立ち向かわなければならないんだね。
そう、だけれども実は、色々な人達に助けられるわけ。
 彼と関わった様々な人たちの。
本作でもね、最後の最後、最も危ない場面では
 実は笠原メイが助けてくれたようなんだよね。
そう、彼を井戸の底に取り残したりする、危ない存在ではあったのだけれどね・・・。


それから本作、満州での過去の出来事が下敷きになってるよね。
 顔を背けたくなるようなすご~く残酷なシーンがあったりして。
それだよ。それこそが、その「絶対悪」の恐怖を具体的に表した部分なんだと思う。


だけれども、人はその絶対悪を恐怖する一方、妙に心惹かれてしまうこともあるんだよね。
そうなんだよ。惹かれると言うか、魅入られ、絡め取られて身動きできなくなってしまうんだ。
 それが妻のクミコの立場。
 だから、クミコを連れ戻そうとするのは余計に困難。
絶対悪に対する存在、ということで、もしかして、ねじまき鳥氏は神なの?
いやあ、むしろ「神の子」なんじゃないかな。
 その“しるし”が頬のアザだ。
 人々の苦難を一手に背負い、救おうとあがく。
 まあ、そういう構図ってことだね・・・。
そうか、じゃ結局彼の助けになる人たちっていうのが「使徒」ってことだ!


枯れた深い井戸の底の真っ暗闇。
 そこでは自分の体も何も見えないから、
 自分が純粋に「心」だけの存在になったような気がする。
なんだか分かるような気がするよね。
だからそういう状況で、彼は、ここではない何処かへ通り抜けることができるんだ。
夢と現実の境界がわからなくなったりするのも、村上春樹作品には多いね。
それは事実ではないけれど、真実だったりするわけだな・・・?


実に、深くて興味深いストーリーなのでした。
 こうしてみると「ノルウェーの森」は、村上春樹作品としては異色的に現実的だったんだね。
 ずっと前に読んだ「世界の終わりと・・・」の世界観は、
 今読んでいるようなストーリーを踏まえると、その世界観がもっと分かりやすかったんじゃないかな。
もう一度読みたくなってきたね。

「ねじまき鳥クロニクル」 村上春樹 新潮文庫
満足度★★★★★

トランボ ハリウッドに最も嫌われた男

2016年08月09日 | 映画(た行)
特定の者の意図した先導こそが恐ろしい



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1940年代後半~50年代、
米ソ冷戦のため、米国では「赤狩り」の動きがありました。
共産主義者への厳しい弾圧です。
ハリウッドの黄金期第一線で活躍した脚本家、ダルトン・トランボも
その標的となった一人。
本作はそのトランボの波乱万丈の半生を描きます。



悪名高い下院非米活動委員会への協力を拒んだということで、
トランボは投獄されてしまうのです。
そしてようやく釈放となった後には、ハリウッドでの居場所も失っている。
しかし、彼は偽名でシナリオを量産し続けます。
多くは低予算の陳腐な作品なのですが、
家族を養うためと割り切り、とにかく「面白い」作品を書き続ける。
けれどそんな中にも、以前から温めていた良作も混ぜ込みます。
そんな中で、「ローマの休日」と「黒い牡牛」はアカデミー賞を受賞。
もちろんこれも、実はトランボ作とは知られないままの受賞となったのです。
正に、実力勝負ですね。


自由の国のはずのアメリカで、こんなことがあったというのにも
複雑な思いがこみ上げます。
ほんの僅かの人々(つまりここは「資本家」とでも言うべきか)の思惑と先導で、
こんなにも大衆を突き動かしてしまうのは恐ろしいことです。
いま、このことを言うのはちょっぴり意味があるかもしれません。



さて、けれども、人の口に戸は立てられないもので、
次第に「実はトランボが偽名で多くのシナリオを書いているらしい」
というウワサが広まってきます。
時代の流れということもありますが、
「栄光への脱出」と、「スパルタカス」で、映画界には公式復帰。


本作の副題は「ハリウッドに最も嫌われた男」ではありますが、
嫌ったのは大手映画会社の経営陣。
実は、多くの映画ファンには最も好かれた脚本家なのかもしれません。
二度のアカデミー賞受賞というのが何よりもそれを物語っています。
「ローマの休日」のファンは日本でも多いですしね。



さて、それで本作で胸に響くのはやはり、
逆境に立ちながらも信念を持って生き、仕事をし続けるトランボの姿でしょう。
全く、実話というのは様々な想像を軽々と超えてしまいます。
そして、彼を支える家族の姿も美しい・・・。

これはある意味、アメリカだけでなく日本でもそうかもしれませんが
「かつて」の家族像なのかな・・・と思いました。
今ならこんなことがあれば、あっさり離婚かも・・・。
古き良き『家族像』。
多少の子供たちの反発はありましたけれど。
それこそ、なければできすぎです。




「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」
2015年/アメリカ/124分
監督:ジェイ・ローチ
出演:ブライアン・クランストン、ダイアン・レイン、ヘレン・ミレン、マイケル・スタールバーグ、ルイス・C・K、エル・ファニング

歴史発掘度★★★★☆
男の生き様度★★★★★
満足度★★★★☆


ドリームホーム 99%を操る男たち

2016年08月08日 | 映画(た行)
負け犬に手を差し伸べない国



* * * * * * * * * *

リーマン・ショック後のアメリカ。
住宅ローン返済不能により自宅を差し押さえられた人々の実話を元にしています。



母と、小学生の息子と暮らしているナッシュ(アンドリュー・ガーフィールド)。
大工の仕事をしていましたが、リーマン・ショックで、新築の仕事が激減。
収入が乏しくなりローンの返済が滞っています。
ある日、いきなり不動産ブローカーのカーバー(マイケル・シャノン)が
警官を伴って乗り込んできて、自宅を差し押さえられ、
強制退去させられてしまうのです。
待ったなし、貴重品だけ持って今すぐに・・・と。

平和な生活があっという間に崩れ去る、恐ろしい場面です。
この辺は手持ちカメラで撮影されていて緊迫感があります。
そもそも市民の平和を守るはずの警官がこんなことに加担しているというのも、
どうにも違和感があります。



カーバーは言うのです。
「アメリカは負け犬に手を差し伸べない。
この国は、勝者の勝者による勝者のための国だ。」


このシーンを見れば正に、それが冗談ではないことが痛感されます。
さてしかし、やむなくモーテルに身を落ち着けたナッシュですが、
あろうことか、カーバーの儲け話に乗り、
組んで仕事をすることになるのです。
法の穴をすり抜け、自分と同じような境遇の人々の家を差し押さえて、大儲けをする。
それは失った自分の家を取り戻すためではあったのですが・・・。
次第に法を犯すことまで手掛けるようになり・・・。



家というのは、他の家具などとは違う大切なモノですよね。
それがなければホームレスになってしまうということももちろんありますが、
それは家族との大切な場所であり、自分のアイデンティティの源でもある。
それを簡単に奪ってしまうというのはいかにも残酷です。



私にはアメリカの話、と割り切ることはできません。
この日本も「負け犬に手を差し伸べない」国になりつつあります。
「今」を考えるために、おススメ。

「ドリームホーム 99%を操る男たち」
2014年/アメリカ/112分
監督:ラミン・バーラー
出演:アンドリュー・ガーフィールド、マイケル・シャノン、ローラ・ダーン、ノア・ロマックス、アルバート・ベイツ

「富士丸な日々」穴澤賢

2016年08月06日 | 本(その他)
恋して、直後に失恋・・・

富士丸な日々
穴澤 賢
KKベストセラーズ


またね、富士丸。 (集英社文庫)
穴澤 賢
集英社


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「富士丸な日々」
ハスキーとコリーのミックス?
体重30キロ?時々お腹も壊すけど、雨の日も風の日も楽しく散歩。
そんなおとぼけデカ犬「富士丸」と、
言葉とはうらはらな愛情を注ぐ飼い主「父ちゃん」が1DKで繰り広げるのんびりライフ。
ランキング1位のペットブログ、ついに書籍化。


「またね、富士丸。」
シベリアンハスキーとコリーのミックス犬、富士丸。
日常の愛らしい姿が著者のブログで大人気だったが、
ある夜、帰宅すると、いつも出迎えてくれる富士丸が―。
あまりに突然逝ってしまった相棒。
その喪失感を、飼い主はどう受け止め、乗り越えようとしたのか。
表情豊かな富士丸の写真の数々とともに、別れから4年をふりかえる。


* * * * * * * * * *

何気なく手にしたこの二冊。
一冊で恋に陥り、2冊めであえなく失恋。
そんな気分です。

私、一応ブロガーで、犬好きではありますが、
ランキング1位のペットブログだったという富士丸のことは、
今まで全然知りませんでした。
自分のブログ更新が精一杯で、あまり他のものを見るゆとりがなかったというか・・・。
だからまあ、何を今更、と思われる方も多いのでしょうけれど・・・。


とにかく、このブログが始まったのが2005年。
この富士丸くん、ハスキーとコリーのミックスと聞けば、
確かに、双方の特徴がよく出ていますね。
細く面長な顔の輪郭はコリー犬。
青い目にちょっと怖い顔つきはハスキー犬。
でもこの怖い顔つきなのがまたかわいい、というのは
「動物のお医者さん」のチョビで実証済み。


体重30キロのこの犬・富士丸と、独身男性"父ちゃん"が
1DKの部屋で暮らす様子をブログで綴り、
大人気を得て、書籍化されたものがこの本です。
実際、強面の富士丸が、時に応じて困った顔、いじけた顔、喜んだ顔、のどかな寝顔、
色々な表情を見せるのがとても楽しい。
そして、写真に添えられる文章がまたいいですよ。
例えば富士丸がの下痢が続いた時の文章。

「いいか富士丸、お前は動物なんだから自分で食べて良いものとそうじゃないものの区別ぐらいつけろよ。
何でもかんでも食べて腹とか壊してんじゃないぞ。
掃除だって大変なんだぞ? 
わかってんのかこの下痢犬」


口は悪いけれども、しっかりとした愛情が見えますよねー。
なるほど、男性が犬をかわいがるっていうのはこういう感じ。
女性目線とはまた違った感覚が私には好ましく思えました。
そしてすっかり富士丸のトリコに。


ところが・・・! 
ここからは「またね、富士丸。」の内容になります。
富士丸7才のある日。
いつもと全く変わりなく過ごしていた日。
著者が出かけて帰宅すると、富士丸が息もせず、横たわっていた。
あまりにも突然の早すぎる死でした。
この本は、著者のその後の、すさまじい富士丸ロスの日々が描かれています。
言葉もありません・・・。


富士丸のために山の中に家を新築する、
その契約の前日の出来事だったというのがまた劇的です。
共に過ごした日々があんなにも充実していたからこそ、
その絶望的な喪失感もよくわかります。
ブログファンや著者の友人知人たちの見守りもありますが、
やはり時が解決するのをまたなければならなかったようで・・・・。
かなり切ないですが、動物と共に生活する限りは避けては通れないことですものね。
私も我家の愛犬のことが思い出されて、
悲しくなってしまいました。


「富士丸な日々」のブログは今でも見ることができるので、
少しずつ拝見しようかと思います。
そして著者は現在、Another Daysというブログを立ち上げており、
現在同居している二匹のワンちゃん、大吉と福助のことが綴られています。
また別のワンちゃんと暮らせるほどに、富士丸での心の痛みも癒えたのだなあ・・・
よかったなあ・・・と、安心しました。


「富士丸な日々」穴澤賢 KKベストセラーズ
「またね、富士丸。」穴澤賢 集英社文庫
図書館蔵書にて
満足度★★★★★

フラワーショウ!

2016年08月05日 | 映画(は行)
信念があるから、諦められない



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型破りなアプローチで、フラワーショーの歴史を塗り替えた実在の景観デザイナー、
メアリー・レイノルズの物語です。



メアリー(エマ・グリーンウェル)は、アイルランドの片田舎で育ちました。
自然のままの野草や木が生い茂げり、ストーンサークルがあったりする、
ちょっぴりスピリチュアルでもある場所。
彼女はサンザシの咲き乱れる自然のままの風景が子供の頃から大好きだったのです。
長じた彼女は、その子供の頃の思いをまだ大事に持っていて、
野草の溢れる庭をデザインし、
もっとその良さを世間の人々にも知ってもらいたいと思っているのです。


そこで、有名なガーデンデザイナー・シャーロットのアシスタントに採用されるのですが、
散々こき使われたあげく、大事なデザインノートまで盗まれてクビ。
意気消沈するメアリーに友人は言います。
「あなたのアイデアは、ここにある。」
そしてメアリーのハートを指差すのです。
夢を諦められないメアリーは、
単独でロンドンの世界的なガーデニング大会であるチェルシー・フラワーショーに応募。
審査をパスし、出場権を得たのですが・・・。



限られた期間内に、ガーデンを作りあげなければなりません。
草花や樹木の準備や工事に当たる人員確保が必要。
そして何よりも、そのための莫大な費用のアテは全く無いのです!!


やる気だけはあるけれど、どうにもお先真っ暗な状況の中、
それでもメアリーはめげないんですよね。
彼女はフラワーショウで金メダルを受賞した時のスピーチを紙に書いて部屋の壁に貼り、
いつもそれを見て自分を励ますのです。
やがて彼女の考え方に賛同する人々が現れるのですが・・・。
その中に難物が一人。
植物学者で野草の生態に詳しいクリティ(トム・ヒューズ)というステキな青年。
その甘いマスクに、メアリーはぽ~っとしてしまうのですが、
まあとりあえずホレタハレタをやっている場合ではない。
彼はとても女性には優しいのですが、
エチオピアの砂漠の緑化を目指しており、メアリーに協力しようなどとは全然思わない、
と、そこのところは実に頑ななのです。

どうしても彼の協力が必要だと思うメアリーは、
彼のいるエチオピアへ趣きます。


いやあ、いつになったら庭を作り始められるのだろうと、
いささかヤキモキしてしまうくらいに、なかなか困難な道のりでした。
野草だけの庭。
決して派手ではないけれど、なんだか懐かしく、癒される。
そういう光景は私も大好きです。
バラやユリも確かに美しいですが、
私は、近所の山の公園で、
ひっそりと咲く地味~な花を発見しながら歩くほうが実は好きなので・・・。



そうそう、クリスティはエチオピアで砂漠の緑化に協力していましたが、
そのことを推進していたのが日本女性なんです。
海外の作品で初めてそのことを知るなんて・・・。
日本人として恥ずかしいですね。


「フラワーショウ!」
2014年/アイルランド/100分
監督・脚本:ビビアン・デ・コルシイ
出演:エマ・グリーンウェル、トム・ヒューズ、クリスティン・マルツァーノ

困難度★★★★☆
達成度★★★★★
満足度★★★★☆

大鹿村騒動記

2016年08月04日 | 映画(あ行)
記憶に刻み込まれた村歌舞伎



* * * * * * * * * *

「団地」がとても面白かったので、同監督作品の本作も見てみました。
これも本当は劇場で見たかったのですが、
タイミングが合わず、見逃していたのです。



舞台は、長野県大鹿村。
実際にある村で、ここには江戸時代から300年伝わる村歌舞伎があるのです。
その村歌舞伎を中心として、ストーリーは組まれています。



ある日、この村に到着したバスから一組の男女が降り立ちます。
この二人は18年前駆け落ちをして村を出た能村治(岸部一徳)と、貴子(大楠道代)。
二人は、鹿肉料理店を営む風祭善(原田芳雄)を訪ねます。
善こそは、貴子の元・夫であり、治の幼なじみの友人なのです。
何を今さら、のこのこと二人揃って戻ってきたのか・・・?



実は貴子は認知症で、治のことがわからなくなってしまった。
何故か治に向かって「善さん」と呼びかけたりします。
これは切ないですよね・・・。
年寄りの記憶は新しいものから損なわれていき、古いものほど残るそうで・・・。
だから、はじめの結婚生活の記憶が残っているのはしかたのないことかもしれませんが。
困り切った治は善に貴子を「返す」というのです。
ムシがいいとも思えますが、貴子の幸せを思ったことでもあるような・・・。



有無をいわさず治が貴子を置いていってしまったので、
やむなく善は貴子の面倒をみようとするのですが、思った以上に、貴子は壊れている。
それでもふと、記憶がクリアになることもあるのです。
特に、貴子が以前演じた村歌舞伎のセリフなどはスルスルと出てくる。
ちょうど村では歌舞伎公演が目前に迫っています。
平家の落ち武者・景清と、源氏に嫁いだ道柴の物語。
しかし、道柴を演じるはずの人物が怪我をしてしまい・・・。



村歌舞伎のシーンが良かったですね。
私たちの知っている歌舞伎よりももっと泥臭く庶民的。
野外で行われるそれは、江戸の昔から、人々の大切な娯楽だったのでしょう。
原田芳雄さん演じる景清は、実に迫力がありました。
瑛太さんが、回り舞台を舞台下で人力で回す役。
まあ、なんて贅沢な俳優の使い方ですこと。
そうそう、三國連太郎さんと佐藤浩市さんも出演している。
二人同時に出演するシーンはなかったのですが。
三國連太郎氏、遺作からひとつ前の出演作のようです。

大鹿村騒動記【DVD】
原田芳雄
TOEI COMPANY,LTD.(TOE)(D)


「大鹿村騒動記」
2011年/日本/93分
監督:阪本順治
出演:原田芳雄、大楠道代、岸部一徳、松たか子、佐藤浩市、三國連太郎、瑛太、石橋蓮司
郷土性★★★★★
ユーモア度★★★★☆
満足度★★★★☆

「街場の五輪論」 内田樹・小田嶋隆・平川克美

2016年08月02日 | 本(解説)
それでも東京でやるの???

街場の五輪論 (朝日文庫)
内田 樹,小田嶋 隆,平川 克美
朝日新聞出版


* * * * * * * * * *

東京五輪招致成功から3年。
アベノミクスが失敗と言われるなか、
成長戦略としての五輪開催は破綻している。
新競技場建設、膨れ上がる費用など問題山積のまま。
開催万歳の同調圧力に屈しない痛快座談会に、
最新語り下ろし鼎談を加えての文庫化。


* * * * * * * * * *

まもなくリオ五輪開催。
しかし、盛り上がるというよりも懸念材料が多すぎて、なんだか不安。
そう思うと2020年の東京五輪はどうなんだろう・・・
というタイミングで出た本です。
が、実際は2014年に単行本として出たもので、
東京五輪開催が決まった直後の鼎談。


その頃、私もあれ?と思ったのですが、
それまで、オリンピックの東京招致は、
割と反対というか、積極的ではない意見が多かったように思うのです。
ところが、東京開催が決定した途端、誰もが歓迎し始めた・・・。
と言うか、マスコミで批判意見が全然出なかったというべきなのでしょう。
そのことをこの3人は、「おかしい」と、
世間の風潮にあえて苦言を呈しているのです。


あの時、滝川クリステルさんの「おもてなし」の言葉が、
流行語大賞に載るくらいに受けたのですが、
実のところなんだか面映ゆく感じたのは私だけではないのではないかと思います。
「おもてなし」ねえ。
なんだか欧米人が日本に抱く『フジヤマ、ゲイシャ』のイメージそのままで、
気持ち悪い。
首相の「放射能は完全に管理されている」などというウソ八百のこととか、
オリンピック開催は金儲けのためとしか思えないこと、
そしてこの当時まだ問題になっていなかった、
バカバカしいほどに巨大で巨額を要しそうな国立競技場のことなど・・・
3名がバッサ・バッサと東京五輪を斬って行きます。


その後もエンブレムのこととか、賄賂のこととか、問題続出。
私は前のエンブレムのほうがやっぱり好きだな。
少しくらいのいちゃもんなんか強硬に突破できなかったのでしょうか。
そして、肝心の東京都知事はその時点から数えて3人目・・・。
もう、この際返上したほうが良いのでは・・・と思ってしまいます。
が、そんなことを言うのはタブーなんでしょうね・・・。
私もこれ以上はもう、やめておこう・・・。


「街場の五輪論」 内田樹・小田嶋隆・平川克美 朝日文庫
満足度★★★★☆


シン・ゴジラ

2016年08月01日 | 映画(さ行)
ニッポンの夏、ニッポンのゴジラ



* * * * * * * * * *

このテの作品はもう見ない、などと言いながら見てしまうというのは、
やはりこれが「ゴジラ」だから。
子供の頃から見ているゴジラには、
多分多くの同年配の方がそうであるように、ただならぬ思い入れがあります。
少し前にハリウッド版の「ゴジラ」も見たけれど、
この度本作を見て、ああやっぱりこれがホンモノの「ゴジラ」、
日本の「ゴジラ」だと思いました。
しかも監督が庵野秀明さんというのが、いかにも期待を誘います。



特にストーリーと言うべきほどのものはないんですよ。
突如東京湾に出現した巨大生物。
けれど、いきなり上陸したそれは、私たちの知ってるゴジラとは姿が違う。
なんとゴジラは、生きながら「進化」するという恐るべき生物だった・・・。
(でもなんだかこの幼生ともいうべきゴジラは、ちょっと可愛らしかったりします・・・。)



本作はこのゴジラのもたらす未曾有の災害に、
日本政府がどのように対処するか、つまりそういう作品なのです。
始めは海底のトンネルが崩れ、海底火山の活動の活性化?などと思われていた。
けれど、内閣官房副長官・矢口(長谷川博己)は、SNSに投稿された動画などから
「これは何か巨大生物なのでは?」というのですが、
他のお偉いさんたちは全く取り合いません。
けれど、そんな最中にすぐ、TVに謎の巨大生物の姿が映しだされるのです。
また、その直後には
「この生物は上陸すると自分の重さで潰れてしまうので、上陸する可能性はない」
などと有識者と称する人々が断言したのですが、
その直後に、ゴジラは安々と上陸してしまう。



既存の政府の見通しの甘さ、危機管理能力の希薄さがくっきりと浮かび上がります。
そうこうするうちに、またゴジラは姿を変え、
私たちの知っている立派なゴジラに!!
そして、当初から自分の疑問を堂々と口にしていた矢口が
対策組織のトップに抜擢されるというわけ。


この時に矢口のもとに集められたメンバーが、
様々な組織・部署の「変わり種」であり「余されもの」と言われた人たちだというのには、
ニンマリさせられました。
こんな非常識な生物には常識人では対応できないと・・・。
日頃お金儲けか自分の出世しか考えられない人には、対処不能、というのがいいですよねー。



それにしても、強いぞ、ゴジラ。
初めて「防衛」のために実際に武器を使用する自衛隊。
しかしその自衛隊の銃弾もミサイルも物ともしない。
この辺りはちょっぴりゴジラに味方してしまうゴジラファンなのであります。
とすればこれはやはり、核の力を借りなければならないのか?
しかし、日本に3度めの核弾頭が落とされるのには何としても抵抗がある。
第一それでは首都壊滅だ。
安保条約に基づき、着々と核弾頭の準備をすすめるアメリカに対して、
矢口らは、独自の対処方法を進めるが・・・。


政治家の思惑やら、様々な研究者の矜持、
核のために出現したゴジラにやはり核を使うのかという矛盾、
自衛隊のこと、安保のこと・・・
う~ん、面白いなあ・・・!!
本作は大人のためのゴジラ作品ですね。
子供にはちょっと退屈かもしれない。



本作、キャストが総勢328名という豪華版。
知っている俳優さんを見つける楽しみもあります。
斎藤工、ピエール瀧、片桐はいり、古田新太・・・ほんのちょこっとづつなんですけどね。
犬童一心監督が古代生物学者役で出演しているのもオドロキ。
そして、本作のゴジラはモーションキャプチャーによるフルCGだそうなのですが、
なんとそのモーションキャプチャーを務めたのが野村萬斎さん。
これぞ日本の伝統的「ゴジラ」だなあ・・・! 
もはや芸術。
(って、実際、美術館で「ゴジラ展」が催されたりするようです。)


おまけ
本作を見た後、チカホを歩いていたら、
ゴジラがいました!!



「シン・ゴジラ」
2016年/日本/120分
監督・脚本:庵野秀明
出演:長谷川博己、竹野内豊、石原さとみ、市川実日子、高良健吾

日本の危機管理を考える度★★★★☆
ゴジラ度★★★★★
満足度★★★★☆