ほいっ、しまった!寝坊したぜ。6時集合で河川清掃だったのに、ありゃりゃ7時前!ヤバいぜ、ヤバい。大慌てて跳び起きて、草刈り機に油入れて、現場へ直行。もう、みんな作業終わる頃だ。仕方ねえ、ここから1時間、一人で頑張るから勘弁してくれよ。一言遅刻を詫びてから作業に入るか、ええい、いいさ、嘘偽りなく働けばみんなもわかってくれるさ。なんたって、ここまで20年以上、河川清掃は皆勤賞、それも一番の働き手だからな、俺がずるするなんて誰も思やしないさ。
そうなんだ、この70過ぎのジイサンが集落トップの労働力なんだぜ。まっ、日ごろ鍛えてるからね、って威張るなよ。それよか、他のメンバーみなさらに高齢、病弱、女たちってことが大きい。若いのいないのか?いや、いないわけじゃない。が、出てこない。なんだって息子たち出さねえんだ、って、うちは息子同居してねえから偉そうにゃ言えないんだけどな、他人の家にはそれなりの事情もあるんだろう。年寄りも動けるうちはせいぜい地域の活動は引き受ける、ってことさ、きっと。
河川清掃、なんてお題目掲げちゃいるが、河川敷なんて鬱蒼とした密林!?
とてもじゃないが、歯向かえる相手じゃない。数年前まではそれでも、水面が覗けたりしてんだが、今年は繁る樹木や雑草に覆われてまったく見えない。ただ、最近の雨の多さからすれば、その樹木の下をかなりの水量で流れている、はずなのだ。川床がこんな有様で、もし九州や中国地方のような豪雨に襲われたら、増水、氾濫間違いなしだろうな。おっかねえ話しさ。
少しでも住民の手で、川をきれいに保って環境保全のお役に立ちましょう、って意図で始まったんだろうが、もはや、今では、アリバイ作りに過ぎんのさ。はい、地域環境、自分たちも力を出しましたよ、ってな。だって、ほとんど無意味なんだから。草刈り機使ったところで、できるのはせいぜい土手の草刈り程度。それも一人で100メートルも進めれば大したもんなんだ。そう、凄まじい繁茂の仕方だかね。
葦の林、ヨモギの森、そこに野茨や葛や名も知れぬつる草らが絡み付き、もはや人を寄せ付けぬ砦のような具合なのだ。葦などはしっかりしているので、根元からばっさばっさ刈れるが、野茨や葛絡みのヨモギとなると、株元一気に切断!ってわけにゃいかんのだぜ。草刈り機の回転刃を持ち上げて、つるをぶった切る。何度か振るって絡まるつたやつるを切り取って、やっと、株元を刈り取れる。こんなひどい労苦の連続なんだ。捗るわけがない。
昔、まだこんなに荒らしてなかった頃、集まる人手が若かった頃、割り当て地域はほぼ完全に刈り終えることができた。そんな頃があったなんて、夢だな。一人、100メートルが精いっぱい、それも元気な俺くらい。あとは、・・・・
こうやって、地域が自然の底力に圧倒されて、草に埋もれ、樹々に覆い尽くされて、過疎地になって行くんだろう。昔は橋の下が淀みになっててなぁ、よく泳いだり魚つかまえたりしたもんださぁ、って回顧話しだって、いつかかき消されて行くのだろうな。それが、美しい日本の現実なんだぜ。