越えれば福島県飯坂、中ノ沢峠。かつては、置賜地方にはこの山道を越えて人が行き来した。福島から米沢に抜ける栗子の国道が整備されたあとも、ここに二つ目の往還道路を!って地域上げて運動してきた。が、結局二井宿に負けた。で、今じゃ廃道?なんのなんの、今も未練たらしく、おっと違った執念深く、いやこれも違う、地道に息長くこの峠道を守る活動が続いている。毎夏、この山道を地域の子どもたちが登ってるんだ。
子どもたちが安心して通れるように山道の整備、こりゃ大人たちの義務だろ。集落公民館の役員ってこともあって、今年も声がかかった。研修とか名目立てちゃ酒飲みしてるよりよっぽどましだぜ。そう、こういう活動なら進んで、ってほどじゃないが、嫌とは言わないのさ。
集まったのはこの地域の集落公民館の役員たち18名。うち元気のいい若い衆、と言っても全員60歳超、8人が山道整備係だ。もちろん、俺も元気組だぜ。山歩きは嫌いじゃないしな。トレーニングにもなる。2年前と比べて、どんだけ衰えたかの定点観測にもなるじゃないか。
登山口までは、3台の軽トラックに分乗、赤松の林、杉林と過ぎて行く。途中、皮を剥がれた杉の木が何本も!そうさ、熊のいたずらだ。ここはもう完全に彼らの領分ってことなのさ。登山口から早くも道を覆い尽くす雑草との闘い。8人が、距離をとって、草刈り機械を振り回しつつ登って行く。砂防堰堤まではそれなりに歩きやすいが、すぐに沢沿いに入り、川を渡り戻りつしつつの藪道だ。沢を高まく個所などは土が削られていて、こりゃ子どもたちにゃ危ねえな、って思った瞬間、足を滑らせた。沢に向けてずり落ちること数メートル!や、やべえぞ、列の最後だ。誰も気づかない。良かったって思う反面、一人で攀じ登れるか?不安になる。泡食って斜面の草を掴むが、すっぽり!抜けた。落ち葉の積もった地面につま先を蹴り込んで踏ん張るもずるり!その間、草刈り機の刃は回転しっぱなし。こ、こいつをまず外さねば、いや、運転を止めるか?だがな、こいつ厄介者で、一度エンジン停止すると、次、掛かりにくいんだった。うーん、機械はそのまま、なんとかこのアリジゴク的斜面から這い上がらねば。助けを呼ぶ?そんなことできるわけなかろうが、元気組だぜ。何度も夢中でよじ登ろうとして、こりゃやっぱり無理だ。まず、草刈り機を外して、道に押し上げ、次に身一つ這いがることにしよう。もがけばもがくほど、ずり落ちて行く急斜面!必死になって手掛かり、足掛かりをさぐって、ようやく山道に這い上がった。やれやれ、脚力は落ちちゃいないが、バランス感覚が低下してるってことだ。それが2年間の老化の中身。ジイサン、自覚しろ!
小一時間、道の両側の草を刈りつつ登って、最初の休憩。ここでようやく1/3、と聞いて初めての人たちはかなりがっくり。たしか、2年前も同じ会話あったな。そうやって、経験者は優越感に浸るんだ。
さぁ、ここからは本格的な登山道だ。沢から離れ、ぶな林帯に入る。稜線の腹を九十九折で高度を稼ぎつつ、奥へ奥へ。いつも身近に見ている山容だが、けっこう懐が深い。水辺から離れたことで、登山道はすっきりと道筋がたどれる。しばし、機械を止めてただただ歩く。登る。
機械を動かしたり、止めたり、低速回転で進んだり、しながら、水場に到着、ここで2度目の休憩。この先、も一度草の生い茂る急坂があって、最後は頂上直下の急登、15分!うむ?この登り、キツイ!ふくらはぎに来る。2年前もこんなに苦しかったか?これも衰えか?ええーいっ、止まるもんか!休むもんか!フルマラソンのラスト5キロよりはよっぽど楽だぜ。と、歩き続けて、ついに到着!峠のてっぺんまで1時間半の草刈り行脚だった。
道はさらに豪志山へと続くが、この先は山の会の人たちの領分、我ら公民館組は、長い休憩の後、下山だ。昨夜の雨で、道滑り易いから気ぃつけんとな、って言い交すそばから、またもや、転落!今度は石に乗せた足がものの見事につるり、うそっ!グリップできると思ったぜ。もしかして、俺の長靴、滑り易いんか?などとものの所為にしつつ、今度は、ご同行の人らに助けられて、脱出できた。ああ、見っともね!颯爽と走り下るんじゃなかったのかよ。たしかに、滑ったり、段差踏み間違えした時、持ちこたえる力が落ちたな。いつまでも若い気してんじゃねえよ、ってことだ。
下りはわずか40分、でも、草刈りしつつの登りより長く感じた。熱中しつつの登攀てのは短く感じるもんなんだな、とお仲間たち。2度目の草刈り登山、なんとか今年も無事?終えることができた。
これで、子どもたちの伝統行事も繋がったってことだ。お役に立てて良かった。二の腕と脛の擦り傷?なんの、そんなもん、大したこっちゃねえぜ。さっ、午後から農作業、何すっかなぁ?って、疲れ果ててるくせに。