水持先生の顧問日誌

我が部の顧問、水持先生による日誌です。

おもへらく

2010年04月23日 | 国語のお勉強(古文)
 「以A為B=Aを以てBと為す」は一つの句法としてあつかわれるが、「以」は前置詞、前置詞句はVの前に置かれるの原則をまず確認して教える。

 「Aを以てBと為す」は「AについてBだと思う・みなす」という意味です。
  吾以景子為美麗「私は景子をきれいだなと思った。」

 Aについて述べていることが明白な場合、Aが省略され「以てBと為す」になる。
「以V」の形のとき「以」は訳に出さなくていいので、この場合「Bだと思う・みなす」と訳せばいいです。

  吾欲観花之後「花のあと観に行きたいよね」
  北川景子出演也「北川景子のやつね」
  以為美麗「まじかわいくね?」 
 
 いっそ返り点もつけずに「以為」をセットにして「おもへらく=思っていること」と読んでしまおう、となって成立したのが「以為へらく(おもへらく)」という読みです。
 この「~く」は「曰く(いはく)」の「く」と同じ。
 「いふ」に「あく」という古代の名詞がくっついて「いふあく」→「いはく」となった。
 「のたまふ」に「あく」がついたのが「のたまはく」です。
 じゃあ、「おもへらく」は何+「あく」ですか?
 と聞くと、だいたい「思ふ+あく」と答えてくれる。
 おしいなあ、ちょっとたりない。
 でも「思ふ」に「あく」がついた言葉もあるよ。
 「思ふ」+「あく」は「思はく」。
 あいつの「おもわく」がわかんないって言うのは、こうやってできたことばです。
 「思っていること」の意味なので、「思惑」というのは当字ですね。
 他にもあります。
 「おそらく」は「おそる」+「あく」。
 「願はく」は「願ふ」+「あく」。
 じゃあ、「おもへらく」は?
 そうですね、「おもへる」+「あく」。
 「おもへる」の「る」は古文の時間に勉強したね、完了・存続の「り」です。
 何形? 名詞「あく」につながっているのだから、連体形でいいよね。
 なので、「以為へらく」は「思っていることは」となります。
 
 と、今週何回か教えていて、ふと疑問に思ったことがある。
 「すべからく~べし」という言い方。
 「すべからく」も「すべかる」+「あく」だろうと思われる。
 「すべかる」はサ変動詞「す」+当然の助動詞「べし」の連体形「べかる」。
 でも、名詞「あく」に接続させるなら普通は「べき」だから、本来「すべき」+「あく」になるはず。
 「すべかく?」そうか、これだと言いにくいから、補助活用の方を用いたのであろう。

 意味は「するべきこと(は)」となる。
 なら「べし」を最後につける必要はあるのだろうか。
 「いはく~と」「おもへらく~と」のように「と」ではだめなのか?

 呉智英先生が、「すべからく」の誤用について何回も述べられている。
 「すべからく」を「すべて」の意味で用いている人がたくさんいる、しかも文化人、知識人に多い、と。
 「すべからく」は「すべからく~べし」と呼応してはじめて意味をなす。
 「すべて」をかっこつけて「すべからく」なんて用いる人の知性はたかがしれてると、よく批判されていた。
 それを読んで以来、たまにそんな文章をみかけるたびに、「ああ、この先生も残念」と思っていた。

 「すべて」の意味で「すべからく」を用いるのは論外としても、「すべからく」の結びに「べし」がなくてもいいような気がしてきた。
 文の座りは悪いけど。
コメント
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